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第2話(5)

敵軍迫る(5)

 「南無三!」
3人が床にひれ伏した上をゴアーと空気を震わせ、敵機が飛び去った。
顔を上げると、敵機は上空に向けて上昇している。
「味方がやってきたんだ!」
「やれやれ、グラマンを叩き落してくれ。」

 味方の数機に3方向から敵機が突っ込む。
敵味方が交差した直後、一機は炎に包まれ、まっさかさまに落ちた。
もう一機は一条の煙を引きながら、海の方へ逃れていく。
その機体から、真っ白いパラシュートが1つ飛び出て、ゆっくりと降下する。

 「救助に行こう!」
沖合い2キロ程のところで、海面にくらげのようにゆらゆら浮いているパラシュートを見つけた。救命胴衣を着けたパイロットが、そのそばでもがいている。
ロープを投げ入れ、引き上げてみると、何とアメリカ軍のパイロットだった。

 20才そこそこの若者で、目は怯えているが、態度は堂々としている。
「よくも、仲間を殺してくれたな!」
木下甲板員が、濡れネズミのパイロットの腰を蹴飛ばす。
「やめとけ、敵の情報が得られるんだ。」

 沖から見た海岸は、何条もの立ち上がる黒煙で霞んでいる。
基地は壊滅状態で、建物は焼け落ち、桟橋も半ば吹き飛んでいる。
機銃掃射を受けた船は、穴だらけになりながら浮いていた。
しかし、中の乗務員はズタズタだった。
2人は死んで、他の死体と一緒に布をかぶされ、地面に並べられていた。

 重傷者は、本船に乗せてマニラの救護所に運ぶことになった。
マニラ湾はマストだけ水面に突き出して沈んだ船、大破して炎上している船で一杯だった。
大小の船が重油の浮いた海面を走り回っている。
「こいつは、ひどい-------」

 救護所も満杯で、全然手が回っていない状態だった。
「元気になって、戻って来いよ。」
むなしい言葉をかけ、救護所を離れた。
皆、今後のことを思い、足取りは重かった。

     
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