私が従者をつれ、街路を歩いていると、街角の神殿のあたりが騒がしい。
近づくと、黒マントと呼ばれる、砂漠で修業しているキリスト教徒の過激な連中が、神殿の前の女神像を倒そうとしている。
それを、白いロープを着たギリシア・ローマの神々を信ずる男達が止めようと騒いでいるのだ。
「偶像は神への冒涜だ、破壊しろ!」
「ローマ帝国はミラノ勅令で、各人各様の信仰を認めているのだぞ!」
多勢に無勢、女神像は引き倒されてしまった。
迫害されていた側が、今は迫害する側に立っている。
大勢の群衆はあきらめ顔だ。
「ギリシア・ローマの神々は我々を見捨てて去って行ったんだ -------- 」
キリスト教は一神教で、唯一神しか認めない。
ギリシア・ローマでは多神教で、自然現象を擬人化した神々や自分の守護神を信仰している。
一神教の方が強力で、非寛容である。
他方、多神教は人間くさく、曖昧だが、他者の信仰を認める寛容さがある。
キリスト教が勢力を拡大していったのは、世の中の状況が寛容さを許さない厳しいものになったせい、とも考えられる。
日曜日に私の通うキリスト教の集会所にも、黒マントの連中が押し寄せてきた。
祭司に詰め寄る。
「あなたはキリストを神ではない、と言っているそうだが、本当か?」
「キリストは限りなく神に近い存在で、神の御言葉を伝えてくださるお方です。」
「違う、神とその子イエスは同格であり、これに聖霊を加えての三位は一体なのだ。」
「異端の考えを広める者は、神の名において抹殺するぞ!」
参考図:「ビジュアル学習図鑑古代ギリシャ」、金の星社、1998
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