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珈琲ひらり

熱い珈琲、もしくは冷珈なんかを飲む片手間に読めるようなそんな文章をお楽しみください。

乞食の子

2007年10月14日 | 短編


 彼は乞食の子であった。


 しかしその心は気高く、常に正義の心を誇っていた。


 彼の父は、彼に美しい欠片を渡した。



 その欠片を大切にせよ、と。



 乞食の子は何故か幼き頃より父に剣を習わされた。



 風が吹いた。



 乞食の子の運命に風が拭いた。



 乞食の子の前を走る豪奢な馬車。



 その馬車を襲う野党。


 御者の死体が持つ剣を手に取った乞食の子は、その剣を手に、野党を斬り伏せた。



 おまえ、随分と強いのね。良いわ。あたしの騎士にしてあげる!


 そばかす顔の姫が、顔を真っ赤にしてそう言った。


 しかし乞食の子はあまりにもそばかす顔の姫が偉そうだったので、笑ってしまった。



 笑わないで! だから、人と接するのは嫌なのよ。



 そばかす顔の姫はそう言い、騎士となった乞食の子は姫に微笑んだ。


人形のような少女

2007年10月14日 | 短編

 そばかす顔の姫の城にある塔。
 姫はそこに入り浸るのが好きだった。
 その塔の頂上の部屋には人形がある。
 正確には人形のような少女が居る。
 肌は柔らかな弾力に富んで、
 細身でありながら豊な双丘を持ち、
 蜂のようにくびれた腰、
 腰下からの美しい曲線を描く尻、
 そして何よりも美しい白磁のような白い肌、
 ビスクドールと見間違うような貌、
 それは歳を取らぬ娘。
 ただし人形のように喋らぬ。
 感情を持たぬ。
 寝ない。
 食べない。
 多くの男の手を渡り、
 夜の、
 欲望の、
 対象とされた憐れな娘。
 かつて王の良き相談者と呼ばれる魔法使いであり預言者である者は生まれたばかりの姫を見て言った。
 いつか、この人形のような娘が、世を、生まれたばかりの姫を、救う、と。
 故に王は、その力を持ってして、この人形のような娘を救い出し、
 封印の塔と呼ばれる、この世のどの悪意も入れぬ塔に匿い、姫だけ会えるように取り計らった。
 姫は、いつかこの娘が自分を救うとは信じられなかった。
 しかし、この美しい娘を見るのが好きだった。
 そばかすだらけの自分とは違う、この娘、まさしく物語りに出てくる姫のような彼女を見るのが好きだった。
 ああ、この美しい貌が、
 豊な胸が、
 美しくくびれた腰が、
 柔らかな尻が、
 白磁の肌が、
 自分であったのであれば、どれだけ良かっただろう?
 そう物思いに耽るのが好きであった。



 そばかす顔の姫は、姫である。



 故に、彼女は繋がっている。



 かつて魔女を呪った姫たちに魂が繋がっている。



 故に、姫の魂はいつの間にか、汚染されていた。




 騎士は、人形のような少女に出会う。



 騎士は、その少女に目を奪われる。



 そして騎士の口付けで、人形のようであった少女の心が、変わる。



 小さく、小さく、小さく。




 そして大きく、大きく、大きく、変わる物がある。



 そばかす顔の姫の心に生まれたのは嫉妬。



 姫は嫉妬した。



 始まっていたから、出会いの時から、恋が。




 だから!!!



 姫はその手にした短剣で、人形のような少女を殺そうとした。

騎士

2007年10月14日 | 短編

 赤い血が零れる。


 騎士は素手で姫の持つ剣の刃を握り締め、剣を止めた。


 そばかす顔の姫は悲鳴をあげ、



 そして心を閉じた。



 永久の眠りについた。



 騎士は、裁判にかけられ、死刑が決まった。



 しかし、今まさに火あぶりにかけられんとした彼を救ったのは、魔女であった。

魔女

2007年10月14日 | 短編

 魔女は言った。


 心の欠片を集めよ、と。


 このかつて王子を目指した姫の心を集めよと。


 さすれば復活した姫の心の光りが、その清浄なる魂の輝きによって、救われなかった姫たちの闇は晴らされるであろうと。



 騎士は赤子のような、動ける様になっただけの、娘を連れて、旅に出た。

魔法使い

2007年10月14日 | 短編

 その魔法使いだけでは、竜は倒せぬ。

 竜を倒すには、静寂の魔法を彼が発動している間に、竜の眉間に剣をつきたてる勇者が必要であった。


 しかし誰もが竜を恐れ、魔法使いの剣となる者は居なかった。


 魔法使いは絶望した。


 だが神は彼を見捨てぬ。


 そこに娘を連れた騎士が現れる。


 騎士は竜が持つ欠片を欲し、魔法使いの剣となる事を誓う。



 竜は魔法使いの静寂の魔法によって、その心を撃ち砕く咆哮を封じられた。


 しかしそれで、攻撃力を封じられた訳ではない。



 騎士は傷つきながらも竜に立ち向かう。


 その後ろ姿は、背は、あり方は、魔法使いを感動させた。


 そしてついに騎士は竜を倒し、


 娘は新たなる心を取り戻した。

遊び人

2007年10月14日 | 短編

 その遊び人は幼き頃より、嘘をついて、歌を歌い、踊って、お気楽に過ごしてきた。
 しかし彼は知ってしまった。
 海賊が、彼の村を襲おうとしているのを。
 彼は朝から晩まで村を走り回り、その脅威を叫んだ。
 だが彼の言う事を誰が信じようか?
 彼は絶望した。


 しかし、神は彼を見捨てなかった。


 口うるさく堅物な魔法使い。
 その彼が勇者と崇める青年。
 そして美しいが、心の無い娘。


 その3人が立ち上がってくれた。



 海賊との戦いは一方的であった。


 魔法使いの魔法は海を凍らせ、


 騎士の剣は、海賊の剣に折れる事を知らなかった。



 そして村人は4人の勇者に感謝し、


 遊び人の彼も、一向に加わった。

神官

2007年10月14日 | 短編

 彼女は世界を構成する六柱の神が一神、大地母神マーファに仕える神官であった。



 彼女はマーファによりお告げを受ける。


 近く、勇者が現れると。



 彼女は神官をやめ、大臣の息子と結婚をするように親に言われた。


 彼女は、それに逆らえなかった。



 だが偶然に街で出会った遊び人の男に、結婚式の会場から掻っ攫われ、


 彼女は神の導きに感謝し、勇者の一行に加わった。

魔の姫

2007年10月14日 | 短編

 勇者たちは娘の心をついにそろえた。


 しかし姫たちは、その心の欠片を悪意に染めていた。


 かつて王子を目指した姫の魂は汚されていた。



 勇者たちの最後の敵は、娘であったのだ。

神官

2007年10月14日 | 短編

 大地母神マーファに仕える彼女は覚悟を決めた。
 この魂を持って、娘を救わんと。
 だが、遊び人の彼は魔法で彼女を止めた。
 驚く勇者と、魔法使いの前で、彼は顔を拭った。
 道化師のメイクの下にあった素顔には清々しい笑みが浮かんでいた。


 我は大賢者なり。



 彼は言った。
 そして、彼は、涙を流す勇者と、怒る魔法使いに微笑みながら愛する妻と、妻の腹の中に居るまだ見ぬ我が子の事を託し、



 その命を燃やす聖なる魔法によって、かつて王子であった姫の魂を汚す闇を、打ち破った。



 大賢者の肉体は、代わりに世界より消え去ったが。

勇者と姫

2007年10月14日 | 短編
 かつて王子を目指した姫、


 勇者、


 魔法使い、


 神官、



 4人(5人)の一行は、ついにそばかす顔の姫の国に辿り着いた。


 しかし国は荒れ果て、



 先代の王を打ち破り、新な王となった元大臣が、騎士たちを、宮廷魔法使いたちを、神官たちを使い、勇者一行を滅ぼそうとした。
 国民たちも、自分たちから愛する姫を奪ったばかりか、先代王を殺した姫お付の騎士を殺さんと、その仲間たちを殺さんと剣を取った。




 勇者一行は逃げることしか出来なかった。



 そして囲まれる。



 もはや殺されるしかない、そう誰もが思った時、



 あの懐かしい遊び人の作詞作曲自分の歌が流れた。



 そして、彼らを囲っていた人々は、騎士や宮廷魔法使い、神官たちが、王を除く全ての国の者が鉄像となった。


 勇者たちの誰もが涙を流した。


 自分たちの前に現れた彼を見て。


 ああ、身体がバラバラになり、死んだのではなかったのか?



 彼の前に現れたのは、大賢者であり、遊び人であった彼であった。


 妻は夫の前に走り、そして涙で顔を濡らし、下唇を子どものように噛み締めながら、夫の顔を往復ピンタし、その後で熱く口付けをした。
 夫は妻を抱きしめた。


 彼を救ったのは、かつて師より与えられたお守りであった。それが彼の代わりに砕け散り、彼は救われたのだ。



 


 王は悔しがり、そして、その王と、姫たちの悪意は一つに交わり、醜き化物となった。



 魔法使いはその全ての魔法力を使い、巨大な化物の足を止めた。



 大賢者はその全ての魔法力を使い、勇者の傷を癒した。



 神官は、勇気と慈愛を司る大地母神マーファの祈りによって、勇者の心を強化した。




 そして、勇者は剣を握り、振り上げ、化物に立ち向かい、熾烈で過酷な戦いの果てに、それを打ち滅ぼした。





 姫は封印の塔で寝ていた。



 誰をも近寄らせぬ茨に包まれて。



 その姫を救うために彼は旅をしてきたのだ。



 しかし、勇者はここに来て、誰がかの姫を救うのか、救えるのか、理解していた。


 勇者は、


 ただひとりの女の子に恋をする、ただひとりの男の子に戻り、その恋する心を眠る姫に囁き、優しく口付けをした。




 誰かが悲鳴をあげた。



 多くの姫が悲鳴をあげた。




 それはかつて魔女を呪った救われなかった姫たち。



 姫たちは悲鳴をあげた。



 救われなかった自分たち。



 王子様が現れなかった自分たち。



 永遠にハッピーエンドを奪われた自分たち。



 ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるずるいいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい



 そばかす顔の姫は勇者に抱きつき、勇者は剣を鞘から抜く。
 魔法使いも、大賢者も、神官も、最後の戦いに備え構える。


 だが、その彼らの前にかつて王子を目指した姫が立ち、


 姫は救われなかった姫たちを抱きしめた。



 ねえ、本当にあなたたちは努力をした?


 自分を救ってくれる誰かを求めるのではなく、


 自分で自分を救うための努力をした?



 自分に自分で誇れるように、


 どんな状況にも負けないように、




 自分を変えるための努力をした?




 自分を救うための努力をした?



 周りを見た?


 自分に手を差し出してくれていた誰かをちゃんと見ていた?



 王子様を見つけるのは、決めるのは、その純粋な心。




 いつだってちゃんと心を正して、見れば、見えなかった物は見える。



 王子様は、本当は、誰にだって、いつも近くに居てくれたでしょう?



 かつて王子を目指した姫の心の光りは、救われなかった姫たちの心を打ち滅ぼすのではなく、救った。






 そこは魔女の地。
 かつて姫たちに呪われた魔女は、その呪いを解かれ、涙を流し、
 そしてすっかりと歳を取ったかつて王子であった男と抱きあい、
 ようやっとただの男と女となったふたりは結ばれた。





 勇者は姫と結婚し、国を治めた。


 魔法使いは新たなる王の良き相談者として、宮廷魔法使いの地位に着き、



 大賢者であり遊び人である彼と神官は、勇者が治める国で家を持ち、二人で仲良く子を育てながら平和に暮らした。

文通相手

2007年09月05日 | 短編

「例えば、すり代わりがあったのでしょうか? 私が会ったのは、実は違う人だったのでしょうか?」
 僕は彼女に小首を傾げて見せる。
「なぜ、そう思うのですか?」
「私たちは手紙のやり取りをしていただけでした。ええ、ただそれだけの関係です。文通です。でも、その文通相手の彼が私に教えてくれていた事、あの人の容姿ですね、それがあの人が私に語っていた事と違っていて」
「でもそれは、誰だって謙遜とかするから、それででは? やはり男性と女性とでは、容姿の見え方も違うでしょうし」
「そうかも、しれません。ただ、私は彼の文面から彼がどんな人なのかな? というのをよく想像したのですが、彼の手紙から受ける印象、私が想像していた彼の容姿とは、まったく違っていた事は明らかなんです」
「でもそれに絶対性なんて無いでしょう? あくまでそれはあなたのイメージなんだから」
「ええ、そうです。そうですね。それに…」
「それに?」
「ええ、はい。彼とは、会う前に電話ででも話した事があったんです」
「声は? ああ、いや、電話と実際の声とは、違うですが」
「ええ。でも、電話の声に通じる響き、音でした、あの人の声は。だから、摩り替わっていたのかもしれない。私が出会った文通相手は実は、違う人だったのかもしれない、という私の疑いは、外れている、確証が持てなかったのですが、でもどうなんでしょう? 私にはわかりません。でも、摩り替わっていた、私と会った文通相手は全く違う別人だった、という事になれば、納得できる事がたくさんあるんです」
「なるほど。でもそれは、あなたの願望でしかない。ありませんね」
「ええ。そうです」
「私が以前に担当した事件で、父親の多額の遺産を相続した娘をずっと手元に置いておくために、自分の新しい旦那に変装させて、その彼を娘の恋人にさせて、娘をずっと手元に置いておこうとした母親が居ました。しかし、言ってはなんですが、ただの文通相手に会うだけなのに、全く違う別人の男を寄越す理由なんて無いでしょう?」
「ええ、そうです。そうですね。声は、声の響きは確かに電話で聴いた彼の声の響きと一緒でしたから。でも、どうしてもこれまで彼が手紙に書いてきてくれた彼の容姿と実際に会った彼の容姿とがまるで違うから………だから、摩り替わっていたのなら、納得できるんです」
 彼女は涙目で僕に訴えた。
 僕はため息をつき、彼女を見据える。
「では、たまたま彼には彼の容姿よりも優れた容姿の友人が居て、その友人の声が彼の声と似た音質であったとしましょう。摩り替わっていたと。それで、あなたが彼に交際を申し込んだのは、彼と出会い、彼の容姿が自分のストライクゾーンど真ん中だったから、と言って、それで申し込んだわけで、それから彼はあなたの前から消えたわけですが、」
「いえ、皆まで言わないでください、コナン先生。それは私の口から言わなければいけない事ですから。はい、私が彼に告白したのは確かに会ってからです。正直に彼の容姿にも惚れたと、そう言いました。でもそれは後付です。会ったのは気持ちを確かめるだけで、ただそれだけで、心は最初から決まっていました。だから摩り替わっていたのなら、それを素直に言ってくれれば良いです。それで改めて、会ってくれれば。私は文通をしてて、その手紙から読み取れた彼に惚れたんですから。だから外見なんかは本当はどうでも良いんです。摩り替わっていたのなら、摩り替わっていたで良い。ちゃんとそれを謝ってくれて、今度こそちゃんと会ってくれれば。そうしたら、私はちゃんと彼を見るから。私は文通で、電話でやり取りしていた彼に惚れたんですから。彼と、彼と摩り替わっていた人、二人を選ぶのなら、私はちゃんと文通相手を選びます」
 彼女は泣きながらそう言った。
 僕は3人に対してため息を吐く。
 まったく、泣いている女性には敵わない。
 きっとまた、ポワロ君には笑われることだろう。
「わかりました。では、そのあなたからの依頼、お受けいたしましょう。私が彼を連れてきます。だからあなたは、摩り替わっていた彼の容姿が好みだったから好いたと告白したのではなく、文通相手の彼の内面を好いて、それで告白したのだと、文通相手の彼と、摩り替わっていた彼、その二人を選ぶのなら、文通相手の彼を選ぶと、そう彼に言っておあげなさい」
「はい。コナン先生」


 その後、僕は彼の居所をつきとめ、彼に彼女の想いを伝え、
 そして、彼は摩り替わっていた事を謝り、
 彼女はもう一度ちゃんと出会った彼に、彼の内面にこそ惚れているのだ、外見など関係無いと、そう伝えた。


 コナン事件ファイル【END】


 って、漫画やドラマなんかだと、友達の写真を文通相手に送っちゃって、それでドタバタが起こるのですが、本当に摩り替わって会う、なんて事があるのでしょうかね?
 これは電話で会話しているから、声がネックになって、それで摩り替わりを疑えずにいた女性の話で、でもその恋心が起こした奇跡のお話という感じなのですが。
 でも好きです、って言われた瞬間に、身を隠したり、逃げるのではなく、摩り替わりを正直に謝って、それで改めて会うなり、会話を重ねるなり、なんなりするべきだと書いておいて私は思うけど。
 じゃないと、お互いの【好き】っていう感情が可哀想。
 まずは恋愛でも、最初にあるのは、最初に重要なのは、信頼ですものね。
 信頼して、何もかも、包み隠さずに言っちゃって、あやまちゃって、それからだと思う。
 この男は。逃げるのではなく。
 じゃないと本当にお互いの【好き】っていう感情が可哀想ですからね。うん。


 というか、新聞に載っていた、おじいさんが戦時中に、工場で体験した恋物語(300文字の私小説)が凄い切なくって、うわぁー、と思いました。
 そうですよね。
 あの時代は普通に恋をする事すら難しかったんですよね。
 本当に切ないなー、って、そう思いました。
 だから、好きなら好きって言っちゃえ、って思う。
 じゃないと本当にその感情が可哀想。
 言わなかったら可能性はゼロだけど、
 言えば可能性は0,00000001かもしれなくて、
 ゼロと0、00000001とでは凄まじく違うのだから。


 あと嘘ついてるのなら、嘘をついちゃって、それで相手の好意を受けられないのなら、もう本当に正直にその嘘を謝っちゃえ。
 そこで終わるのなら、嘘をついた自分が悪いんだし、
 許してもらえるかもしれなくって、許してもらえたら、そこから始まるんだし。

 私だったら両思いなのに、それなのにつまらない嘘をついた事で(このお話だと、文通相手に良いところを見せたくて、摩り替わって、会って、それが原因で、その好きな女性からの好き、っていう感情を受け取れなくなってしまった、っていう嘘ですが、私だったら、これは許せる。ちゃんと謝ってくれれば。正直に言ってくれたら。それでもう一度会って、そこからまた改めて二人で会話を始めれば良いと思うし。そんな感じ。好きだったら、その感情もあるから、やっぱり正直に嘘を謝れば良いんじゃないかな、と。だってこの場合は本当にお互いの【好き】という感情が可哀想ですものね。)、その両思いになれる未来を相手が勝手に苦しんで放棄される事の方が哀しいなー、って思う。
 本当に好きなら、好き同士ならどんな事も乗り越えられると思うし。
 つまんない嘘をついたほうが悪いんだから、その嘘を謝る責任もあると思うし。
 相手はそれを許せるかもしれないから、だから言って、その後に嘘をついた方がどう誠意を見せるか、そこからだろう、って思う。


 まあ、何はともあれ、お兄さんは、好きな人がいるなら、とっとと告白してしまいなさい、って思います。
 男、女関係なく。
 ゼロと0、0000001の可能性は、
 言わなければ絶対ダメだけど、言えばもしかしてで、
 絶対ダメともしかして、は本当に違うから。
 


 そんな感じ。






『梅桜桃李』

2007年08月17日 | 短編


『梅桜桃李』



 ねえねえ、どうして?
 どうして僕は咲けないの?
 花を咲かせられない僕は白やピンクの花を咲かせて皆に「綺麗だね」と褒められている周りの皆を見て恥ずかしくって縮こまっていた。 
 他の皆は本当に綺麗に咲いていて。だけど僕は…
 咲けない僕は恥ずかしくって穴があったら入ってしまいたかった。
 皆は本当に綺麗に咲いているのにどうして僕は咲けないのだろう?
 ひょっとしたら僕は皆よりも与えてもらっている物が少ないのかもしれない。だから僕は咲けないんじゃ…
 そう思った僕は太陽さんに訊いてみた。
「ねえねえ、太陽さん」
「なんだい?」
「周りの皆が綺麗に咲いているのに僕だけが咲けないんだ。それは太陽さんが僕にだけくれる光が少ないからだと思うんだけど…どうかなぁ?」
 太陽さんは大きな声で笑った。
「ここにいる者たちには私の光は充分に届いているはずだよ」
「だけど僕はほら、見てよ、咲けてないんだよ」
 僕が泣きそうな声を出すと、太陽さんは優しく微笑むように温かい光で僕を照らしてくれた。
「君にはこうやって充分に光が届いている。私は平等だよ」
「ごめんなさい。太陽さん」
「ああ、いいよ。もう一度、ちゃんと自分を見てごらん。自分を恥ずかしがらずにね」

 自分を見る?
「あー、お腹いっぱい」
 綺麗に咲いている大きな子がそう言った言葉に僕ははっとなった。
「大地さん、大地さん」
「おや、ぼうず。どうした?」
「あのね、あの子が僕の分まで大地さんから栄養をもらってるみたいだから、僕が咲けないの」
 大地さんは大笑いした。
「おまえは何もわかっていないのだね。わしはおまえにちゃんと栄養をやっておるよ。巡る命の栄養を。おまえさんはしっかりとその大きな体を支える根で、わしが持つ栄養を吸っておるではないか。もう一度しっかりと自分を見てごらん」
 皆が『自分を見てごらん』と言う。だけど僕は自分を見ても僕が咲けない理由なんかわからない。
 僕は大きなため息を吐いて、もう一度太陽さんに訊いてみようと、空を見上げた。だけど太陽さんはいなかった。代わりにそこには青い空をどんよりと覆い始めた雨雲さんがいた。そうだ、雨雲さんに訊いてみよう。
「雨雲さん、雨雲さん」
「あら、なあに?」
「あのね、雨雲さん。僕が咲けないのは皆よりも雨が少ないからだと思うのだけど…」

 雨雲さんはぴかりと雷を鳴らした。
「まあ、なんてあなたは失礼な子だろう。わたしはちゃんと平等に雨を降らせているわ」

「雨雲さん、ごめんなさい」
 ぴかぴかごろごろと雷を鳴らして怒る雨雲さんに謝ったけど、雨雲さんは僕の話も聞いてくれないで風さんに頼んでどこかへと行ってしまった。
 雨雲さんが怒って行ってしまった後の空は青空。
 だけど僕の心はどんより。
 僕は悲しくって声の限りにわんわんと泣いてしまった。
 綺麗に咲いている皆を見ながら泣いてしまった。
 僕も咲きたいよー。
 独りぼっちは嫌だよー。
 うわぁ~ん。
「おやおや、なんて哀しい泣き声だろう。泣いている子はだぁ~れ?」
 青くって優しい光が僕を包み込むように照らしてくれる。見上げると丸いお月さまが優しく微笑みながら僕を見下ろしていてくれた。
「あなたはどうして泣いているの?」
「僕は咲けないから。皆みたいに綺麗に咲けないから。太陽さんも、大地さんも、雨雲さんもちゃんと平等に光や栄養に雨をくれているのに、僕は皆みたいに咲けないから」
 えぐえぐと嗚咽を上げるとお月さまはくすくすと笑った。
「周りの子が咲いている中で自分だけが咲けないのが恥ずかしくって悲しいのね?」
「うん」
「もう一度、自分を見て御覧なさい」
 お月さまにも言われた。
 僕はびっくりする。
 本当にどうして皆そう言うんだろう?
「どうして皆はそう言うの?」
「それはね、あなたが桜で周りの子は梅だからよ」
「僕は桜で…周りの皆は梅?」
「そう。桜と梅とではたとえ同じように光や栄養、水をもらっていても咲く季節が違うからあなただけが咲けないのは当然なのよ。だから焦ることはないのよ。あなたが咲く頃はもう少しだけ後。春と呼ばれる季節」
「本当にあと少しで僕は咲けるの?」
「ええ、本当よ。あなたは桜。春という頃に美しい薄紅の花を咲かせるの」
 僕はものすごく嬉しかった。
「桜のあなた。周りが咲いているからといって焦ることはないのよ。あなたにはあなたが咲く頃がある。春になればあなたは綺麗に咲ける。だから焦らないで自分のペースで花を咲かせればいいのよ。誰にでも花を咲かせられるスピードがあるのだから。ね」
「うん、ありがとう。お月さま」
 僕はお月さまにお礼を言った。
 そう、僕は桜。梅じゃないんだね。だから梅が咲いても焦らなくっていいんだね。
 だって春になれば桜の僕も咲けるんだから。
 だから僕は僕が咲ける春という季節まで綺麗な花を咲かせられるようにがんばった。

 そして僕は春という季節に咲いたんだ。
 淡く薄い紅色の花を咲かせたんだ。
 僕が咲ける春という頃まで自分のペースでがんばって。

 ― おわり ―


 前にも載せたのですが、でももう一度載せたいお話なので、載せました。
 やはりこれが一番の、皆が祈るように願う事だと思うから。

月と騎士 序章

2007年08月16日 | 短編
序章


 夜空にあって漆黒の世界をその慈愛に満ちた優しい蒼き光で照らしていた下弦の月は分厚い雲にその姿を隠される。
 だが、月にそれに対する憂いはないように思われた。むしろ自ら雲を呼びよせそれに隠れたような…。
 そう、今、かぐやの塔と呼ばれる監獄に進入せんとする男を助けるために。
 男は世界を包むその漆黒の闇に紛れてかぐやの塔への進入に成功した。
 そして彼は真っ直ぐに最上階を目指す。このかぐやの塔に幽閉されているのは一フロアーすべてを一つの牢獄に使った最上階に幽閉されている者だけだ。
 そう、この世界最強の監獄かぐやの塔は最上階に幽閉されているたった1人のために作られた塔なのである。
 かぐやの塔には魔術師、神官、術者の類の人間はいない。脱走もしくは進入者をふせぐためのスペルトラップさえこの塔には施されていない。この塔を守り幽閉されている者を見張るのは剣に秀でた名のある剣士や武道家たちだけだ。男はその塔の護り手たちを一撃で倒していった。驚愕と恐怖とで眼を見開き呆然とする騎士に男は冷ややかに言う。
「正気か? 一度剣を鞘から抜けばもはやそれは己の命をかけた死闘。例え自分よりも強き者が目の前で倒されたとしても剣士は常にクールでいるものだ。この未熟者めが」
 男は一撃で相手を地に伏せさせる。この男異常なまでに強い。
 最上階に辿り着いた男は小さく呼吸をしていくぶん今までよりも体を緊張させる。
「なるほど、どこのバカがこのかぐやの塔に襲撃などという酔狂をしでかしたのかと思えばあなたか…。伝説の騎士 ゼロ・ウィヴァーと共に先代十二神衆最強と称えられた藤堂時雨。確かにあなたならこの最上階に辿り着けるのも納得できる」
「悪いがおまえとしゃべっている無駄な時間はない。そこをどいてもらうぞ」
「言ってくれる。いいだろう。老兵にこの現十二神衆ストーク・ランフォードと並んでアマテラス最強と詠われるレイド・アウグスが引導を渡してくれる」
時雨が口だけで失笑する。それを見たレイドは顔を怒りで朱に染めて時雨に斬りかかる。
「殺った」
 レイドの剣が時雨を一刀両断する。だが…転瞬、それが陽炎のように揺らいで消えたと思われた瞬間にレイドの背後から冷静に事実だけを述べる時雨の静かな声がする。
「喜ぶな。残像だ」
 時雨の一撃を受けてたまらずレイドは苦痛の声をもらして気を失った。そう、このかぐやの塔にいる騎士や武道家たちは皆、名のある者たちである。その彼らを誰一人殺さずにただ気絶させるだけでこの最上階に辿り着いた時雨はまさに一騎当千であった。
 時雨は最上階の扉を一閃すると刀を鞘に収めて部屋へと入っていく。
 部屋の真中に置かれたベッドの上に腰掛け、雲の隙間から零れていた一条の月の光の筋を見つめていた少女が時雨に視線を移すと時雨は片膝をついて少女に恭しく頭を垂れた。
「お迎えに参りました。今代の月 エレフィーナ・ルーン・ピース様」
少女は時雨に静かに頷いた。

全ての花は美醜に関わらずただ咲いている。人生もそれと同じだから・・・・

2007年08月09日 | 短編


 ごめん、実は知っている。
 前の事。
 あなたはあたしにそう言った。
 最初、あたしには何を言われてるのかよくわからなかった。
 この人の言い方は何時だって回りくどくて、そして余計な・・・そう、人の感覚とはずれた気の遣い方に満ち満ちた物言いだから。
 本当に馬鹿。不器用なんじゃない。
 この人は誰かに嫌われるのを凄く嫌っている。
 それをあたしはよく知ってる。
 この人があたしによくする遣い方を間違った気配りは、あたしもよくする事だから。
 だから結果的に人を傷つける。
 あたしたちはとても似ている。




 誰かを傷つけるのがとてもコワクッテ、
 そのくせ、独りの寂しさを知りすぎてるから、
 独りじゃいられない。



 だけど、心は傷ついた時の事を、その痛みを知ってるから、
 だから傷つく痛みが怖くて、
 誰かに寄り添う事ができない。





「ごめん。知ってるんだ」
「何を?」
「君の前の恋愛・・・」
 あたしは、心臓が止まった。
 次の瞬間、心臓が動き出した時、
 あたしの身体は熱いのか、冷たいのか、よくわからない感情の温度に満たされていた。
 それはドライアイスのようーーー
 あたしは恥ずかしさと同時に、
 本当に方向性の間違いまくった彼の感情に激しく苛つきを感じていた。
 ああ、こんな男、やっぱり切っておくべきだったんだ。
 告白された事が苦しかった。
 でもそれは、前の恋愛であたしはたくさんの人を傷つけて、あたしも傷ついたから、
 それで――――
「誰に聞いたの?」
 彼は悪戯をして母親の前に突き出された子どものようにあたしから顔を背けた。
「俺は、その前の男を殴ってやりたい」
「聞きたくないからやめて。それ、すごくデリカシー無いよ? もうダメね、あたしたち。お友達だって無理。あたしすごく怒ってるもの!」
「わかってる。自分が、最低な事をしてるのは。傷つけようとしてるのは。だけどごめん、言わずにはいられない。君の事が好きだから。君の事が、見てられないんだ」
「あなたに憐れみをかけられる筋合いは無いし、そもそもあなたにそんな権利は無い。間違えないでよ、自分を。図々しい。そう、ずっと図々しかったわよね、あなた。本当にそうよ。あたしがどんな想いであなたにお断りのメールを送ったと思う? それを揚げ足を取るようにあたしが気を遣って言ってあげた事を真に受けて、自分に都合の良い風にあたしの文章を取って、あたしにしつこくして。どんなにあなたの事を教えてくれようとしたって、あたしがあなたなんか好きになる訳無いじゃない。やめてよね、気持ち悪い。あーいうの、ストーカー、って言うのよ。変態」
「わかってる。そういうの全部わかってる。でも見てられなかった。好きだから。俺だけに問題があって、俺のせいでふられるのならわかるけど、でも前の男のせいでこの気持ちを受け入れてもらえないことが正直凄い不服だった」
「自分の都合じゃない」
「そうだよ」
「諭すような声で開き直った事言わないで」
「だって君は間違ってなかっただろう、前の恋愛。だから、すごい不服なんだよ。何で、間違った事を何もしてない君が未だに前の恋愛に縛られて、立ち止まったままでいるんだよ。相手や周りの人間を傷つけたって、でもそれは相手の自業自得だろう。男の俺から見れば、その男の方は最低の下種だ。そうだよ。何で未だに君が、君の心の隙間をついて君を手に入れて、君を傷つけただけの男のせいで、心を止めてるんだよ。すげー不服。不服だよ、そんなの。そりゃあ、過ごした時間の中にはきっと幸せな時間があったんだろうさ。でもそんなのすげー不服。君が心止めてどうするんだよ? 君は幸せになって良い人だろう? 君だから、幸せになって良いのに」


 なんであなたが泣きそうな顔をするのよ?



「馬鹿な人。社交辞令よ、あんなの。あんな言葉、あたしがあなたに言ったお断りの言葉なんて社交辞令よ。あたしは止まってない。動いてるわよ。あたしの心は動き続けてるわよ。あなたが勝手にあなたの都合の良い風にあたしの心を解釈しないで」
 伝わっていないと思った、あたしの言葉。
 でも同時に伝わりすぎてると思った、あたしの言葉。
 本当に馬鹿。
 間違った気の遣い方しかできない男。
 あなたなんか最低よ。最低。デリカシーの欠片も無い。あなただって充分に最低じゃない。
 黙ってなさいよ、そんな事。
 何よ、見てられないって。あたしの事が好きだから、見てられない、って何よ?
 本当に馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿よ、あなたなんか。
 嫌いよ。最低よ。大嫌いよ。あなたなんか。本当に大嫌いよ。





 何もあなた、あたしの事をわかってくれていない!!!




「それで、好きな男に告白できないで、その恋愛の事を相談してた男に言いくるめられて付き合ったあたしなら、簡単に落とせると思った? はっ」
「それ本気で言ってる?」
「そうよ。殴りたい? 殴れば良いじゃない」
「この手は、君の手を握りたかった手だ。本当に馬鹿だなー。助けたいとか、そんな事を思ってるんじゃない。ただ俺は君が好きだから、幸せになってもらいたい。それだけ。なあ、そうやってずっと心止めて、自分の事を好きになってくれた男を誰も彼も拒絶して、独りでいるのかよ? そんなの、違うだろう。幸せになれるんだから、君。君、幸せになって良いんだから」
「ふざけないで。言わないで。身勝手な解釈をしないで。嫌いだから、あなたなんか。すごく大嫌いだから」
「知ってる。わかってるよ。嫌われてるの。ごめんな。でも君の事が好きだから見てられない。前の恋愛の馬鹿な男のせいで心を止めてしまってる君の事が見てられなかった。本当に君の事が好きだから。もう解放されろよ。それは正しいから。君は絶対に幸せになって良いんだから。幸せになれなきゃおかしいんだから」
「なるわよ。あたしは歩いてるんだから。前に歩いているんだから」
「うん。きっと、前に歩き続けていけば、そしたらいつか絶対に、君の事を必要としてくれて、君の存在理由になってくれる人が必ず迎えに来てくれるから。だからお願いだからそのまま歩き続けていって。そしたら、絶対に会えるから。君は幸せになっていいから。君は絶対にちゃんと君の事を幸せにしてくれる人を幸せにできる人だから」
「知らないわよ。あたしはあなたなんか大嫌いなんだから」
「うん。でも俺は大好きだった。ごめんね。君の幸せを願ってる」
「もうメアドも携帯の番号も変える」
「うん。でも俺は変えない。いつだって一番に飛んできてやるから。俺の名前を呼んでくれたら」
「だからあなたの事なんか大嫌いよ」
「うん」
 そして彼はあたしの前から立ち去った。
 身を引いた。
 激しく迷惑にも、人の前の恋愛を持ち出して、自分に魅力が無い事が理由でふられたのに、それを身勝手にも自分がふられた事の理由にして。
 本当に図々しい。
 迷惑な人。
 馬鹿な人。
 自意識過剰な人。
 本当に大嫌いだ。
 嫌い。嫌い。大嫌いよ。
 何が上書きよ。
 あなたなんかに上書きが出来るものですか。
 上書きなんて。
 何よずっと諦めないって言ってたくせに。どうせしつこくメールして、自分の事をわからせようとする事に、恥ずかしさや、あたしがそれで苦しんで、メールを出す度に、自分の事を知ってもらおうとアクションを取るたびに、あたしが傷ついていってるって、そんな気の遣い方をしてくれてるんでしょう!
 本当に勝手な男。
 馬鹿な男。
 図々しい。
 図々しい。
 図々しい。
 本当に最低。
 大嫌い。
 だけど、だからメアドも、携帯の番号も絶対に変わらないって、あたしはそれを信じてる。
 本当に馬鹿な男。
 馬鹿な男。
 馬鹿な人。
 あたしを傷つけたあなたなんか大嫌い。
 勝手に勘違いしてあたしに恋して、あたしに期待して・・・、
 なのに、
 なのに、
 それだったらあたしの事を捨てないでよ。
 捨てるぐらいなら、あたしに優しくしないでよ。
 大嫌いよ。
 大嫌いなんだから。
 独りの寂しさを知ってるあたしに、生半可な気持ちで期待して優しくしないでよ。
 男なんて皆、大嫌い。
 あたしに勝手に期待するだけ期待して、勝手にあたしに失望して、あたしから離れていく男なんて大嫌いよ。
 嫌いよ・・・・・
 そのくせ、メアドも携帯の番号も絶対に変えないって、
 あたしがあなたの胸の中に飛び込んでいくって信じてるあなたなんて大嫌いよ。
 ずるい。
 ずるい。
 ずるい。
 上書きなんて絶対にできないんだから。
 あたしは幸せになんかなれないんだから。
 あたしはあなたを幸せになんかできないんだから。
 できないんだから、あたしには・・・。


 あたしは顔を両手で覆って、ただ子どものように独りに泣いてしまった。



+++



 仕事中に仕事場に流れているFMラジオで、投降された葉書きが元ネタの小説だったりします。
 恋愛相談してた男に、言いくるめられて付き合ったけど、結局傷つけられて、恋が出来なくなって、ずっと独りが哀しい、って。


 このFMラジオのDJが男として、この話の元ネタとなった葉書きを送ってきた女の子のために、その子の相談役になってたのに、言いくるめて彼女にしてしまった男にすごい勢いで怒ってたけど、これは本当に私も同意。
 それは本当にルール違反だと思う。
 同じ男として私も軽蔑する。
 そこまでいった経緯の中では確かに色々とあったんだろうけど、でも、その女の子の事が好きになったのなら、好きになったで、でもその気持ちは黙って、その子に告白させて、上手く行ったのなら本当にもう男としてそれを喜んで、
 ダメだった時に初めて時間をちゃんと置いてから、告白なりなんなりするべきだろうと、私なら男としてそう思う。ちゃんと時間を置いてね。
 何回も言うけど私は同じ男として軽蔑するな、この男は。
 本当に最低の男だと思う。


 それで、DJさんも言ってたけど、本当にこの葉書きを送ってきた今も恋愛が出来ないで、時間も心も止めてしまってる女の子には本当に過去に傷ついた分だけ、そのご褒美というか、そういう悲しみを上書きで消してしまって、幸せに出来る本当のちゃんとした男と出会ってもらいたいな、ってすごく思った。
 あれだよね。ルール違反をした馬鹿男は、そいつが下種だったんだから、天罰が当たれと思うけど、なんか違うだろうと思う。その女の子が苦しんでいるのは。
 本当にただただこの女の子には幸せになってもらいたいなー、って、その葉書きの後に流れた曲を聴きながら思いました。


 でも本当にね、そう思うのだよ。
 本当に。
 この女の子は絶対に幸せになって良い。
 幸せになれなきゃおかしい。間違ってる。


 この葉書きをラジオで聞いて、このお話を書かずにはいられなくなった。


 でももしも私なら、本当にこう書いた様にそんな男から見ても馬鹿で下種で卑怯な最低男の仕出かした事で、自分の想いが受け入れられないなら悔しいし、
 それ以上にだからこそ振り向かせたいかなー、と思う。っていうか、本当に私を選ばなくても良いから、だけどちゃんと絶対に誰かを選んで幸せになってもらいたいなー、って。
 痛みを知ってると、どうしてもそれに触れる事に臆病になってしまうけど、でも痛みを知ってるからこその優しさってあるだろうし、
 本来優しさと痛みを知ってる事はイコールだろうし、
 そもそも傷つけられた人が苦しんでいるのは本当に間違ってる。


 目だよね。目を養えば良いと思う。本物と偽物を見分けられる。
 でも本当、この葉書きの女の子には、きっと傷ついたからこその出逢いがあると思うから、それは傷ついた事の対の幸せだと思うから、そういう事に、感情に、素直に身を任せて良いと思う。



 誰も絶対に誰かを幸せにしてあげられる力ってのは、持ってるんですよね。
 とかく不幸な環境とか、過去に痛い想いをしてしまった人って、その事のせいで、自分には何も無い、そういう運命なんだ、手の平には何も持って生まれてこなかったんだ、って思い込んでしまうけど、
 そう思い込んじゃう事で、逆にせっかく手の平に乗ってる幸せが指の隙間から落ちちゃうぞ、って。そう思う。
 とにかく歩けば良いと私は思う。
 幸せになる事に良い意味でのやり方として貪欲になってしまえば良いと思う。
 歩けば前に行くでしょう?
 進んで下がってでも、進んでる事に変わりなくて、歩く事で、誰かに出会う事への準備がなされて、それで出会えたっていうそういう奇跡は、その歩いてきたことへのご褒美なんじゃないかなー、って私は本当にそう信じてる。
 それは恋愛とか、仕事とか、夢とか、全部ね。




 大切な事だからこそ、やっぱり本当に正しい事をしないといけないんだと思う。
 恋愛でも、仕事でも、夢でも。
 正しい事をしてるからこそ、それゆえの巡り合わせって。
 っていうか、正しくない事をすれば、それで不正な手を使ってそれを手に入れても、
 それは絶対に、そう、例えるのであれば、とても欲しい星があったけど、その星は空で輝いていてこそ綺麗だったのに、
 その輝きに魅せられて、星を無理やり手に入れても、それは星が望んでいた空から引き離された時点で、正しくない事をしたから、その星の輝きは消えてしまう。
 星は壊れてしまうから。
 だから星が本当に欲しいのなら、もうきっと、見てるだけにしておいた方が良い。
 そしたらきっと星は空で綺麗に輝けているから。
 ただただ地上から遠い夜空にある星を見てることこそが、本当にその星が綺麗だと思えて欲しいと祈る様に願う人間に、許される絶対的に正しい事なんだろうな、って。



 時には本当にどんなに祈るように願ってしまうぐらいに欲しい星があっても、それが夜空にあってこそ輝いていてくれると、わかっているのなら、その美しさに憧れているのなら、だからもう地上で遠い夜空にあるそれを見てるしかなくて、
 そしてきっとそれが地上にいる人間が憧れている星の為にしてあげられる事。
 遠くからずっと、その星が輝いていられるように。
 さらに輝きを増す事を、人間は祈りながら地上からただ夜空を見上げる。それが人間に出来る祈り。願い。
 最大限の星への奉仕。
 そうだね。だって人間は、星を手に入れたら、それはもう星を壊してしまってるという事だから。
 そういう事。




 

しおり

2007年06月29日 | 短編



 私の娘が通う保育園の前には図書館がありまして、
 私たち母娘は毎日その図書館によっては絵本や児童書を借りてきて、それを夕食を食べ終えた後に一緒に読むのが日課となっていたんです。
 はい。そうやって私は娘と一緒に本を読みながら主人が帰ってくるのを待つのが、何よりもの楽しみでした。
 ただ、今日はそんな楽しみに少し影がさしました。
 いえ、娘が選んだ絵本の間に挟まれていたしおりが、なんだかとても不気味だったんです。
 それは手作りのしおりで、彼岸花の花弁がシールで貼られていました。そして裏には真っ赤なクレヨンで、女の子の名前が書かれていたのです。
 どうにもそれを見たら気分が悪くなってしまい、それで、娘には即興で私が作ったお話を聞かせていたんですが、気付くと娘がそのしおりで遊んでいて、
 それで私は娘を怒鳴ってしまったんです。
 娘は大泣きしてしまい、泣き疲れて眠ってしまいました。
 私は娘の頬についた涙をふき取りながら反省しました。決して感情で子どもを叱る親にはならない、と心に誓っていましたから。それなのに………。
 私は落ちていた気味の悪いしおりを元の通りに絵本に戻しました。明日の朝、娘を保育園に送り届けたら、その足でこの本を返却に行こうとそう心に決めて。
 私はいつの間にか眠っていました。
 私の横には空の小さな布団があります。
 私は目だけしか動かせずにいて、それでようやっと目を動かして、娘を見つけたんです。
 娘は私の知らない女性と手を繋いでどこかへ行こうとしていて、それで私は必至に娘を呼んで、
 私は目だけしか動かせず、声も出ませんでしたが、それでも娘は私に気付いて、泣き叫んで、暴れて、それでその女性から逃げてきて、
 私に抱き付いてくれたところで、
 私は夢から覚めたんです。
 起きると娘も泣いていて、
 それでよく話を聞いたら、娘は私と同じ夢を見ていて、
 私はただただ怖ろしくってしょうがありませんでした。
 一体私たち母娘に何が起こったのか、まるで理解できなくって、
 部屋のチャイムがそこで鳴って、私たちは悲鳴をあげてしまって、
 だけどそれは主人だと時計の針が指し示す時刻でわかりまして、
 ただただ私は早く主人に私と娘の傍に居てもらいたくって、娘を抱いて、玄関を開いて、
 ーーーーーそしたら、そこに居たのはあの夢の中の見知らぬ女性で、彼女はただ一言、
「どうして私だけが…………」





 そこで私は目が覚めました。
 今度こそ本当に。
 そして、娘が借りてきたあの絵本に挟んであったしおりを胸騒ぎのまま探せば、それは絵本のどこにも、もう、ありませんでした・・・・。