小説「目覚める人・日蓮の弟子たち」

小説「目覚める人・日蓮の弟子たち」の連載と、上場投信日興225の勉強会をします。

小説「目覚める人・日蓮の弟子たち」四

2010-06-19 | 「目覚める人・日蓮の弟子たち」

  北条小源太 四

 小源太がまだ幕府の要職にあった頃、日蓮と名乗る僧が北条時頼に
差し出した書状があった。『立正安国論』というその書状は、正義が
すたれ邪義が広まると、国に災いが起こると警告し、正嘉から近年に
至るまでの相次ぐ災害の起こる原因と、それを防ぐ方法について献策
した諫言書であった。

 小源太が強く惹かれたのはその内容よりも、むしろ一介の僧にすぎ
ない日蓮が、時の最高権力者である時頼の誤りを指摘し、

『自分の忠告に従わなければ更に大きな災いが起きるだろう、外国か
らは侵略され、幕府内に同士討ち(クーデター)が起きるであろう』

と堂々と主張していた事である。

 権力を恐れず自分の命も惜しまない態度に、彼は強く心を惹かれた
のである。幾度も刃の下をくぐって死の恐ろしさを充分に知っている
彼は、名も無い一介の僧が死を賭けてまで、

『不幸に苦しむ民衆を救うため、この国の行く末を憂いて申し上げて
いるのであって断じて自分のために申すのではない。』

と言い切っている態度に畏敬の念すら覚えた。

いったいどういうお方で、その信念と勇気はどこからくるのだろう。
是非、自分の目で確かめてみたい。と心中深く思っていたのである。
そのためにも、幕府の要職にいないほうが万事都合がよいと考えてい
たのだ。    

 その頃、日蓮上人は名越坂に近い松葉ヶ谷に草庵をたてて、法華経
の弘教に尽力していた。仏教の真髄は法華経にあり、それ以外の教え
は釈迦が人々を法華経に導くために説いた仮の教えである。
仮の教えを用いて真実の教えに背くことが、一切の不幸の根源である
と説いていた
その根拠として日本に渡っているすべての経典をもとに、天台大師、
伝教大師の解釈や論文を用いて理路整然と説いたのである。

続く