突入用のトンネル工事は急ピッチで進められた。
公邸背後の家の床に、1m四方の穴を4mの深さまで掘り、公邸ホール床下まで掘り進む計画だ。
突入部隊が移動できるよう、断面は1.5m四方と広く取り、周りを木材で補強した。
作業には、専門の鉱山労働者が1日3交代で当たった。
機械は使えない。手堀りだ。
空調のため、5mおきに扇風機が置かれた。
物音を弱くするため、床には絨毯が敷かれた。
掘り出した土の搬出が問題だった。
1袋2.5Kgにパックされ、一般乗用車で、夜間に運び出された。
マスコミに、重量物を積んだ車がよく通る、と報道されたこともあった。
掘り出された土は、総計1000トンに達した。
どんなに注意深く掘っても、床下ともなれば、音が漏れる。
最初に、1階に寝ていた人質が、気がついた。
そしてついに、ゲリラのリーダー、セルパに気づかれてしまった。
「アオキ、床に耳を当て、聞いてみろ。この音は何だ!」
「何か掘っている音に聞こえる。」
「フジモリは我々の裏をかこうとしている。交渉は打ち切りだ!」
セルパはトンネルを人質脱出用の穴と考えたようで、1階の人質を2階に移し、階段に爆薬をセットした。
人質や侵入者に犠牲を出させ、フジモリの失敗を宣伝したかったようだ。
3月、人質たちにとっても、ゲリラたちにとっても、緊張と焦りはピークに達していた。
「武田さん、覚悟を決めるときが近づいたね。」
「くそ、ついていない。1週間の出張が、こんなことになるなんて!」
「人生、一寸先は闇、とは良く言ったものだ。私は部屋の中で殺されるより、撃たれても、外に逃げるよ。」
シプリアーニ大司教の献身的な調整が続いていた。
“セルパの妻を含む、MRTA幹部4人の釈放”→フジモリ拒否
“占拠メンバーの亡命”→キューバ受け入れ表明
ゲリラたちの間でも、最後まで戦うか、亡命かで、分裂していた。
参考図:「封殺された対話」、小倉英敬、平凡社、2000
最新の画像もっと見る
最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- クリミアの歴史(7)
- 「オリエント急行」バルカンを行く(9)
- ウイルスって何だろう(6)
- 不死身の通信ネットワークを構築せよ!(6)
- ヒトラーのいない第二次世界大戦(7)
- 不思議な病気(8)
- 秀吉の野望と挫折(9)
- 生命の源「アミノ酸」(6)
- 「ドイツ民主共和国」の消滅(8)
- ナイルの水争い(8)
- ドン・カザーク(19)
- 貧者の空軍(9)
- 地震って何?(7)
- 遥かなる海へ(16)
- 北軍兵士の見た「風と共に去りぬ」(12)
- 脳内麻薬を捜せ!(9)
- 19世紀パリの光と影(9)
- 若宮丸の航跡(9)
- 原爆スパイ(8)
- 「北京の55日」番外編(8)
- 「地球外生命」はいるか?(5)
- 「林彪事件」の謎(8)
- 金(きん)(8)
- 国歌いろいろ(6)
- 悪党(鎌倉末期)(6)
- 老化を防げ!(5)
- 森の中に消えゆくトラ(4)
- テスラー成功と挫折(0)
- 国境とは?(25)
- 日記(0)
- 大西洋(696)
- ソマリアの青い海(20)
- 吹雪のバルト海(24)
- ペルシャ湾波高し(24)
- ロック・オン(20)
- ワレ「雪風」ト共ニ(20)
- 騎兵隊、前へ!(26)
- 惑星の動きを探れ!(19)
- 東方見聞録序章(25)
- 元素を捜せ!(25)
- レアメタルは戦略物質だ!(6)
- 種はどこから?(17)
- 智の都、アレクサンドリア(20)
- 文化大革命の嵐(22)
- 世界は微生物で満ちている!(19)
- 連合艦隊の誕生(17)
- 鉄砲見参!(18)
- 成功は失敗の始まり(17)
- 黒船の影(19)
- 石油の一滴は血の一滴(15)
- 前門の虎、後門の狼(8)
- 月をめざして(18)
- 水の不思議と太陽の恵み(17)
- がんの正体をあばけ!(10)
- 旅行(0)
- グルメ(0)
バックナンバー
人気記事