“無事に日本に帰れるだろうか、家族は元気でいるだろうか、戦争がこのまま続いたら---”
色々なことが足達の頭をよぎり、寝付かれなかった。
夜風に当たろうと天幕から這い出たとき、デッキの物陰でサッと黒い影が動いた。
不自然な気配を感じ、近寄ると黒く水に濡れた跡がある。
宿舎の兵隊から、2年前にオーストラリアの特攻隊がシンガポール港に潜入し、時限磁気機雷で輸送船7隻を爆沈させたことがある、という話を聞いた。
「ここにきて船を沈められたらかなわない。」
仲間と一緒に警備隊に報告する。
警備隊の少尉と兵2人が駆けつける。
懐中電灯で照らすと、甲板上に水滴が点々と落ちている。
それは、2メートル立方ぐらいの梱包物の山の中に消えていた。
「横一列になり、互いに合図しながら荷物の隙間を抜けていこう。」
少尉は片手に懐中電灯、もう一方の手にピストルを持って進む。
足達らは鉄棒やモップを持って後に続く。
通り抜けられないところは乗り越えていく。
キャンバスの動きに心臓が止まる。
「いたぞ!」
荷物の隙間にうずくまった濡れ鼠の男が、懐中電灯の灯りに照らせれ、震えていた。
引きずり出された男は尋問のため、警備隊に連れて行かれた。
すっかり眠気のさめた足達らは、天幕の中で雑談をしていると、
「おい、ちょっと来い!」
手すりに大勢の人が集まり、下の方をのぞいている。
埠頭の舫い杭の近くで、数人の兵に囲まれ、密航者の男がひざまずいている。
将校がひざまずいた男の後ろに回りこんだ。そして、閃光が走った。
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