日々典々 介護記録とその後の出来事

40代独身長男。脳梗塞で車椅子・認痴症になった父親を病院介護し在宅へ。しかし再入院。その記録とその後…そして未来へ。

野坂昭如

2015-12-19 22:30:52 | 新しい日々
両親と同世代の野坂昭如が逝ってしまった。

10代途中から20代中頃までの私の中で“ カッコいい憧れの大人”の1人で、少なからず影響を受けてた人だ。
テレビや雑誌、書籍と色んな所に登場していたので、言動だけでなくあのルックスにも魅力を感じてた私は、当時、レイバンの“グラサン”を掛けてましたっけ。

 あの頃は、特に社会人になる前は小遣いが少なかったので、書籍は大抵、古本。
街の古書店で格安で出ていると集めるかのように買っていた。時には神保町界隈まで出掛けもしていた。
 しかし、よく有る話でせっかく買ったのに読まずに本棚・押入れの肥やしになっていることが多かった。
これは野坂作品を並べ飾っておく事が私の中では、“カッコ良くファッショナブル”な事で有ったのだと思う。
 古書店のワゴンなどで売られているものは人気が無いか、流通量が多くて安く売られているものばかり。
そんな中の野坂作品は、小説ではなく思想信条に類するものも多かった。しかしそれらを何冊もまとめ買いして書棚に並べ1人悦に入っていたように思う。

 もちろん読んだものも多く有る。
特に有名な『火垂るの墓』は私が二十歳の頃か?
つまり直木賞受賞から10年後くらい。もちろん古本で、ハードカバーはかなり傷んでいた。
 私はその後、有名になった『火垂るの墓』より、併せて載っていた『アメリカひじき』の方が好きで、今でも内容をなんとなく覚えている。『火垂るの墓』も短編だったが、ちょっと“出来すぎたお芝居”の一幕のような印象を当時は持っていたかも。とにかく私としては印象は薄かったのだ。
 
 この好きな方の『アメリカひじき』とは、紅茶。缶に入った紅茶の葉の事で、それがタイトルになっている。
戦時中、米軍は爆撃機から食料品などを米兵の捕虜収容所付近にパラシュートが落下させていた。
それを付近の住民達が“運良く”頂く。
が、見た事もない缶に入った黒っぽい“紅茶の葉”を「アメリカさんのひじき」だろうと勝手に想像する住民達。何度も煮たり湯がいたりして食べてみるが、味も無く堅いだけ。それでも“ひもじい”人々はそれを腹に入れるといったのがプロローグ。
 その後の展開は戦後になり、焼け跡での生活。進駐軍との関わりなどを経て、高度成長期。
主人公は成人し家庭を持ち、妻がハワイ旅行中に知り合った初老の元米兵を自宅に招いて交流を図るのだが、ここに野坂氏の米国・米兵に対しての本音が垣間見えてくる。ここがなんとも面白かったのだ。
紳士面しながらも図々しくケチな米国人に腹を立てながらも“接待”してしまう“自分”
 『焼跡闇市派』世代の複雑な心境は、自分の父や母からも垣間見れていたので共感できた。

 野坂氏自身の心情は『アメリカひじき』の方こそが、焼跡闇市派を語るものだとのニュアンスで語っていたように記憶している。しかし、何にでも面白がり首を突っ込んでいた氏は、アニメ化された『火垂るの墓』が、自身のメッセージとは違う方向で有る事を認めながらも『こういった解釈でアニメ化された事は興味深い事だ』といった内容のコメントをしていて“違い”を指摘しながらもアニメ作品としては評価するといったスタンスだった。と思う。

世間では野坂氏の代表作は、『火垂るの墓』なのだろうが、私にとってはバブルの頃アニメ化されたモノをその後テレビで見たのだが、確かにアレは野坂風の作品ではないように思った。
彼はあんなに“お涙ちょうだいを観客に”リクエストはしない。もっとリアリストだ。
 でもまぁ彼の、野坂氏の遺した逸品には違いないだろう。

ワタシ的には『エロ事師たち』や焼跡闇市派を代弁するこの『アメリカひじき』の方が代表作かナ。


【写真の説明】
5年前、K市から引越す時、書棚と押入れの大部分を占領していた書籍のほとんどを処分。
その時なんとなく写したもの。実際にこの5倍くらい有ったかも。中に『アメリカひじき・火垂るの墓』も有ったはず。





 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿