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魁!!男塾の世界

2008-06-10 22:35:30 | 映画雑感
映画雑感としては異例ですが、ネタバレ考察です。
ネタバレはちょっと…という方、まだご覧になっていない方は一つ前の記事をご覧下さい。
ネタバレOKという方のみご覧下さいませ。





映画「魁!!男塾」の物語は、大きく前半と後半に別れています。
後半はファンならご存じの驚邏大三凶殺(原作は四でしたが)、ひたすらにアクションを楽しむ部分なので、ここはおいておきます。
後半に関して言えることはただ一つ、映画を観てください(苦笑)。

私にとって、考える余地があったのは前半部分です。
見終わってすぐにはやや違和感が残ったので、結局後々まで考えたのは前半部分でした。
前半の物語は、男塾そのものを見せることを中心に展開します。
この前半、基本的に主役は極小路秀麻呂と富樫源次です。
私がこの映画の中で、最初に観たときには引っかかり、よくよく考えたとき何を伝えたかったかがようやく見えたのがこの前半部分でした。

前半の最初の主役は極小路秀麻呂です。
極道の家の三代目でありながら、軟弱者でいやいやながら男塾に入塾するハメになった秀麻呂は、いうなれば「中から」男塾を見る観客の代理人です。
体も小さくひ弱で、男塾の規則であるふんどしを締めることの出来ない秀麻呂は、男塾の異様な空気感を観客に伝える大事な役割を存分に果たします。
これに対して、男塾を体現する男が富樫源次です。
秀麻呂の助け船に恩義を感じ、秀麻呂をかばって油風呂に耐え抜く富樫は、秀麻呂の理解を完全に超えています。
そして、耐えきれずに脱走を企てる秀麻呂に、逃げ道を教える桃もまた、この時点ではまだ男塾塾生である自分にはまだ納得していないと感じられます。
秀麻呂が本当の意味で男塾塾生となるのは、脱走から戻り、桃とともに懲罰房である雙生獨居房から生還したときです。
鬼ヒゲの「握り飯が用意してある」という言葉、これこそが、秀麻呂とそして桃の真の入塾の瞬間でした。
観客は秀麻呂の逡巡とともに男塾を秀麻呂の視点で感じ、そして男塾の世界の中へ、秀麻呂とともに入っていける構成になっています。
秀麻呂という存在が、男塾という異様な世界への案内役なのにうなりました。
そして、秀麻呂を導いているとも見える桃が、実は秀麻呂と共に男塾塾生となるのにもうなりました。
原作でも、桃はずいぶんわかりにくい男です。
一号生筆頭でありながら、男塾を一歩引いたところから眺めている印象がありました。
原作ではさまざまなエピソードを経て桃が男塾一号生筆頭として頭角をあらわしていく姿が描かれます。
しかし、尺に限りのある映画では、そんな時間はありません。
そのかわりに、秀麻呂という存在を通して、桃の姿もはっきりと見えてきます。
秀麻呂は男塾への案内役であるとともに、後半の主役である桃の姿を観客に示してくれる存在でもあるのです。
秀麻呂の目を通すことで、決して多くを語らない桃の姿がくっきりと見えてくる。
最初は後ろ姿、そして、見上げるような存在へ、ついには、ともに並んで歩む存在へと変化していく。
この丁寧な前半部分がなければ、後半の盛り上がりにはつながらなかったと思います。

前半のもう一人の主役は、富樫源次です。
男塾を体現する男、富樫源次にはオリジナルエピソードが用意されていました。
むさ苦しい男塾の世界に、映画では可憐な女子高生エリカが登場し、富樫をデートに誘うのです。
映画の冒頭で、虎丸が暴走する車にはねられたのに無傷!で車に罵声を浴びせるシーンが登場します。
ところが、車から降り立ったのが可憐な美女であるとわかった途端、虎丸は突然軟化し、なんと「轢かれちゃってすみません」と逆に謝ってしまいます。
虎丸もまた、富樫同様に男塾を体現する男の一人です。
男塾の面々は、ウブで女性に対して全く免疫がないことがはっきり示されます。
そんな男塾の塾生代表とも言える富樫に、女の子からの誘い文が届きます。
緊張しながら出向いた富樫の前に現れたのは、殺人的に可愛らしいエリカ…平田薫嬢演じるエリカの可愛らしさは特筆ものでした。
エリカを前にした富樫の滑稽でいて微笑ましい姿、女の子を誘って行く店じゃないだろう!という飯屋にエリカを連れて行き、豪快に丼飯をかき込む姿、原作にはなくてもこれは紛れもなく富樫源次です。
そして、富樫にとってはあまりにも残酷なデートの幕切れ…。
なのに、エリカに「今日が生涯で一番楽しい一日だった」と告げる富樫の哀れなまでの純情ぶり、これもまた、富樫源次にほかなりません。
このエピソード、実はエリカの目を通して見た、いうなれば「外から」見た男塾です。
そして、傷心の末に男泣きする富樫のそばに寄り添うのは、桃。
「帰ろうぜ、俺たちの居場所に」
富樫のような男がいる場所は、ここではない。
男塾以外には絶対に存在し得ない男、富樫源次の姿は、オリジナルエピソードに託した監督からの男塾に対する思いの結果なのでしょう。
富樫と桃が黙って並んで歩く姿に、監督の男塾に対する思いの丈を感じました。
そして、このときには桃もまた男塾を体現する男になっているのです。

実は、この富樫のエピソード、結末は残酷なのですが、初デートで地に足の着いていない富樫を見つめるエリカの表情が実に優しい。
向こう傷のある恐ろしい顔で、図体も大きいのに、富樫の純情ぶりが見事にあらわれていて、観客はエリカの視点でこの愛すべき男の滑稽さと純粋さを存分に感じ取ります。
それだけに、残酷な幕切れに富樫が深く傷つくシーンでは、観客はエリカの仕打ちに愕然とすることになります。
実は、私も最初はエリカの表情と仕打ちのギャップに驚きました。
けれど、これは観客の誰もが、富樫に彼女が出来る展開が決してないことを知っているからこそのエピソードなのでしょう。
「外から」見た男塾が、エリカをはじめとする一般人にとって、富樫のように時代錯誤な存在であり、愛すべき存在であり、また、とても実在するとは思えない存在なのだということにほかならない。
怒濤の展開となる後半を前に、ほろ苦いこのエピソードが入ったことで、観客には男塾という存在が愛すべきアナクロであることを印象づけたかったのでしょう。

魁!!男塾の最大の見せ場が後半のアクションシーンの数々であることは疑いもありません。
けれど、前半に観客をしっかりと男塾の世界に引き込んでいなければ、後半でどれほどアクションシーンが素晴らしくても、存分に楽しみ尽くすことが出来ません。
前半エピソードの丁寧な積み重ねによって、観客は男塾の異様な世界観を受け入れ、男塾に強い思い入れを持ち、後半では戦う桃たちにエールを送る一号生たちと心を一つにして声援を送り、気が付けば自分もまた塾生の一人のような気持ちで映画の中に入っていける。
そのための前半のエピソードの積み重ねこそが、この映画のもう一つのキモであったと思います。

風水


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