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第5話(3)

公邸占拠さる(3)

 ペルー人人質の中には、武力突入はあり得るだろう、と考えている人達が居た。
軍・警察関係者だ。
突入を成功させるには、内部の正確な情報が不可欠だ。
彼らは注意深くゲリラの人数や名前、配置、役割、行動パターン、武器などについての情報を集めた。

 また、人質の人数、居場所についても調べた。
その中心人物が元海軍中将で、情報戦の専門家、ジアンピエトリだった。
後は、集めた情報をどうやって外に送るか、だった。

 実は、国家警察対策本部が、公邸内への差入れ品-ポット、松葉杖、宗教画、聖書などに、巧妙に盗聴マイクを仕掛けていた。
そのマイクからの情報は、公邸近くの建物に設置した、盗聴オペレーション・システムでキャッチされていた。
しかし、そのマイクに気づく人質は、1ヶ月ほどは居なかった。

 ジアンピエトリは、必ずどこかに盗聴マイクが仕掛けてあるだろうと思い、捜し回った。
そして、とうとう差し入れられたギターケースの中のマイクを見つけた。

 「愛するペルーよ、もし私のことを思っているのなら、ラ・クカラーチャの曲を聴かせてくれ。」
2日後の早朝、公邸外の大型スピーカーから、軽快なラ・クカラーチャの曲が流れ始めた。
“成功だ!” ジアンピエトリは心で喝采した。

 その日から毎日数回、ギターを弾き語りしながらのジアンピエトリのメッセージが送られ、救出作戦を立てる上での重要な情報源になった。

 あるとき、ジアンピエトリがギターを弾いていると、若いゲリラが近づいてきた。
ジアンピエトリは、自分の顔から血の気が引くのがわかった。
「おまえ、そんな訳のわからない曲じゃあなく、フォルクローレをやれ。」
唯一知っている曲、“El Condor Pasa”を全力で弾いた。

 また、ジアンピエトリらは、他の人質に、不測の事態の際の対応を教えていた。
「常に白いシャツを着て、ゲリラと見分けが付くようにしておくこと。」
「突入があった場合、床に伏せ、撃たれないように、じっとしていること。」

参考図:「封殺された対話」、小倉英敬、平凡社、2000
     
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