独ソ戦が始まって1年以上過ぎた。
最初、数週間で終わると言われていた戦いは、ますます激しくなってきている。
学友達も次々召集され始めた。
ヒトラー・ユーゲントの海洋団で一緒にヨットを走らせたレンセンにも、召集令状が来た。
夜、寮の一室でささやかな壮行会が開かれた。
「我らが友、レンセン君の出征を祝って乾杯!」
「1年後には、またここに戻ってくる。土産話を持ってな。」
「勝利を!」
威勢のよいかけ声とは裏腹に、会話は弾まなかった。
深夜、内庭でレンセンと話をする。
「東部戦線に回されたら、生きては帰れないだろう。」
「我がドイツ軍は不敗だ、クリスマスまでにはロシアを叩きのめすさ。」
「フランスとの戦いには正当性があったが、ソ連との戦いは間違いだよ。」
「しっ、寮内にもナチ党のシンパがいるんだ。言葉に気をつけろ。」
遠くにサイレンの音が聞こえだした。
「元気でな。」
「あゝ、またここで会おう。」
ハンスはその夜、なかなか寝付けなかった。
“自分もいずれは召集される。”
“国民の義務として出征するのにやぶさかでないが、風の便りに伝わってくる、雪と泥の東部戦線には行きたくない。”
ハンスの父は、ハンブルクで造船技師として働いている。
その父の、前の大戦での戦場体験の話も、重くのしかかる。
“よし、今のうちに海軍に志願しよう。”
“Uボートに乗ることになるかもしれないが、その時は‐死なば諸共‐で、諦めがつく。”
最新の画像もっと見る
最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- クリミアの歴史(7)
- 「オリエント急行」バルカンを行く(9)
- ウイルスって何だろう(6)
- 不死身の通信ネットワークを構築せよ!(6)
- ヒトラーのいない第二次世界大戦(7)
- 不思議な病気(8)
- 秀吉の野望と挫折(9)
- 生命の源「アミノ酸」(6)
- 「ドイツ民主共和国」の消滅(8)
- ナイルの水争い(8)
- ドン・カザーク(19)
- 貧者の空軍(9)
- 地震って何?(7)
- 遥かなる海へ(16)
- 北軍兵士の見た「風と共に去りぬ」(12)
- 脳内麻薬を捜せ!(9)
- 19世紀パリの光と影(9)
- 若宮丸の航跡(9)
- 原爆スパイ(8)
- 「北京の55日」番外編(8)
- 「地球外生命」はいるか?(5)
- 「林彪事件」の謎(8)
- 金(きん)(8)
- 国歌いろいろ(6)
- 悪党(鎌倉末期)(6)
- 老化を防げ!(5)
- 森の中に消えゆくトラ(4)
- テスラー成功と挫折(7)
- 国境とは?(25)
- 日記(0)
- 大西洋(696)
- ソマリアの青い海(20)
- 吹雪のバルト海(24)
- ペルシャ湾波高し(24)
- ロック・オン(20)
- ワレ「雪風」ト共ニ(20)
- 騎兵隊、前へ!(26)
- 惑星の動きを探れ!(19)
- 東方見聞録序章(25)
- 元素を捜せ!(25)
- レアメタルは戦略物質だ!(6)
- 種はどこから?(17)
- 智の都、アレクサンドリア(20)
- 文化大革命の嵐(22)
- 世界は微生物で満ちている!(19)
- 連合艦隊の誕生(17)
- 鉄砲見参!(18)
- 成功は失敗の始まり(17)
- 黒船の影(19)
- 石油の一滴は血の一滴(15)
- 前門の虎、後門の狼(8)
- 月をめざして(18)
- 水の不思議と太陽の恵み(17)
- がんの正体をあばけ!(10)
- 旅行(0)
- グルメ(0)
バックナンバー
人気記事