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Ken doc. 犬と猫のブログ

当院での症例や出来事等何でも言っちゃう暴露ページです。自分勝手なブログのためご意見等にはお答えできませんのであしからず。

「腸重積(ちょうじゅうせき)」という病気

2011-10-10 09:01:44 | 症例報告
2011年10月10日



今回の症例は8か月のラブラドール・レトリバーの男の子。


来院前日の昼からずーっと吐いていて、全く元気がないとのことでご来院されました。



今朝からは食欲も無く、水を飲んでも吐く。


今朝出たうんちは普通とのことだった。



確かに全く元気がない。



実は調子の悪くなる日の午前中にフィラリア予防でご来院されていました。

その時は過ぎるほどの元気さでした。


目の前にいる子は、その時とは全く別犬のよう。


たった一日でこうも変わるものかと思えるくらいでした。



とにかく一刻も早く、原因究明のための検査と治療のため、即入院ということになりました。



入院当初のこの子です。





「もうダメ。なんとかして・・・」って感じ。




触診にて下腹部(小腸内?)に卵大の腹腔内異物を触知。



腹部エコー検査でも卵大の小腸内異物を確認。


結果として、その日の内に即入院⇒即手術ということになりました。




術前の血液検査では血中カリウム濃度の低下はややあったが、血液凝固機能検査も問題なかった。


この結果を受け、静脈輸液の準備のため、輸液ラインを確保して、直ぐ手術という運びなりました。



今回の手術チームは5人。

手術助手に桑原先生。
オペ看兼器具出しに松村動物看護士。
麻酔医に池田先生。
外回りに島田動物看護士。
執刀は私が行いました。



まず処置室で麻酔導入と腹部の毛刈り、尿道カテーテルを留置します。




その後、ヨードスクラブで一次消毒を行い、手術室へ搬送します。


手術開始です。






開腹して間もなくしてチームみんなが唖然。

目を疑いたくなるような見事な腸重積。



腸重積とは腸管がアコーディオンのように縮こまってしまった状態のことをいう。

激しい腹痛と消化管運動の低下で機能的イレウス(閉塞)状態になる。




開始部位は十二指腸上行脚で、終わりは・・・えーっと・・・盲腸近位まで・・・。



・・・ってほぼ小腸全部じゃねーか!!!



これ全てを切除し、腸管端々吻合では、回復が順調でも将来消化機能障害が出る。



このケースは短絡的に切除してはダメだ。


さてどうする・・・。


何とかゆっくり解いてみて、全くダメになった腸管のみの切除にして、切除する腸管を最小限に出来ないものか。


ただこの方法だと手術時間が通常の2倍以上かかる


トライしてみたはいいけど、結局出来ませんでしたで、いたずらに手術時間を延ばすだけにならないだろうか・・・とも考えました。




でも今8か月の男の子の今後の長い将来を考えると、やはり後遺症が強く残るのは、見ていられない。



やはり可能性に掛けてみるしかないか・・・。



あれこれ考えた挙句、少しずつ腸管を解いていくことにした。



腸重積の腸管は非常に脆く、今にも穴が開きそうなくらい。


出来ればあまりゴニョゴニョと触りたくないのが本音。



触らずに解けたら言うことないのだが・・・。



30分以上かけて全長を解くのに成功。

解き終わった直後の小腸の一部です。





手前に重度のうっ血と小腸の変色が認められます。




だいぶ腸内ガスで小腸は膨張してしまっています。






解いているうちに少しずつ腸管の色が良くなって来ています。



どうやら原因の発端は紐状異物のようです。


術前検査での卵大の異物も小腸内で見つかった。



この紐状異物は卵大の小腸内異物とも連続しており、始まりは胃内からある感じ。



果たして、この小腸の全長に渡ってある紐状異物を一部の腸管切除や切開だけで摘出できるのだろうか?



っん?待てよ?もしかして胃内から内視鏡で摘出出来ないだろうか?



「桑原先生。私が内視鏡で胃内からアプローチしてみるので、腸管の外側から少しずつ、胃の方へ異物を押し戻してみてくれないだろうか?うまく行けば、一ケ所も腸管を切らなくて済むかもしれない。」


「分かりました。やってみます。」


「松村さん。手を汚して(滅菌解除してという意味)内視鏡の準備をして下さい。」



直ぐに開腹アシスト下内視鏡摘出術を行うことになりました。


当院の内視鏡はOLYMPUS社製「LUCERA」。





人の医療でも使用されている機種で、OLYMPUSでは上位機種。



人医療用の内視鏡の方が汎用性が高く、高性能・高精細で、動物用のものよりも色々な面で優れている点が多い。

内視鏡の購入をご検討されている先生には、少し頑張ってこの機種を購入されることをオススメします。


宣伝はこのくらいにして、続きです。



胃内の所見です。



っん?大分胃液があるね・・・っということで胃液を少し吸引してみる。



なにコレ?モップ?


紐状異物はこれが始まりか?



だとしたらエライことになったな・・・。



こんなところから始まりで小腸全長の紐状異物では、ここから単純に引っ張っただけでは抜けてこないな。


下手したら腸管破けるなあ・・・。


「桑原先生。少しずつ内視鏡のカンシで引っ張ってみるので、そちらからも手繰ってみてくれるか?無理は行かんぞ。脆いので腸管破ける。息を合わせるのが大切だと思うから、少しずつ無理せず、声を掛けて行こう。」


まず少しずつ胃内のものから拾ってみる。左程の抵抗感も無く、断片的に千切れて取れて、千切れては取れて・・・。


最終的に胃の出口(幽門)から顔を覗かせているものだけになった。



またこれが非常に厄介だった。



抵抗感が強く、普通に引っ張るだけではどうしても抜けない。

これが盲腸近くまで続く本丸だな。



桑原先生と息を合わせるように数ミリ単位で引き抜いていく。

30分以上格闘した末、ようやく全ての紐状異物の摘出に成功。



しかも腸管を一ケ所も切らずに・・・。





胃の中もすっかり空っぽになりました。



食道は全くキレイ。キズ一つない。



ただ異物が詰まっていた十二指腸だけはかなりのダメージを受けていた。



でも若いので回復も早かろう。



摘出された紐状異物です。





最後に、腸管全てに穿孔部位が無いか、また腹腔内に腸管以外の異常が無いかなど、じっくり調べ、問題ないことを確認。



閉腹し、終了としました。


延べ2時間8分の大手術でした。


解いているうちに腸管の色が回復してきたところから、まだ血行はしっかり生きていて、蘇生しそうだと判断。


時間はかかったが、最高の結果に安堵しました。



これならお腹を切って、また縫っただけなので、明日から飲食も出来るだろうし、回復も早く、後遺症も無いだろう。



本当に良かった。



今回の主人公はこのジョン君。





術後確認したところ、あれはロープのおもちゃであったことが判明。

もう一頭の同居犬と引っ張り合って遊んでいたとのこと。



「まさか食べるとは・・・。」と飼主様も絶句。



術前のレントゲン検査や血液検査では特徴となる異常が認められなかった。



消化管内異物でもこのような異物では、如何に腹部エコー検査が重要で、レントゲン検査や血液検査が無力かがはっきりと分かる症例でした。



発見から決断までが早かったので、腸管も温存出来て、結果的に手術ストレスの少ない手術が出来たことが何よりの成果でした。



なんとこのジョン君。手術後2日目で退院。



理由は元気過ぎて、入院ケージの中でジッとしていられない。



飼主のみなさまへ

ロープのおもちゃ等、紐状異物は十分気を付けて下さい。




文責:佐羽


血管周皮腫(けっかんしゅうひしゅ)という腫瘍

2011-08-13 18:48:08 | 症例報告
2011年8月13日




今回のわんちゃんはジャックラッセルテリア5歳の女の子。

先月の中旬に右大腿部にピンポン玉大のできものがあるということで来院されました。

こんな感じ。





触ってみるとやや硬さもあってしっかりとしている。

皮膚のへの癒着はなさそうだけど、底部は微妙だな。

触るだけで分かれば苦労はしないのが腫瘍。

ただこの充実感と底部マージン(注1)の微妙さが怪しい・・・。

(注1)マージン(Margin)
 英語で直訳すると「空白・余白」を意味するが、医学用語としては腫瘍外科でいう腫瘍細胞が存在しない腫瘍塊の外側の領域をいう。特に悪性腫瘍の場合、en bloc(一塊)で取ることが最も重要で、病理検査にて切除した腫瘍塊の周囲で腫瘍組織が検出されない場合をMargin free(切除塊辺縁に腫瘍細胞なし)という。触診で組織の境界が明確に判別できない場合は、腫瘍塊の広がり(浸潤性)が強いと判断し、悪性腫瘍の所見の1つとして捉える場合がある。当然のことですが、切除後の腫瘍塊にて組織検査でMargin freeであるか否かによって予後が変わることは言うまでもありません。


飼主と相談して、しっかりと調べてみることとした。

まずはスクリーニング検査(注2)細胞診(注3)を行いました。

(注2)スクリーニング検査
 前回のブログ記事を見てください。

(注3)細胞診
 読んで字のごとく「細胞を診る」こと。この後に出てくる(ファイン)ニードルバイオプシー(FNB)<針生検>といって、注射器のポンプの先に注射針を付けて、その針を腫瘍塊に刺してポンプを吸引し、針の中に入ってきた腫瘍細胞をスライドガラスに展ばし、染色して、その細胞塊を顕微鏡にて調べる検査手法。病理検査をするには外注検査になるため時間と費用がかかるが、この検査は病院内で出来て、時間も数10分とかからない。しかも安価。一部の腫瘍細胞を除き、確定診断をこの検査のみで行うのは困難ですが、どちらかというと悪性かな?良性かな?という見当をつけるには非常に有用な検査。悪性が疑われる場合は、更なる検査として腫瘍の部分切除(切除生検やtru-cut biopsy<もっと太い筒状の針で円筒状に組織を抜きとる手法>)を行い、病理検査に送り、確定診断を得る。

採取した細胞塊を染色してみた。



円形の一個一個が細胞です。

その中に濃い紫色のいろいろな形、大きさのものが細胞の核です。

細胞診では細胞の形、色、核の形状、他の細胞との異型性(異なり具合)を診ます。形や大きさがバラバラであるほど異型性は強いと診断します。

悪性度の判定をする際にこの異型性を1つの判断材料にします。異型性が強いほど悪性が疑われます。

この標本では中等度の異型性を認めます。

したがって部分切除を行い、病理検査に出してみて、より詳細な情報を得る方向で行くことにしました。

今回はCOOK社製のtru-cut針を用いて生検を行うことにしました。



この器具は腫瘍塊に穿刺してから組織採取までが手元のボタン1つで行えるのでとても簡単便利!!!。

使用する頻度の高い器具の1つで、私のお気に入り。

Tru-cutが苦手な先生にはコレとってもいいですよ。
是非一度お試しあれ!!!

今回、病理検査をお願いしたのはPATHO LABO(パソラボ)さん。

外部検査機関にはあまり似つかわしくないオシャレな社名。


診断が丁寧で、しかもスピーディー!!!

採取後4日目で診断が出ました。

結果は「軟部組織肉腫(なんぶそしきにくしゅ)」。

悪性所見ということですが、何とも歯切れの悪い結果。

軟部組織由来の悪性腫瘍ということだが、そんなこと言ったら殆どの体表腫瘤はみんなそうじゃん・・・って思う。

う~ん・・・あまり参考にならんなぁ~・・・。

En blocで取って、ホールで見てみないと分からないということか・・・。



飼主には非常に残念な結果でしたが、悪性腫瘍であることはほぼ間違いなさそうです。

っということで、悪性以外の正体は不明ですが、この情報だけでもありがたい。

近日中に拡大根治手術を行うこととしました。



血液検査の結果も異常なく、血液凝固機能検査もクリア。

術前のレントゲン検査、腹部エコー検査でも転移を匂わせる所見なし。




初診から13日目で手術を行うことになりました。


今回のチームは4人。

助手兼器具出しに松村動物看護士。

麻酔医に池田先生。

外回りに島田動物看護士。

執刀は私、佐羽が担当いたしました。

術前の外貌所見です。





手術切除範囲を決めます。






では手術開始です。



腫瘍辺縁の組織の剥離を進めて行くと検診時の触診所見通り、深部方向のマージンが取りにくく、筋膜直上まで浸潤性がありそう・・・。


筋膜1枚分マージン確保しないとダメかな・・・。



SonoSurgにて筋膜まで剥離することにしました。



切除後の術野です。



広範囲切除であるため、創面皮膚縫合の緊張がかからないように減張縫合を行いました。



1-0ナイロンで一針ずつ丁寧に糸をかけていきます。

一通り創部に糸をかけ終わったら、助手と一緒に創部を寄せるように2糸ずつ縛っていきます。



減張縫合の完成です。



創部は寄っていますが、まだピッタリとはついていません。

ですから更に合成吸収糸(4‐0PDSⅡ)で皮下組織を縫合し、3‐0ナイロン糸で皮膚縫合を行いました。

手術終了時です。



摘出した腫瘍塊です。






減張縫合糸は一週間程で抜糸を行います。

皮膚創面の縫合は更に7‐10日後に行います。


手術翌日に無事退院されましたが、術後6日目に術後膵炎で再入院されました。

更に4日間追加入院され、元気になって退院されました。

その後の経過は順調です。

抜糸も済んで、患部の状態も良好です。



病理検査の結果ですが、「血管周皮腫」という悪性腫瘍でした。

病理検査所見です。



紡錘形の非上皮性細胞の腫瘍性増殖をしています。渦巻き状構造(写真右下)をしているのも、この腫瘍の特徴です。


マージン(-)で脈管内浸潤がなかったのが救いでした。

この腫瘍は遠隔転移率5%とそれほど高くありませんが、再発率は20%とやや高く、核分裂指数(簡単に言うと少なければ少ないほど悪性度が低い)によって生存期間が異なる悪性腫瘍です。

核分裂指数が9未満での生存期間中央値(一番多い生存期間)は129週間で約3年、9以上だと44週間で1年未満とのこと。

このワンちゃんは「6」でしたので、比較的生存率は高い方には入ります。

ただこの腫瘍は、遠隔転移は抗がん剤でも多少効果のある治療法があっても、局所再発をコントロールできる有効な治療法が放射線治療以外、殆どないのが難点と言えます。

飼い主の希望もあって、抗がん剤などの化学療法は行わないということになりました。



現在、術後7週間が経過しましたが、局所再発も無く順調です。

今回の手術が拡大根治手術となることをただ祈るのみでした。




文責:佐羽


ガム食べて食道閉塞

2011-06-22 00:19:54 | 症例報告
2011年6月22日




今回の症例は、ガムを食べて食道閉塞を起こし、内視鏡下で摘出を行ったポメラニアン3才の男の子です。


6月7日の午後、急に元気がなく、おう吐を繰り返すとご来院されました。

診察上は腹部痛もなさそうだし、異物誤食の覚えもないとのこと。


外見上は右眼に軽度の結膜下出血が認められた。



あとは今朝7時にガムを与えたことだけ・・・。



「右眼眼球結膜下出血があるね。どこか頭でも打ったか?」

「いえ、そんな話は聞いてませんが・・・」



外来診察だけでは情報が乏しいので、スクリーニング検査(注1)を行うことにしました。

(注1) スクリーニング検査
あまり体の負担にならず、安価な検査を行い、その結果を手掛かりとしていく検査手法。血液検査やレントゲン検査等がそれにあたります。情報が少ない時や診察だけでは診断が難しい場合などにまず先に行い、その手掛かりとします。動物診療の場合、その正誤に関わらず飼い主からの情報が便りで、かつそれに左右されることが多い。なのでヒトの医療の場合と異なり、本人から問診ができない動物診療では、このスクリーニング検査が非常に重要である場合が少なくない。だからヒトの場合よりもよくこのスクリーニング検査を行う機会が多い。私たちも犬猫診療のプロですが、見ただけではわからないこともあります。「先生はすぐ検査、検査っていう・・・。」なんて言わないでください。私たちも検査は出来るだけしない方がいいと思っています。



そこで血液検査の結果は・・・


電解質は異常なし。

血算はWBC(白血球数)が 17700でやや高め。

生化学は、なんとGPTが799U/Lで正常値の約10倍。


「GPT飛んどるなあ。何か変なものでも食べたか?」

「いえ、そんな話は聞いてませんが・・・。」



急性肝炎の疑いが出て、今回の症状もこのためかと思い始めたところで、

胸部レントゲン写真を見て


「んっ?何かあるねココ。」と桑原先生が一言。





「本当だ。食道拡張もあるねエ。何か詰まったか!? 何も食べてないんじゃなかったの?」



しばらくいろいろとやり取りをしてから・・・。



「すぐ内視鏡やろう。飼い主に連絡とって、同意もらって・・・。」

「これから・・・っですか?」


もう既に午後9時を過ぎていた。

肝臓の数値もかなり悪い。スタッフはそのことを気にかけている様子。


「そんなこと言ってもこっちも放っておけないだろう。この異物のために閉塞し、食道拡張まで起きていて、不可逆性(元に戻らなくなること)になったらどうする?それこそ一生障害を抱えることになる。リスクはあるけどやるしかなかろう。肝臓のことは後で考えよう。」




その30分後には全身麻酔下で内視鏡検査を始めていました。


今回のチームは4名。

麻酔医に桑原先生。

助手に河野主任看護師。

外回りに池田先生。

術者は私で行いました。



内視鏡検査を開始して直ぐに謎のものが画面の中に・・・。





「なんだこの白いもの・・・?」



確かに何も食べていないと言っていた。


朝のガム以外は・・・んっ?ガム?



もしかして・・・。



内視鏡には色々なカンシがあって、内視鏡の中の管を通して使用します。

今回はスネアカンシといって、柔らかいワイヤーの輪でできたカンシを使用しました。


こんな感じ。




手元のハンドルを握ると輪が閉まる。



・・・という感じで、つかんで引っ張り出す。


簡単そうですが、これが体の中で、しかも内視鏡の限られた操作の中でモニターを通してとなるとそうはいかないんです。



何回かアタックしてようやく引っ張り出すことに成功。


出てきたものを見てチームみんなが唖然。


「ようこんなもの飲み込んだね。」


見事なガム。しかもデカイ。


「水分吸って大きくなっちゃったのかな?」



摘出した後の食道はこんな感じ。





かなり炎症がヒドイ・・・。



今、取っておいて良かった。



念のため胃の中も確認しておくことにした。





フードいっぱい。





胃の中にもガムの破片があったが、小さいため消化すると見込んでそのままにした。



「んっ?まだ何かある。紙っ・・・いやもっとしっかりしたものだな。」




これも先程のスネアカンシで引っ張り出してみる。


「何だコレッ?」



出てきたのはウェットティッシュ丸ごと。



今日の収穫。





ついでに十二指腸まで確認し、最後に傷ついた食道にアルサルミン(粘膜保護剤)を散布し、終了としました。







翌日午後、無事退院されました。




4日後の再検査では、拡張していた食道も元通りでした。




問題は肝臓の数値でしたが、こちらも200台まで下がっていました。

この分ならあと数日で正常まで戻りそう。


症状も全くなく、いつも通りでした。




勉強になったのは、食道後部であれだけのものが詰まり、間欠的嘔吐が出ると、肝臓の値も簡単に上がってしまうことがあるもんなんだなあということ。



もしあの時、急性肝炎原発という診断で、麻酔のリスクを懸念して、あのタイミングで内視鏡検査を行わなかったら、はたしてあの食道は元に戻っただろうか・・・


・・・と思うとゾッとした。



あの時の決断がこの子の将来分けたなと思った。





今回の主人公はこのサンタちゃん。





首輪のチャームはドクロ。しっかりレントゲンに写っていました。





結構オシャレな男の子。

あまりムチャして飼い主を困らせないようにね。


文責:佐羽

陰部のできもの

2011-06-16 01:02:51 | 症例報告
2011年6月15日



今回は11才の女の子です。

名前はハチちゃん。





先月13日の午後に陰部から何か出ているということでご来院されました。



出ていたものは見た目キノコのようなデキモノ。

膣の粘膜にできたものが大きくなって外陰唇の外まで飛び出してきたようです。



しかもハチちゃんは現在生理中(発情出血中)。

このように未避妊のメス犬で膣腫瘤ができることが多く、発情出血時の粘膜肥厚に伴って、外側へ突出し、判明することが少なくない。



飼い主に今考えうる病因と、出てきた腫瘤は切除し、更に再発や多発を防ぐために避妊手術を行うことなど、今後の治療の流れを説明しました。


このハチちゃん。冒頭で「女の子」と説明しましたが、御年11才ですので、ヒトでいうところの60歳。

もう「女の子」というには無理がある年。

すぐにでも手術といきたいところでしたが、まず手術をするにあたって身体検査や精密検査を行う必要がありました。



身体検査は聴診を行ったり、体を色々と触ってみたりします。



当たり前のことを言うようですが、これがかなり重要なんですよ。

近頃の獣医さんは飼い主の話をよく聞かなかったり、動物をよく観察もせずに検査だけで判断をしようとしたりして、大事なところを見落とすことが多い。

「よく見る。よく聞く。」という診察に、非常に重要な手掛かりがあることが多い。



身体検査の結果、右側の第5乳腺にもシコリがあることが判明。

精密検査の結果、甲状腺機能低下症も併発していることが分かりました。

乳腺腫瘍はともかく、甲状腺機能低下についてはこのまま放っておくわけには行かず、もちろん直ぐに手術というわけにも行きません。

結果を飼い主に報告し、とりあえず緊急避難的に腫瘤を外陰唇内に戻し、外陰唇を縫合して、外部に突出しないような処置をまず行うことを伝えました。


外陰部から腫瘤が突出していると、乾燥や摩擦等で出血や感染を起こすため、出来るだけ外陰部の中に留めておくことが賢明です。


これで少しは時間が稼げるので、この間に甲状腺の治療を行うことを勧めました。




甲状腺機能低下症は甲状腺で作られるホルモンが何らかの原因でうまく作れなくなって、血液中の甲状腺ホルモン濃度が低下してしまう病気。

甲状腺ホルモンは体の様々な活動をコントロールしているので、そのバランスが崩れると「なんとなく調子が悪い」という感じの症状になる。



元気がない・食欲がない・覇気がない・動きが鈍い・ふらつく・体が冷たい・よく吐く・・・


と挙げればキリがない。



中高齢のワンちゃんは「もう歳だから・・・」の一言で獣医や飼い主から見放されてしまうことが少なくない。


本当は甲状腺機能低下症であっても・・・。


以前は中高齢のワンちゃんに多いとされていましたが、最近は2-3歳のワンちゃんで見かけることも少なくありません。

甲状腺機能低下症は年齢に関係ありません。


甲状腺機能低下症の治療は非常に簡単。

毎日お薬を飲むだけ。

しかも副作用らしきものもほとんどなく、お薬も非常に安価。


甲状腺ホルモン濃度の測定は通常、外部検査機関に依頼することが多い。

しかし当院にはこの検査を行える測定機器があるのでとっても便利。

IDEXX社製「Vet Test 8008」と「Snap Reader Series Ⅱ」です。

この2つの検査機器で甲状腺ホルモン(T4)を病院内で測定することが可能になりました。




その他にも副腎皮質ホルモン(コルチゾール)もこの機器で測定が可能です。

病院内で検査が行えるので、検査時間を短縮でき、直ぐに診断・治療が行えるようになりました。

しかもリーズナブル。



宣伝はこのくらいにして本題に戻ります。



事前のインフォームドコンセント(病気の説明や診療方法などの事前説明)にて、費用やリスクについてお話をいたしました。


「だいぶ費用がかかるけど・・・」とお話しすると

「大事な子なので先生が必要だと思うことは全部やって下さい。」とお父さん。


さすがはお父さん!!! スゴイっ!!!

この「鶴の一声」で手術の段取りが始まりました。




ハチちゃんの手術ですが、甲状腺ホルモンの治療を1週間行ってから実施することになりました。


手術当日の朝、最終的なご説明と手術説明承諾書にご署名とご捺印頂き、入院手続きを済ませ、ハチちゃんは飼い主と暫しのお別れです。




かなり不安そう・・・。




術前血液検査や静脈ラインの確保等準備を済ませ、いよいよ手術です。


今回の手術は飼い主との事前打合せで以下の3つの手術を行うことにしました。

① 会陰切開アプローチによる膣粘膜腫瘤切除術
② 卵巣子宮全摘出術
③ 第5乳腺切除による同部位乳腺腫瘍切除術


手術チームスタッフは4名。

オペ看に松村動物看護士

外回りを河野主任動物看護士


執刀医は①を私が、②と③を桑原先生で行いました。



術前の外陰部所見です。






外陰部からのアプローチでは、しめじのように有茎状になった腫瘤の根元まで確認できません。

従って、このラインで会陰切開を行い、膣深部にアプローチします。


では手術開始です。




会陰切開を行い、腫瘤の発生部を確認します。




腫瘤の根元を「SonoSurg」という超音波メスで凝固と切開を同時に行っていきます。



出血も少なく本当に便利な手術器具です。

非常にキレイに取れました。




切除完了し、膣粘膜、筋層、皮下組織、皮膚と縫合し、1つ目の無事手術終了。




摘出した腫瘤塊です。





続いて卵巣子宮全摘出術を行います。

その前に一度手術体位を変更する必要があります。

これまでの体位は通称「ジャックナイフ」といって、うつ伏せの状態でお尻を持ち上げるいわゆる痔の手術のようなスタイルで行っていましたが、卵巣子宮全摘出術と乳腺切除術は仰向けで行う必要があります。

ここで私は一度滅菌状態を解除(手術手袋を外し、非滅菌の状態になる)し、外回りの河野主任動物看護士と一緒に体位変更と次の手術の準備、術野の消毒を行いました。

再び滅菌手洗いを行い、新しい手術着に着替えるため、手術前準備室に戻ります。

この間、桑原先生は助手の松村動物看護士と一緒に卵巣子宮全摘出術を行います。




ここでも「SonoSurg」が役に立ちます。

凝固しながら切開できるため、止血用に不用意に体の中に糸を残さず、かつ非常にスピーディーに手術が行えるので、カラダにやさしく、手術時間の短縮にもなります。

摘出後、閉腹して2つ目の手術も無事終了。



摘出した子宮です。





この手術が終了する頃に私が戻ります。


最後は乳腺腫瘍切除です。

そのまま桑原先生が執刀を行います。

黒い線で囲まれた部分が切除予定範囲です。



腫瘍塊は人差し指の爪程の大きさですが、これだけ大きく切除します。

腫瘍外科の鉄則は「拡大根治手術」。

簡単にいうと「取れるだけ取る」。

しっかりと取らずに腫瘍塊を残すと再発率を高めてしまう。



切除後、術野洗浄を行い、縫合を行います。

まず切除創縫合部にテンションがかからないよう1-0ナイロン糸で減張縫合を行い、切除ラインを中央に寄せていきます。




切除ラインが十分に寄ったら、皮下組織を4-0PDSⅡで皮下組織を縫合し、スキンステイプラーと4-0ナイロン糸で閉創しました。

切除した乳腺です。



切除した組織の中央でもっこりとしているのが腫瘍です。



今回も難なく無事終了。


延べ2時55分の大手術でした。

ハチちゃんも・・・

スタッフも・・・

そして私も・・・?

みんな大変良くガンバリました。



術後3日目で無事ご退院されました。



後日、届いた病理検査の結果は、膣腫瘤は線維腫という良性腫瘍、乳腺腫瘤は低悪性度乳腺混合腫瘍ということで悪性でした。

乳腺腫瘍は切除範囲においてマージン(-)(つまり取り残しナシということ)であること、低悪性度であること、また飼主の希望もあって、術後の化学療法(抗がん剤等)は行わず、定期がん検診を行い、経過観察としました。



実は本日再診でご来院され、経過も順調で創部もとってもキレイになっていました。

これでもっと長生きが出来るとがんばった甲斐があったというもの。

甲状腺ホルモンの治療は続くけど、ハチちゃんも頑張って下さいね。


文責:佐羽




夜中の災害外科手術

2011-06-07 16:53:47 | 症例報告
2011年6月7日


今回の症例は生後4ケ月のトイプードルの男の子です。


先月の17日に急患で運ばれてきた、まだまだ幼いワンちゃんです。

この日の午後、自宅の芝刈り中に飼主に寄って来て、誤って傷つけてしまったそうです。



来院時の様子です。






患部の手当と止血処置のために毛刈りを行った後ですが、

見事に筋肉や神経、血管の走行が分からなくなってしまっているほどの重症です。



ガラス戸に突っ込んで切ってしまうケースは何度も手術を行った経験がありましたが、

ここまで挫滅創になっている症例の治療を行うのは、過去に経験したことがありませんでした。



まだ幸いだったのは、前腕骨ギリギリで骨は無傷だったこと。



ゴールデンタイム(注1)を過ぎてしまうと機能障害が残るか、最悪の場合、機能不全で断脚の可能性もある。



※注1 ゴールデンタイム
受傷後から治療を行うまでの時間経過で、非常に高い治癒確立が得られると予想される時間帯のこと。
この時間帯を過ぎると治癒確立がどんどん低下するといわれている統計的指標。
簡単に言えば早ければ早いほど治りが良いということ。




応急手当をして、直ぐ手術の準備に取り掛かることにしました。


術前の外貌写真です。







切り裂かれ、しかも挫滅創になっている各筋肉、神経を一つ一つ元に近い状態に繋ぎ合わせて行く必要があります。


技術的には決して難しいものではありませんが、正常とは程遠い状態の筋肉や神経を正常に近い状態にするには、解剖学的な知識が必要となります。


当たり前ですが、筋肉や神経はその一つ一つの役割が全く異なります。

従って間違って繋いでも全く機能しません。

このような症例で大切なのは解剖学的観察をじっくり行い、頭の中で設計図を描くことが出来るかどうか重要となります。



図面を引くことが出来れば手術はほぼ完了したのも同然。

あとはその通りに繋いでいくだけです。



ちなみに正常な状態はこんな感じ。



模式的にすると


※「Veterinary Anatomy Stanley H.Done他著」より抜粋



術野の解説をするとこんな感じ。





機能障害が残るか否かは、恐らく完全断裂している橈側手根伸筋と橈骨神経をどこまで正常に近い状態まで再建出来るのかにかかっているようです。





今夜の手術チームは4人。

第一助手は桑原先生。

オペ看に器具出し兼第二助手で松村動物看護士。

外回りに河野主任動物看護師。

執刀は私で行いました。





さあ手術開始です。





最初に挫滅創のデブリードメント(ダメになった組織を取り除く作業)を行い、

続いて3-0~5-0(注2)のPDSⅡ合成吸収糸を用いて深層部の筋肉から一つ一つ筋断端縫合を行っていきました。

※注2 縫合糸は数字が1‐0→2-0→3-0と左の数字が大きくなるほど細くなる。
     ちなみに髪の毛は6-0ぐらいかな。



橈側手根伸筋の縫合を終えたら、切断萎縮した橈骨神経を6-0PDSⅡを用いて神経断端接合縫合を行いました。


最後にペンローズドレーンを当初から予定していた筋間に設置後、浅筋膜と皮膚を縫合し、

今回も難なく無事終了。

約90分間の手術でした。










気が付けばもう深夜1時を過ぎていました。

朝方少し仮眠をとって、明日も朝から外来診察ガンバリます。




今回の主人公はこの小○郎ちゃん。




術後4日目に退院されました。



術後2週間後の患部の状態です。






若いから毛が生えてくるのも早いね。




結構元気!!!








しっかり歩けているみたい。






この分なら大丈夫だね。

良かったねっ小○郎ちゃん。

もうお父さんの庭仕事中は邪魔しちゃダメだよ。


文責:佐羽

子宮蓄膿症の重症例

2011-05-10 20:14:37 | 症例報告
2011年5月10日


久しぶりの投稿です。
ここしばらく忙しさにかまけて、サボっていました。

今回は子宮蓄膿症の重症例の報告です。


症例は5歳のシーズー犬の女の子。
当院へは今回が初めてのワンちゃんです。


主訴は一週間前から食欲が無く、2日前から下痢が続いているとのこと。

触診にて腹部緊張が強く、やや腹囲増大。
ちょっとお腹が痛そうだな。

発熱なし。
聴診上も問題なし。
可視粘膜も正常。

未避妊犬でしたので、まず子宮蓄膿症を疑い、診察中にその場で腹部エコー検査を実施しました。



お腹の中は蓄膿状態の子宮でいっぱいでした。



問診ではこの疾患でよく聴取される「多飲多尿」は無いとのこと。

開放性子宮蓄膿症(陰部から膿液が漏れ出てきている)ではなく、今回の症例のように閉塞性子宮蓄膿症の場合は、飼主が気が付かないことが多く、発見が遅れることが少なくない。

他の情報は一か月前に生理(発情出血)があったこと。



これが最終的なきっかけとなりました。

この疾患は発情出血後に認められることが多い。




即入院で治療開始です。
静脈ラインを確保し、輸液の準備をします。
抗生剤はこの輸液ラインから投与します。
敗血症に対処するため、イミペネム系を選択しました。

手術の準備と他の検査を同時にして行くことにしました。

検査の結果、胸腹部レントゲンでは特筆すべきことなし。
血液凝固検査でも異常認めず。
血液生化学、血算も問題なし。

おおっ!!結構直ぐにでも手術行けるかもと思った矢先に甲状腺ホルモン検査にて

T4=0.9μ/dl


ビミョウに低いなぁ・・・。

卵巣や子宮等の生殖器の病気や腹部にかなりの不快感や痛みなどのストレスの多い疾患では、この甲状腺ホルモンの血中濃度の低下が認められることが意外と少なくない。このような状態で手術や麻酔によって、更に身体的、精神的ストレスをかけることで甲状腺機能低下症が発症し、てんかん発作、嗜眠傾向、麻酔覚醒遅延、種々の術後合併症を起こす症例を何度も見て来た。



でも様子見ている場合では無いので、甲状腺ホルモンのプレ投与で、手術にGOサインを出しました。


執刀と助手を桑原先生と私で、麻酔管理及び外回りを河野主任動物看護士と島田動物看護士の計4人のチームで行いました。




手術を開始して数分も経たないうちにチームのみんなが唖然。



お腹の中に既に膿が出ている・・・。




本当に微量だが、間違いなくこれは子宮から出た膿液だと直ぐに分かった。


「おいっ!!どこからだ!!!」

よく探してみるも明確な裂開部は見当たらない。

子宮頚管部に近いところまで子宮を引きずり出して見ると、なんと子宮頚管に近い子宮体の裏側にピンホールを発見。



腹腔内にこれ以上漏れ出ないようにしながら摘出を開始。


今回も超音波メス「SonoSurg X」が大活躍。
間膜の剥離や切開が本当にストレス無くスムーズに行えるので、非常に便利。



子宮間膜も重度の炎症。




腹腔内洗浄に使用した滅菌済生理食塩水のパックは7パック。

このようなケースはこの腹腔内洗浄を手を抜かず、シッカリしかもガッチリ、これでもかって言うぐらいやることで予後の明暗を分ける。

腸から腹膜から揉み荒いをするように洗浄し、膿をキレイさっぱりお腹の中から洗い流しました。

吸引ビンはあっと言う間に一杯になってしまたった。

手際良く閉腹し、今回も難なく無事終了。

気が付けばもう日が変わる少し前。

今日も良く頑張ってくれた優秀なチームスタッフに感謝!!!



摘出した子宮です。




ピンホールのような穿孔部位。






術後の敗血症が心配されましたが、これでもか腹腔内洗浄と抗生剤が良かったのか、2日目からガッツリご飯を食べていました。

術後の経過も順調で、5日目には無事退院されました。

若いから回復も早いですね。



3日後に検診予定です。
甲状腺機能低下症の治療は継続して行うことにしました。



ピンホールほどの穿孔だったけど、もしあの時手術を決行していなかったら、もしあの日飼主が病院へ来院されず翌日まで様子を見ていたら今頃どうなっていたか分からないなぁ・・・と考えながら退院を見送りました。


「動物の命も飼主と獣医師の決断次第という事か」としみじみと思ってしまった。


この子は本当に幸運だったな・・・。



文責:佐羽



多難な子宮蓄膿症

2011-01-31 16:39:03 | 症例報告
2011年1月17日


今日は11歳のW.コーギーのおんなの子の手術を行いました。

初診は1月5日。陰部からの出血と慢性的な下痢を主訴としてご来院されました。

初診時の腹部エコー検査所見です。




臨床所見と腹部エコー検査所見から子宮蓄膿症と診断しました。

早速手術・・・っと行きたいところでしたが、血液検査の結果を見てビックリ!

TP 3.6mg/dl
Alb 1.1mg/dl

WBC 27,800/L
T4 1.7μg/dl

WBCは白血球数、T4は甲状腺ホルモン濃度です。

WBCは通常1万台、T4は2.0以上が望ましいが、病状からして仕方なしと思いました。
注目すべきはTP(総蛋白質)とAlb(アルブミン)がかなり低い・・・。

創部が治癒するためには最低TP 5.0以上は欲しい・・・。


これでは手術が出来ない・・・。


Hct(ヘマトクリット値)は47.0%であったため貧血は無し。
成分(血漿)輸血をして一時的にでもTPを上げて手術するのかと悩みました。

しかし体重15kgのワンちゃんに乾燥血漿を使用するとなると、この蛋白量で術前術後に一体何本使えば足りるのだろう。

これでは幾らお金があっても足らない・・・。


飼主様の経済的負担が大き過ぎる。


飼主様と約30分の協議の結果、慢性的な下痢の治療を優先して行い、手術を延期することになりました。

・比較的症状が軽く、蓄膿の程度も少量であること。

・慢性的な下痢の治療と合わせて、甲状腺機能低下症の治療も併せて行えること。

以上の点からそう判断して頂きました。

慢性的な下痢、甲状腺機能低下症、子宮蓄膿症に対する内科的対症治療を行い、1月17日にようやく手術までこぎ着けました。

手術当日の術前検査の結果です。
TP 6.0mg/dl
Alb 1.8mg/dl
T4 3.1μg/dl
WBC 44,200/L

WBCはかなり増加しましたが、他は別の犬のようになりました。
全身状態も非常に良くなりました。
血液生化学、血液凝固機能にも異常無く、臨床症状は全くありません。
エコー所見上も初診時と殆ど変わりません。


よく12日間でここまで良くなったね。先生ビックリ!!!


手術開始です。



開腹時の術中所見です。



エコー所見通り、蓄膿の程度は軽度でした。
穿孔も癒着も無く、漿膜面の菲薄も無く、手術は順調に進めました。

手術時間約50分の手術でしたが大成功でした。


摘出後の子宮です。




術後経過での血液検査結果も問題ありませんでした。


先に既往症の治療をしておいて本当に良かったと心から思いました。


実はこのワンちゃん開腹手術をするのはこれで3回目。

過去2回は膀胱結石でした。

もうお腹開けなくて済むようにしたいですね。


文責:佐羽

多難な膀胱結石手術

2011-01-31 12:03:12 | 症例報告
2011年1月15日

今日は6歳チワワの女の子の膀胱結石の手術をしました。
この子は僧房弁閉鎖不全症という心不全を患っていましたので、手術をするにも細心の注意を払って行う必要がありました。
1日掛けて念入りに術前検診を行い、麻酔のリスクやその他の既往症などを調べました。
心不全以外ではBUNがやや高値(37mg/dl)で腎不全兆候でした。

一ヶ月間心不全の治療を行い、ようやく手術日まで来ました。

手術前の腹部レントゲンです。




腹部エコー所見です。



膀胱一杯に結石がありますが、角が取れて丸く、透過度も低い(音響陰影も強く高エコー)ものであることから、固く崩れにくく、安易に取れそうな結石であることが分かりました。

手術開始です。1.8kgのワンちゃんを平均体重60kgの大人5人のチームで行いました。
麻酔医は澤田先生。この子の担当医です。
執刀は私が行いました。平均体重のUPに貢献しているのも私デス。
第一助手に桑原先生。第二助手兼器具出しに河野主任動物看護士。
外回りに下垣動物看護士で行いました。



尿は無いのに結石のために膀胱は縮みきれず大きめでした。




膀胱切開所見です。



摘出後、素早く縫合。拡張水圧テストを行って漏洩箇所が無いことを確認し、閉腹して手術を終了しました。
今回も難なく無事終了。




飼主様の希望により避妊手術と歯石除去も行いましたが、約80分の手術で大成功でした。
心不全もありましたが、事前の僕らの心配を余所に、全く順調な麻酔管理で手術もスムーズに行えました。
腕の良い麻酔医と素晴らしいチームに感謝!!!

取れた結石です。洗浄してきれいにしました。これを後日検査に出して成分分析を行います。




手術直後の様子です。まだ少し覚めたところなので担当の澤田先生に抱っこされて酸素化してもらっています。




結石の成分分析の結果はリン酸アンモニウムマグネシウム98%以上(ストラバイト結石)というものでした。
今後の食餌指導が重要な結石であることが分かりました。
食餌管理だけで再発をかなりの確率で予防出来ます。


手術後5日目に退院されました。術後の経過も順調です。飼主様も嬉しそうでした。

今後も心不全の治療は続くけど、これだけの手術を乗り越えた心臓だからきっと大丈夫だね。これからも一緒にがんばろう!!!


文責:佐羽