ソ連軍は強力な機械化部隊を持っていたので、山本の所属する第一戦車団にも出動の命が下った。
基地は大変な忙しさになった。
鉄道で、第一戦車団を即時戦闘できる状態にして輸送しなければならない。
中戦車38両、軽戦車35両、軽装甲車19両はもとより、段列(補給、後方支援部隊)の牽引車、トラックそれと大量の弾薬、燃料、食糧、医薬品、修理機械、工具、交換部品、無線装置等々--
隊長から小隊車の乗車位置が指示される。
「我が小隊は34番貨車だ。」
無蓋貨車に鉄板を渡し、7トンの軽戦車3台をゆっくり移動させる。
中戦車は12トンだ。鉄板が撓っている。
「ロープでしっかり固定だ。」
隊員は手馴れたものだ。ジャッキを用いて固縛し、カバーをかける。
早朝、公主嶺を出発する。
初夏の光に照らされた大平原の緑がまぶしい。
一息ついた隊員たちと握り飯をほおばりながら、世間話をする。
「徐州での戦いはどんなだったかね。」
「追っかけごっこでしたよ。故障、修理の連続でした。」
「上海では大変な思いをしたぞ。クリークで移動の余地はないし、敵の速射砲には撃たれるし。」
「あの時は大分やられたな。」
「ソ連軍相手では、あんなもんではすまないぞ。」
「少尉殿、敵の戦車部隊は出てきているのですか。」
「敵は本気らしい。こちらも第23師団が全力を挙げて攻撃する、と聞いている。」
「クワバラ、クワバラ」
翌日の昼、白城子を過ぎ、列車は大興安嶺山脈に入った。
警備の兵を除き、皆寝入っている。
下車したら、いつ眠れるかわからないのだ。
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