gooブログはじめました!

第7話(2)

 国境の町(2)

 国境の河、ニーメン河を渡った。
思えばこの河を渡り、東へ向かったのは、たった5ヶ月前だった。

 ひげ面の男達が抱き合って、おいおい泣いている。
ギイの眼からも大粒の涙がこぼれ、凍傷でひび割れした頬をつたう。
遠征以来、初めて流す涙だった。

 ギイ達は略奪した酒樽やパンを路上に持ちだし、酒盛りを始めた。
空きっ腹にワインが染み渡り、たちまち乱痴気騒ぎになる。


 しばらくして、ピカールがふらつく足取りでやってきた。
「ちびの伍長殿(ナポレオンのこと)のおかげで、ひどい目に遭ったな。」
「さて、ギイはこれからどうする?」

 「共和国への義務は十分果たしたよ。軍を離れ、フランスに帰る民間人の中に紛れ込んで、故郷に帰る。農作業が待ってるよ。」
「ピカール、君は?」
「乗りかかった船だ。俺は最後までナポレオンに付き合うよ。」

 「餞別だ。元気でな。」
と言って、ピカールは一握りの銀貨をギイに渡した。
その銀貨は、ヴィルナとコヴノの間で、馬を失って坂を上れないため、放棄された軍資金輸送車から失敬したものだった。

 こうしてギイにとって、長い巡礼の旅がようやく終わったのだった。

--------------------------------------------------------------------

 この遠征に従軍した42万人のうち、24万人が戦闘や病気、飢えや寒さで死亡、その3分の2がフランス兵だった。
そして13万人が捕虜となり、過酷な運命を辿った。

 こうして大陸軍は消滅した。
そして、ナポレオンのヨーロッパ制覇の夢も、潰えたのである。

        ――― 完 ―――

 参考図:「ナポレオンの生涯」、ティエリー・レンツ、創元社、1999
     
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「騎兵隊、前へ!」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事