読書ノート  

主に都市、地域、交通、経済、地理、防災などに関する本を読んでいます。

アフリカ経済の真実 吉田敦 2020

2020年09月02日 | 国際関係・海外事情(外務省、JICA)
・はじめに
 21世紀に入り、アフリカは「希望の大陸」へと変貌を遂げたと言われるようになった。しかし本書はアフリカの本当の姿を、「急速な市場経済化から生じた歪みがときにはテロや紛争といった暴力的なかたちで顕在化」した、「人々が市場競争から取り残され、貧困と絶望の中で手足をもがれたまま『沈みゆく大陸』」なのだと言う。
 
・第2章 混迷するサヘル
 フランスやカナダ、中国の資源採掘会社が世界有数の地下資源から巨額の利益を生みつつ、そこからこぼれ落ちる利益を一握りの権力者たちが享受する。彼らの欲望の犠牲となり搾取され続けるのは、民衆である。AQIMのようなイスラム急進派勢力は、以上のような構造的暴力を利用して、自らのテロ活動を正当化させている。加えてコカイン取引。
 
・第3章 蹂躙されるマダガスカル
 サファイア原石の乱掘、高級木材の違法伐採など。
 選挙で当選した大統領が外国投資の誘致を最優先事項に掲げ、農民が受け継いできた農地を収用し韓国やインドの企業の安く提供し農産物を輸出する計画。国民の反発によりクーデター。劣等国家の烙印を押され援助(国家予算の4~5割を占めていた)が激減。政治的混乱と治安悪化により観光収入や繊維産業が大きなダメージ。外国投資は高い水準を維持しているが8割以上が鉱山資源採掘部門。金、鉄鉱石、コバルト、ニッケル、チタンなど採掘。鉱山開発は資本集約的で雇用は少なく現地経済への波及効果は小さい。政府は優遇税制で外国企業を誘致したが国民は職を失い生活は一向に改善されない。
 
・第4章 「資源の呪い」に翻弄されるアルジェリア
 豊かな石油天然ガス資源に恵まれた資源大国。独立後フランス系石油会社を国有化、社会主義型開発モデルで重工業化を目指すが、技術がなく工場稼働率は低く国営企業は経営不振で国家財政悪化。国政選挙で穏健イスラム政党FISが勝つと、軍は非常事態宣言を発動しFISに解散命令。反発したFISの中からイスラム原理主義武装集団が誕生しテロ多発(年間100~350件)。
 
・第5章 絶望の国のダイヤモンド コンゴ
 独立後、旧宗主国ベルギーやアメリカと手を組みクーデターを実行し大統領になったモブツが30年上にわたり独裁政権。外国企業を排除し鉱山を国営企業化。利潤は大統領を頂点とする利益集団が独占し再投資せず、紙幣乱発によりハイパーインフレ、経済破綻。冷戦終結により西側諸国の後ろ盾を失ったモブツに対し、反政府勢力は武装蜂起。モブツ排除に成功し新大統領に就任したカビラは周辺国に介入すると逆に派兵され大規模な紛争に発展。
 
・第6章「狩場」としてのアフリカ農地 ケニア、エチオピア、モザンビーク
 外国企業による輸出農産物生産向け土地確保=Land Grab土地収奪と呼ばれる。インド企業カルトゥリ社のケニア、エチオピア進出。
 日本のJICA主体のモザンビーク「プロサバンナ」プログラム。東西の道路鉄道整備とあわせ、広大な土地を輸出向け大豆トウモロコシ生産基地へと変貌させる計画。400万人の農民が影響。
 外部から「未耕作地」とみなされる土地で、膨大な数の農民が生計を立て、農業だけでなく狩猟採集遊牧などをしながら暮らしている。農地開発によって実現される雇用創出は、土地を追われる農民の数と比べるとあまりにも少ない。
 
感想
 21世紀に入ってから、アフリカ諸国が経済発展しているというニュースをみることが多くなっただけに、厳しい現実を告発したこの本を読むとショックが大きい。
 経済成長率だけで国の経済社会状況を評価してはいけない。
 
 この本に詳述されていることは、各国それぞれの事情、経緯であり、旧宗主国や外国企業に責任の一端があることは疑いない。しかし、アフリカの国々が豊かな資源に恵まれ、国際機関や先進国から多大の支援を受けていることもまた事実である。
 独立から半世紀以上を経過したアフリカには、多くの国がある。その中に、①民主的な政治体制、②平和と治安、③自律的な経済発展の3つのうち1つでも実現できた国が果たして存在するのだろうか。外国資本の支配や独裁者を打倒した新たなリーダーが、同じような独裁者になってしまったり、富を独占して経済を破壊することがあまりにも多い。アフリカの人たちが、自ら国家を運営することが可能だろうか。
 とにかくアフリカに1つでも成功事例をつくって欲しい。

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