魚雷艇用の燃料が足りない。久保田艇長らは、命令書を手に、基地の兵站部とかけあう。
「今回の作戦に使うんだ。ガソリンを分けてくれ。」
「舟艇用の重油しかない。」
「魚雷艇はガソリン・エンジンなんだ。」
「知るか。航空隊に行ってくれ。」
破壊された水上機基地に行き、破損した飛行機や、打ち棄てられたタンクからガソリンを抜き取る。
9月28日、暗闇が海面を覆うころ、各舟艇部隊は単縦陣の隊列をつくって、基地をはなれる。水雷艇が先導し、大発隊が続く。魚雷艇はその側面につく。
海峡の半ばまで来たとき、左前方に赤や青の信号弾が上がる。
「来たか!」
4キロほど離れた海上に、無数の赤白い曳光弾が飛び交う。続けて発砲の閃光が目を射る。何秒かして、熱い空気と腹に響く砲音が届く。
「前方に敵影!」「砲戦用意!」
先頭艇から信号がくる。
敵魚雷艇の黒い塊が3つ、スピードを上げ、前方から回り込むように、並走しだした。
「俺たちの出番だ!」久保田艇長が叫ぶ。
403号艇は隊列を離れ、敵魚雷艇に突撃する。
敵の曳光弾の帯が、艇の周りを包む。
日下部上水がすごい形相で機関砲に抱きついて、応射する。
舟艇部隊からも、10数本の曳光弾が飛び出した。
敵は相手の反撃の強さに驚き、退避する。
数分して、敵駆逐艦から吊光弾が打ち上げられ、パラシュートでゆっくり落下する。
見当はずれの海面を照らす。
切り抜けた!
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