巨大な建屋の中に、Uボートの輪切りされた胴体が並んでいる。
無数の人間がそれらに取り付いて、忙しく働いている。
頭上を、クレーンが重量物をつり下げて通過した。
ひどい騒音の中で、体格のよい職長が声を張り上げる。
「君たちは図面の通りに配管を取り付けるのだ。」
「いいか、間違えたら、我が祖国と総統のために戦っているUボートの戦士達への裏切りになるんだぞ。」
僕はハンス・ワグナー、ブレーメン工科大学で学んでいる。
戦争も3年目(1942年)を迎え、ますます苛烈なものになってきたことを、肌身に感じていた。
学業は午前中だけで、午後は勤労動員でブレーメンの造船所で働いているのだ。
学友のグロスマンとペアになり、Uボートの内殻の壁に配管のパーツをレンチで取り付けていく。
防空用の遮蔽ネットをかぶせた工場内は通気が悪く、汗が噴き出る。
作業は午後7時まで続いた。
夜間勤務の作業員と交代し、配給券をもらい、大学の寮に戻る。
黒パンとスープの粗末な食事をとり、明日の教材に目を通し、早々にベッドに潜り込む。
夜半過ぎ、空襲警報に叩き起こされた。
身の回り品の入ったリュックを持ち、地下室に避難する。
まもなく、ズンズンという高射砲の発射音が聞こえだした。
ゴーゴーという音と共に、ドスンドスンという振動が地下室を揺らす。
「今夜も造船所が狙われたな。」
「イギリスは効果の少ない爆撃をよく続けるものだ。」
「もうじきUボートがイギリスの首を締め上げるさ。」
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