gooブログはじめました!

第5話(4)

公邸占拠さる(4)

 突入用のトンネル工事は急ピッチで進められた。
公邸背後の家の床に、1m四方の穴を4mの深さまで掘り、公邸ホール床下まで掘り進む計画だ。
突入部隊が移動できるよう、断面は1.5m四方と広く取り、周りを木材で補強した。

 作業には、専門の鉱山労働者が1日3交代で当たった。
機械は使えない。手堀りだ。
空調のため、5mおきに扇風機が置かれた。
物音を弱くするため、床には絨毯が敷かれた。

 掘り出した土の搬出が問題だった。
1袋2.5Kgにパックされ、一般乗用車で、夜間に運び出された。
マスコミに、重量物を積んだ車がよく通る、と報道されたこともあった。
掘り出された土は、総計1000トンに達した。

 どんなに注意深く掘っても、床下ともなれば、音が漏れる。
最初に、1階に寝ていた人質が、気がついた。
そしてついに、ゲリラのリーダー、セルパに気づかれてしまった。

 「アオキ、床に耳を当て、聞いてみろ。この音は何だ!」
「何か掘っている音に聞こえる。」
「フジモリは我々の裏をかこうとしている。交渉は打ち切りだ!」

 セルパはトンネルを人質脱出用の穴と考えたようで、1階の人質を2階に移し、階段に爆薬をセットした。
人質や侵入者に犠牲を出させ、フジモリの失敗を宣伝したかったようだ。

 3月、人質たちにとっても、ゲリラたちにとっても、緊張と焦りはピークに達していた。
「武田さん、覚悟を決めるときが近づいたね。」
「くそ、ついていない。1週間の出張が、こんなことになるなんて!」
「人生、一寸先は闇、とは良く言ったものだ。私は部屋の中で殺されるより、撃たれても、外に逃げるよ。」

 シプリアーニ大司教の献身的な調整が続いていた。
“セルパの妻を含む、MRTA幹部4人の釈放”→フジモリ拒否
“占拠メンバーの亡命”→キューバ受け入れ表明
ゲリラたちの間でも、最後まで戦うか、亡命かで、分裂していた。

参考図:「封殺された対話」、小倉英敬、平凡社、2000
     
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事