リマの郊外には灰色の砂漠が迫っていた。
そして、緑一つない、なだらかな丘陵地帯一面に広がるスラム街。
豊かさを求め、アンデス高地から大都会に、人々が押し寄せているのだ。
コスタと呼ばれる海岸地帯には、一年を通し、雨はほとんど降らない。
人々は、アンデスからの水を利用して灌漑農業を営んでいる。
武田の赴任先の「ペルー野菜生産技術センター」は、リマの北約60キロの町、ワラルにあった。
ワラル周辺はサトウキビ畑や綿の畑が広がっており、緑がまぶしい。
ワラルはリマへの重要な食料供給地になっているという。
職員や日本の専門家3人が迎えてくれる。
「Mucho gusto!」
「Bienvenida!」
こちらがくすぐったくなるような歓迎ぶりだ。
カウンターパートナーのサンチャゴを紹介される。
今夜、武田を自宅の夕食に招待するという。
「6時にタケダさんのアパートメントに迎えに行きます。」
日本から持ってきた機材を整理していると、助手のマルコが部屋にやってきた。
「テツダイ、アル? タケダ、アミーゴ」
フレンドリーな雰囲気で、武田のテンションも上がってきた。
専門家の真田さんと、今後の仕事の打ち合わせをする。
ペルー料理には欠かせない、タマネギの品種改良を担当することになった。
まず、いろいろな性質を持つ品種を集める。
それらを栽培して交配し、種を取る。
それらの種から育ったもので、望ましい性質を持つもの-多収穫、甘い、大きい、病気に強い、乾燥に強いなど-を選別して種を取っていく。
それを何世代にわたって繰り返し、良い品種を開発する。
工業製品に比べて、気の長い、地道な研究開発だ。
宿泊は町外れにある、日系2世のウメダさんが経営するアパートメントだ。
奥さんは品の良い50代の婦人で、流ちょうな日本語を話す。
旦那さんは奥に引っ込んで、表に出てこない。
招待をしてくれたサンチャゴを待っていたが、約束の6時を過ぎても現れない。
1時間待っても来ず、しびれを切らして外に出かけ、近くの店で豆料理を食べた。
場所がわからなかったのだろう、と解釈したが、こちらでは
“約束を実行するかどうかの決定権は、約束した方にある”
ことを、後で知った。
参考図:「ワラルを訪ねて」、ニッケイ新聞、2003
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