ノモンハンでは、1939年8月末、ソ連軍が圧倒的な兵力を結集し、ハルハ河東岸の日本軍を包囲、殲滅する作戦を開始した。
そこで、第23師団は全滅に等しい損害を受けた。
そして、9月にはソ連主張の国境線を認める形での停戦となった。
そのころヨーロッパでは、ヒットラー・ドイツのポーランド侵攻により、イギリス、フランスはドイツに宣戦布告、第2次世界大戦が始まっていた。
ノモンハン停戦により、捕虜交換の交渉が始まり、収容所は大騒ぎになった。
ソ連当局は残留を薦めた。
「ソ連へ帰化すれば、市民権を与えられ、普通の生活ができる。結婚も許される。」
「日本軍に戻れば、軍法会議にかけられ、悪くすれば銃殺だ。」
山本の同室の将校は、ひどい火傷を負ったパイロットと片足を失った歩兵大尉だ。
皆、日本に帰りたい。
「我々は自分の意志で捕虜になったのではない。負傷して動けなくなったところを捕まったのだ。情状酌量はあるだろう。」
歩兵大尉が不吉なことを言う。
「中国戦線に居たとき聞いた話だが、捕虜になった将兵は敵前逃亡の嫌疑で厳重な取調べをうけ、軍法会議にかけられるそうだ。」
「敵前逃亡となったら即、死刑、そうでなくても降格され、死地に追いやられる。」
「将校の場合、軍法会議の前に、自決を強要された、と聞いた。」
「いずれを選択しても、二度と日本の土は踏めまい。」
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(“祖国”を失うことは耐えがたい。)
(しかし、“不名誉な死”も受け入れがたい。)
戦車隊にいたときの、隊長の“貴様の臆病な振る舞いは、本部に報告しておく!”の言葉が頭をよぎる。
山本は、3日3晩混乱した頭で考え、“残留”をソ連軍大尉に伝えた。
正直に言えば、“差し迫った死”より“後々の死”を選んだのだ。
同室のパイロットは“残留”、歩兵大尉は“帰還”を選択した。
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