[ ギュンター兵長の話 その2 ]
深夜、ヤイラ山脈の峠に着き、応急の防衛陣地を作った。
我々の分隊は、対戦車砲を守る位置につく。
行軍の疲れでウトウトしていると、給弾手のピーターセンが突っつく。
「ギュンター兵長、戦車です!」
ゴーゴーという音と共に、地面が震動する。
緑灰色のT34戦車群が、ゆっくりと坂道を登ってくる。
ドン!
先頭戦車の前部に、黄色い閃光が走った。
その戦車の砲塔がゆっくり回転し、戦車砲が火を噴いた。
ドカン!!
土砂が背中に降りかかる。
私も随伴歩兵のいるあたりに、機関銃火を浴びせた。
砲弾が飛び交い、あたりは砲煙と爆煙で薄暗くなった。
数両の戦車が撃破され、炎に包まれる。
それらが道をふさいだため、敵は動きが取れなくなり、後退していった。
「撤退!」
シュトルモビクや砲兵隊が現れる前に移動する。
峠を越せなかった対戦車砲は爆破された。
海岸道路まで、狭く蛇行した山道が続く。
タン、タタタン
乾いた銃声が山々にこだまする。
パルチザンだ。
後衛部隊で掃討隊を編成し、2方向から攻め上がる。
斜面を登る兵士の一人が、崩れるように倒れた。
私は、発砲の硝煙の上がる岩陰に向けて、機関銃を撃ち続けた。
味方の迫撃砲弾に追われ、パルチザンは遁走した。
我々は著名な保養地ヤルタを通り、4月16日にセヴァストポリ要塞地区に入った。
2年前、マンシュタイン将軍の第11軍が、世界最強と言われた、この要塞を攻略したのだった。
その後、ドイツ軍はセヴァストポリを防衛拠点にする予定がなかったので、要塞設備は破壊されたままの状態だった。
「まるで廃墟だな。これでは長くは持ちこたえられない。」
「ルーマニアへ撤収するまでの時間を稼げればよいそうだ。」
中隊長がコンクリートの台の上に立ち、命令文を読み上げる。
「セヴァストポリ死守の総統命令が出た。最後の一兵まで戦え!」
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