横浜の中心街は、空が大きく広がり、ガランとした感じだ。
瓦礫の中、ビルがそこここに残っているが、それらのビルの中は焼け落ちていた。
5月29日の昼間、5百余機のB29の焼夷弾攻撃を受け、横浜市の44%が壊滅した。
大岡川沿いに、実家のある上大岡へと急ぐ。
結構、焼け跡にはバラックが立ち並んでいる。
丘のふもとの家々は無事だ。人の動きも東京より多い。
焼け残った神社を目安に、実家のあったと思われる焼け跡にたどり着く。
瓦礫置き場になっていた。
何か目安になるものは残っていないかと捜していると、
「申ちゃんじゃあないかね。」
近所の駄菓子屋のおばあさんだった。
「お帰り、ご苦労さんだったね。」
「親父とおふくろの居場所はわかりませんか?」
おばあさんは言い難そうに、ため息をついた。
「二人とも、火に追われて大岡川に逃げ込んだが、助からなかったようだよ。」
兵藤は井戸の水を汲み、頭からぶっ掛けた。
とにかく生きていかねばならない。
焼け跡からトタン板と木片を集め、寝場所を作った。
近くの区役所にいき、住民登録をする。
区役所の建屋は焼けたが、書類は避難されていて無事とのことだった。
配給券をもらう。
夕方、町内会の人から水団をふるまわれた。すきっ腹にしみわたった。
翌日、仕事があるという、根岸の倉庫街にいく。
軍保有物資払下げ品の運搬だ。
片手ではバランスが取りにくく、重量物は運べない。
日当は1円50銭、健常者の半分だ。
闇市では卵1個分にしかならない。
何日かして、帰ろうとした時、体格のよいギョロ目の現場監督に呼ばれた。
「お前、特攻隊の生き残りだって?」
「恥ずかしながら、てやつです。」
「胸を張れ。ふんばって、後方でのうのうとしていたやつを見返してやれ!」
倉庫の影で、払い下げ物資の入った袋を、こっそり手渡された。
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