「アオキ(駐ペルー日本大使)はどこだ?」
白髪の紳士が立ち上がる。
「いいか、このハンドマイクで外からの銃撃をやめさせろ!」
銃撃はやんだが、代わって催涙弾が打ち込まれた。
人々は大混乱になった。
ゲリラたちは防毒マスクをつけている。
「止めてくれ!苦しんでいるのは人質だけだ!」
大使が叫ぶ。
ゲリラが話す。
「我々は、刑務所にいる450人の同志全員の釈放を、政府に要求した。」
「諸君らの安全は、フジモリが交渉に応ずるかどうかにかかっている。」
混乱が少し収まった後、大使ともう1人の人質がゲリラのリーダーに近づき、話を始めた。
ゲリラ同士で何か話している。
「女性と老人は解放する。正面玄関に集まれ!」
人々の間に、安堵の声が広がる。
300人近い女性と年配者がゲリラに引率され、姿を消した。
ゲリラにとっても、想定外に人質の人数が多かったのだろう。
その後、人質は順番に階段に呼ばれ、ゲリラのリーダーに氏名、所属、肩書きを聞かれ、グループごとに2階の指定された部屋に入れられた。
2階で怒号が起こる。
制服を着た軍人が、ゲリラの1人に銃を突きつけられている。
素早く双方の仲間が2人を押しとどめた。
武田は、日本企業の関係者やペルー政府関係者ら数十人と、一室に押し込まれた。
「私語は禁止だ!」
皆、膝を抱えて、うずくまる。
“政府軍の突入があったら、どうしよう。部屋にいて爆殺されるか、外に出て撃たれるか。”
その頃、大統領官邸では、大統領を中心に政府閣僚、国家情報局長、ペルー統合軍対テロ特殊部隊長らが集まり、対策を協議していた。
「テロには絶対屈しない、たとえどんな外部圧力が加わろうと、だ。これが全員の意思だ。」
「このような場合、24時間以内の作戦決行が原則だが、可能かね?」
国家情報局長が答える。
「人質が300人程度居ること、敵の戦力・配置が不明確なこと、相手が待ち構えていること、などから相当の犠牲を覚悟する必要があります。」
「仲間の釈放を要求していることから、すぐには直接行動には出ないだろう、と思われます。」
「よし、作戦は延期だ。引き続き、武力突入作戦の準備は進めてくれ。」
担当の対テロ特殊部隊は、隊員1千名、3軍から選び抜かれた優秀な軍人で構成されていた。
参考図:「突入-ペルー人質事件の127日間」、日本放送出版協会、1998
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