居心地が悪く、早々に引き上げようと、公邸建屋に向かって歩き出した。
“ドンッ!”
皆、ピタッと動きを止め、聞こえてきた音の方向に顔を向ける。
続けて、“タタタタッ”という銃撃音。
武田は、反射的に芝生に伏せた。
建物の近くに居た人たちは悲鳴を上げ、建物内に殺到する。
頭上を、銃弾が不気味な音を立てて飛ぶ。
背後から黒い影がわき出してきた。
「手を頭の後ろに組み、立ち上がれ!」
「建物の中に入れ!」
ゲリラだ。
マスクで顔を隠し、ダークグリーンの戦闘服を着ている。
内庭にいた400人を超える人が、自動小銃に追い立てられ、公邸内のホールに押し込められた。
ゲリラは正面玄関からも侵入し、退路をふさいだのだ。
武装グループは十数人いるようだ、
建物内を捜索し、内にいた人々を引っ張り出してくる。
武田は今起こっていることが現実のものとは思えず、何も考えられなかった。
人々をかき分け、日本人を捜し出し、話をする。
「私は、商社マンの立川です。」
「お互い、とんでもないことにぶつかりましたね。」
700人近い人間が1階のサロンとホールに押し込められ、満員電車内のようになる。
ゲリラのリーダーらしき男が、2階から演説を始めた。
「諸君、我々はトゥパク・アマル革命運動(MRTA)だ。」
「今の政府は金持ちのためのものだ、我々はそれを打倒する。」
「その目的のため、この行動を起こした。我々の命令に従えば、諸君らの安全は保証する。我々はテロリスト(センデロ・ルミノソ)ではない。」
「しかし、政府側の武力突入があれば、我々と一緒に死んでもらう。」
といって、肩にかけた重そうなバックをたたいた。
公邸の周囲が騒がしくなった。
警察の増援部隊が駆けつけてきたのだろう。
タン、タン
タタタタッ
散発的な銃撃戦が始まった。
体をかがめるより、身を守るすべがない。
参考図:「突入-ペルー人質事件の127日間」、日本放送出版協会、1998
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