国境の河、ニーメン河を渡った。
思えばこの河を渡り、東へ向かったのは、たった5ヶ月前だった。
ひげ面の男達が抱き合って、おいおい泣いている。
ギイの眼からも大粒の涙がこぼれ、凍傷でひび割れした頬をつたう。
遠征以来、初めて流す涙だった。
ギイ達は略奪した酒樽やパンを路上に持ちだし、酒盛りを始めた。
空きっ腹にワインが染み渡り、たちまち乱痴気騒ぎになる。
しばらくして、ピカールがふらつく足取りでやってきた。
「ちびの伍長殿(ナポレオンのこと)のおかげで、ひどい目に遭ったな。」
「さて、ギイはこれからどうする?」
「共和国への義務は十分果たしたよ。軍を離れ、フランスに帰る民間人の中に紛れ込んで、故郷に帰る。農作業が待ってるよ。」
「ピカール、君は?」
「乗りかかった船だ。俺は最後までナポレオンに付き合うよ。」
「餞別だ。元気でな。」
と言って、ピカールは一握りの銀貨をギイに渡した。
その銀貨は、ヴィルナとコヴノの間で、馬を失って坂を上れないため、放棄された軍資金輸送車から失敬したものだった。
こうしてギイにとって、長い巡礼の旅がようやく終わったのだった。
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この遠征に従軍した42万人のうち、24万人が戦闘や病気、飢えや寒さで死亡、その3分の2がフランス兵だった。
そして13万人が捕虜となり、過酷な運命を辿った。
こうして大陸軍は消滅した。
そして、ナポレオンのヨーロッパ制覇の夢も、潰えたのである。
――― 完 ―――
参考図:「ナポレオンの生涯」、ティエリー・レンツ、創元社、1999
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