文学館だからさっと観て帰ろうと思った。受付で、歴史民俗資料館と風待ち舘も観られるなら通しで6百円ですと言う。1ヵ所で3百円だから3百円得するらしい。三つも観ようとは思わないので3百円だけ払う。一階は町の図書館になっているので二階に上がると、太宰治が泊まったという部屋があった。その部屋の前に太宰治の紹介映像があったので観た。その映像に感化されてしまった。そして、ふかうらの魅力にはまってしまった。
粋な文化とはこういうことだと思った。次の成田千空や大町桂月のコーナーを観る頃には、この港に日和待ちで居ることをすっかり忘れて旅人になっていた。
文学館を出た後、釣り道具店にぶらりと入った。「ラビットはありますか?」と聞いた。「漁師さんが高齢で、流し釣りする人がいなくなったので取り寄せですね」あくまで正直である。最近は海温が上がって魚がいなくなりましたと続く。そして、釣りでも土素人の客に、実に懇切丁寧である。商品の価格も良心的である。自然、欲しかった網と糸切りハサミを買った。
過疎化が進み町に人がいなくなっているという。それでも商売を頑固に続けておられるのだ。次に向かった酒屋さんでも同じだった。冷やかしみたいな、金も持っていないような風体のおっさんにも、遇直なまでに丁寧である。先日、ヨットに話に来られた人が、「何かおもてなしをするべきですが、なにもできなくて、、、」と言われた心境がやっと分かった。ここでは、あの酒田でついぞ見かけなかった粋な文化があった。昔から、北前船の風待ち港だった歴史が残っているからだろうと思った。
この深浦港に来て、今回の船旅の意義が分かりかけてきた気がする。