北条小源太 五
上人の説法を聞いて考えを改め、今までの宗派を捨てて法華経に帰依
する人々が鎌倉を中心に増えていった。
間違った教えが不幸のもとであると指摘された他宗の僧たちは、慌て
ていた。
上人の説法を聞いて考えを改め、今までの宗派を捨てて法華経に帰依
する人々が鎌倉を中心に増えていった。
間違った教えが不幸のもとであると指摘された他宗の僧たちは、慌て
ていた。
『公の場で討論し、宗教の正邪を決しよう。』
と呼びかける上人を、討論をしても自分たちに勝ち目がないことを知
っていた僧たちは、あるゆる手段を使って妨害した。
自宗の信徒をそそのかして上人を襲ったり、幕府の権力者に取り入っ
てざん言し流罪にする等の迫害を加えていたのだ。
極上寺良恵と、北条家の管領で鎌倉の治世を掌握していた平頼綱がそ
の中心人物であった。
この日、小源太が受け取った上人からの手紙は、かねてより警告し
ていた通り外国からの侵略が始まろうとしている。
一刻も早く幕府の命令で、他宗の者と公論できるよう取りはかられた
い。という趣旨の書状を、幕府の高官や他宗のおもな寺院に出した、
という知らせの手紙だったのだ。
・・この書状を読んだ他宗の僧がまた前のような迫害をおこさねばよ
いが・
と小源太は案じていた。自分と同じように上人に好意を持っている学
問所の学頭大学三郎にあって事情を聞けば様子が分かると思ったので
ある。
小源太が渡り廊下を通って裏口に出ると弥太郎が馬を引いて待って
いた。彼は身体の不自由さを感じさせない身軽さで馬にまたがった。
松林の中の小道を通って裏門に着くと、警固の侍が門をあけて待って
いた。軽く会釈をし、警固の労をねぎらうと門を出てすぐ右に曲がり
由比ガ浜に向かって馬を進めた。
一馬身ほど離れて弥太郎がピタリとついて来る。 続く