読書ノート  

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白人ナショナリズム~アメリカを揺るがす「文化的反動」 渡辺靖2020

2020年09月04日 | 国際関係・海外事情(外務省、JICA)
 アフリカ経済の本の次はアメリカの白人ナショナリズムの本。
 白人至上主義者は、決して低学歴・低所得の下層の人々ばかりではない。第1章に登場するテイラー氏はイェール大卒の翻訳家でワシントン郊外の邸宅に住む。white nationalistと呼ばれるが、自身はrace realist(人種現実主義者)、・・・・を好んで使う。
 白人ナショナリストといっても様々な団体があり、本書95ページ以下にによると14グループに分類され、団体数はざっと見で700以上ありそう。
 著者は多くの白人ナショナリストのリーダーと会っている。高学歴で大学教授や弁護士など安定した立場にある彼らが、なぜわざわざリスクのある活動や団体に関与するのか。彼らは外見や生理的理由から他の人種を拒否しているのではなく、日常生活では隣人として親しく接する。あくまで、白人が礎を築いてきたアメリカで白人が不当な扱いを受けてきたことへの異議申し立てであり、今日のアメリカを覆う「ポリティカル・コレクトネス」は自由を脅かす言論統制の一種であると糾弾する。
 リベラル派の主張:「多様性は力」は幻想であり、事実ではない。同じ人種同士で集うほうが安心できるのは自然なこと。人種ごとに遺伝子が異なり知能指数の差がある現実を直視しなければならない。この現実を看過してしまうと、ヒスパニック系や黒人の失敗の責任を「社会」すなわち白人が背負わされることになる、と主張するのだ。
 また、白人ナショナリストの多くは反ユダヤ主義であり、ユダヤ人はグローバリズムを牽引し、コスモポリタンな世界観(多文化主義や文化的マルクス主義)を流布することで白人の圧殺を企図しているという。
 一方、(著者への社交辞令かもしれないが)白人ナショナリストは親日家が多く、「自分たちはアジア人の能力的優位を認めており人種差別主義者ではない」という。
 
(感想) 
 著者は本書を「暗くて重い題材」(あとがき)と言い、非常に慎重に記述している。
 上記テイラー氏の発言など前半部分を読んでいるうちに、白人ナショナリズムに共鳴してしまいそうになった自分を発見する。
 しかし後半に読み進むと、白人ナショナリズムの異様さが目立ってくる。ADL(反ユダヤ運動を監視するユダヤ人組織)によると、過去10年で米国内の過激派による殺人事件の犠牲者427人のうち、極右によるもの73%、イスラム系によるもの23%、極左によるものは3%。極右のうち76%が白人ナショナリストによるものだった。p182 
 一方、第5章では、そのような過激な白人ナショナリストから改心した人々の例が多く紹介されている。   
 
 このような問題を考えるときには、第1に問題がつくられた歴史を理解しなければならないだろう。この新書本にはあまり書かれていないが。
 第2に、自分の位置が多数派あるいは支配階層である場合は、少数派あるいは被支配階層の心を理解するよう努めるべき。
 第3に、異なる意見を認め、例え被支配・被差別階層であっても自らの主張を実現するために暴力に訴えてはいけないし、暴力を許してもいけない。自由と民主主義の国であれば。
 
 

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