北条小源太 七
「三郎どの、夜分雑作をかけてすまなかった。
実は今日上人から手紙を頂いたのだが、そのことが気になって急に参
ったのじゃ。
手紙によると執権どのや平の頼綱にも書状を出されたと書いてあるの
で、幕府の反応をそなたに聞けば分かると思ったのだ。
なにか変わったことはなかったかのう」
三郎はやはりそのことだったかと内心うなずきながら、
「実は私がお伺いしようと思っていましたのも、その書状のことでご
ざいます。
御前のところにも届けられましたか、今日のことですが政所の宿屋光
則どのに呼ばれて、書状のことについて聞きました。
今年の正月十八日に蒙古国から国書が来たのは、かねて自分が外国か
らの侵略があると警告していたとおりである。
このうえは、急いで自分を召しだし、蒙古撃退の策と仏法の正邪につ
いて正すように評議されたい。
という趣旨の書状を執権どのに出されたとのことです」
政所とは幕府の政務機関で、幕府の財政や鎌倉の施政をつかさどって
いた。
宿屋光則は代々の執権に仕えた政所の重臣である。
「そうか、それで時宗どのはいかがなされるのかのう」
「はい、時が時だけに騒ぎが大きくなって世間がさらに動揺しないよ
う、どうも黙殺されるようです」
「やはりのう、わしもそうではないかと思ったのだが、前のこともあ
るのでまた暴徒が襲って上人に危害を加えたりしないかと、それが心
配だったのだ」 続く