世相と心の談話室

世の出来事に関する話、心理学的な話、絵と写真をもとにした雑談などのコーナーがあります。

中国の反日運動

2005年04月13日 11時26分48秒 | 世の出来事放談
中国の反日運動が激化している。なぜ今このタイミングで反日なのか、我々日本人には理解し難いところがある。その主な原因・理由を拾い上げてみると、
① 反日をスローガンにした愛国心教育が、江沢民のもと10年前から行われていたことが原因で、抗日戦線勝利60周年を迎える今年を機会に反日運動が激化した。
② 尖閣諸島などの領土問題で日本政府との対立が深まった。
③ 同じく、竹島問題による韓国の激しい反日運動に刺激された。
④ 日本政府の歴史認識問題、戦後処理問題(日本政府の謝罪と賠償など)、靖国神社参拝などに対する不満。それに、「つくる会」の教科書問題、日本の国連安全保障理事会入りへの批判が追い討ちをかけた。
⑤ 中国の政治事情。中国の農村部と都市部の経済格差は10倍にもなる。農業用水を利用する際の「水利税」、道路を通る歳の「道路税」、公共施設を立てる際は「賦役」が農民にかけられている。都市部では、これらの税負担はない。昨年、中国国内で5万件以上もの暴動が起きたとされている。また中央政府への陳情も多く、毎年20万件にも上るが、ほとんどが政府まで届かない。このような中国政府に対する中国政府の不満がくすぶっている。
⑥ 中国の経済事情。外務省の分析によれば、「今回の主役は都市部のエリート層の『負け組』。中国社会への不満が底流にある。経済成長の中で『勝ち組』に入らなかった人が愛国主義の名の下に中央政府を揺さぶろうとし、学生がそれに呼応している」。また、1990年代半ばまで高いシェアを誇っていた日本メーカーが、低コストを武器にした中国企業に押され、急速に弱まったのを機に、日本製品ボイコットで打撃を与えようとする目論見も見え隠れする。さらに、いまだ日本製品に対抗できる中国のブランドメーカーがほとんど育ってないことへの不満もある。
⑦ インターネットや携帯電話の普及により、情報統制が難しくなりつつある社会情勢が過激な反日運動を拡大させた。共産党を批判するような香港、台湾、チベットなどのサイトは接続できず、サイトへの書き込みには指導者批判など禁止規定がある一方、反日言論だけは自由にできる。それゆえ、中国政府は反日デモに関する情報統制ができなかった。中国政府とすれば、日本批判は自由にさせても、反日デモ激化は自国の不利との認識はあるはずである。従って、反日デモが拡大する兆しをいち早くキャッチしていれば、何らかの統制を行っていたはずであるが、ネットや携帯による水面下の情報拡大を捉えることができなかった。
⑧ 中国の対日・対内事情。⑤、⑥の原因を踏まえれば、中国政府への不満をガス抜きするには、国民の不満を対日批判に向けるのが一番である。それゆえ、中国政府が反日デモを煽った訳ではないが、たまたま出現した反日運動を利用していることが事態を複雑にしている。それゆえ、対日交渉では、「デモ活動中に出現した過激な行為は我々も見たくないが、今の局面が生じた責任は中国側にはない。日本は中国を侵略した歴史などに適切に対処すべきだ」といった要人の発言が出てくる一方、劉建超スポークスマンは、「中国では、日本国民に反発する感情は存在せず、中日間の経済協力と貿易は政治化されることをも望んではいない」と表明。温家宝首相も、「中日関係は最も重要だ。友好の戦略的研究を強化したい」と語っている。崔天凱アジア局長は、「中国政府は関係ない。過激な行動に賛成しない」と述べた上で、日中間の経済貿易関係や観光に影響を及ぼすべきではないと強調している。おそらく、対日批判の言論はデモをする市民に伝えられても、日本との関係を重視する発言は伝えられてないだろう。

 日本と中国との関係は「政冷経熱」と言われ、政治は冷え込んでいるが経済関係は深い繋がりを築いている。日本経済は米国を抜いて中国との取引が最大となり、日系企業も2万社が進出、在留邦人は7万8千人にのぼる。中国も日本に対しては積極的な誘致を繰り返し、経済的繋がりを深めようとしている。従って、中国政府にとって、過激な反日運動拡大がもたらす影響は無視できないはずである。かと言って、民衆の不満ガスが自国共産党に向けられるのも恐れている。そんな背景が⑧のような事情を生んでいる。
 ①に関しては、江沢民政権時代、1994年に出された「愛国主義教育実施綱要」がことの始まりであった。幼稚園から大学にいたるまで愛国主義教育を徹底し、さらには「南京虐殺館」や「中国人民抗日戦争記念館」のような「愛国主義教育基地」を全土に建設した。このような教育を、中国政府がこの時期に行ったことには理由がある。抗日戦争勝利は共産党支配の正統性を国民に訴える材料となる。日本人による侵略が残虐なものであったということのみを見せつけることで、愛国心と共産党政権の正統性を高めようとした。しかし、日中友好がこれによって後退するという危険がある。江沢民政権がそのリスクを冒して反日的な愛国主義運動を大規模に展開したのは、自らの政権基盤が脆弱であり、リスクを冒してまでも共産党への求心力を高めねばならないという政治的要請があったからである。権力基盤や党人脈において強力であった小平の時代には、求心力を反日運動に求める必要はなかった。
江沢民が政権に就いた頃には中国の改革・開放が本格化し、市場経済へと向かう速度も一段と速まった。階層が多元化し、社会的流動化が促進された。中国は共産党一党独裁で統治できるほど単純な社会ではなくなってきたのである。価値観の多様化が起こり、共産党一党独裁の構図そのものが揺らぎかねない社会情勢にもなっていた。そのような国内事情から、中国共産党には、国民の求心力を取り戻す方策が必要だったのである。
これに、⑥にあるような経済事情が重なる。改革・開放という名の市場経済化は、この政策による受益者を輩出する一方、敗者をも膨大に生み出した。都市就業者の失業率はすでに12%を超え、WTO加盟にともなう自由化・規制緩和によりこれはさらに高まることが予想される。農村就業者5億人のうち1億6,000万人以上が潜在失業化しているというのが中国社会科学院の推計である。そのうちの相当部分が沿海部の発展都市に向けて流動を開始している。改革・開放の敗者、改革・開放によって損失を被った人々の群れは、反日運動であれ、反米運動であれ、自らの不満の吐け口を求めてこれに積極的に関わり、騒動の中心的な勢力になっていると想像される。

 先週末に起こった反日暴動は、今は下火になっているようだが、これが今後どうなるか、中国筋は「今後の日本の出方次第である」とコメントしている。しかし、これは問題のすり替えである。今後どうなるかは、「中国の出方次第」である。中国政府は、中国国民には対日批判に弱腰を見せるわけにはいかず、かといって、日本との関係をこれ以上悪化させたくないとの意向があるはずである。対応次第では、反日暴動の捌け口が中国政府に向きかねない。ならば、国民の不満を反日運動に向けたままにしておくのが良いと考えているのだろうか。あるいは、タイミングを見て、かつての天安門事件のような弾圧があるのか。いずれにせよ、小泉首相が求めるように、中国政府は「謝罪と賠償」をきちんとすべきであり、今後の対日関係の方針を明確にすべきである。
 一方、このような反日暴動が起こる下地は、中国と日本の双方にある。中国の国内事情に関しては、上に記述した通りであるが、ポイントは「情報統制と共産党独裁」の限界である。共産党独裁体制の変革については、容易に実現できそうもないが、情報統制については、早急な改革が必要である。そもそも、1975年以来、日本の中国に対するODA出資額が7兆円にも達することを、中国政府はほとんど国民に知らせていない。これは対中国ODAの額では、ダントツの世界一である。日本のそういった貢献度、経済面における両国間の有益な関係、侵略戦争に対する日本側の謝罪といったものは、情報統制によってほとんど中国国民に伝わってない。その一方で、反日感情を煽る偏向的な教科書などで、変質的愛国心を植え付けるのである。これも情報統制である。日本の教科書問題を批判する前に、自国の偏向的教育を見直すべきである。この部分の改革がなければ、また反日暴動は起こるであろうし、日本人の中国に対する不信感は長く鬱積していくことになるだろう。経済関係で緊密な関係になっている両国にとって、これはどちらにもマイナスの影響しかもたらさない。
 また、日本側にも反日運動を呼び込んでしまう下地があるのは明確である。ポイントは「侵略戦争に対する謝罪と賠償」問題が、アジア諸国に受け入れられていないということである。「侵略戦争に対して日本政府は謝罪しているのですか?そうだと言う人は、どのような謝罪をしているのか、何も調べずに言ってみて下さい。」まず、そのような質問を発してみたい。今、何の調べものもせずに答える人は、少ないのではないのではないだろうか?要するに、日本国民もその内容をよく知っていないのに、アジア諸国の人にきちんと伝わっているとは思えないのである。調べれば謝罪した経緯があるのかも知れない。しかし、私の質問は、「・・・しているのですか?」であって「・・・したのですか?」ではない。日本の侵略に苦しんだ歴史を持つアジア諸国は、今の日本の元首がどのように思い、どのように考えているのかを知りたいのである。私も知りたい。この問題に対する小泉首相のスタンスが分からない。それを演説などで明確な言葉にして表明しないからである。その一方で、靖国神社参拝などのパフォーマンスを行えば、なおさら不気味である。何を考えているのか分からない。この思いは、私だけでなく、アジア諸国の人にも共通する印象ではないだろうか?そのような曖昧な態度(日本人の気質かも知れない)が、長年にわたって、日本に侵略されたアジア諸国の反日感情を鬱積させている。
 8月15日で終戦60周年を迎える。それまでに、この「戦争責任問題」をこのBlogでも取り上げてみたいと思っている。
 ただ、日本の戦争責任問題と、韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題は別である。尖閣諸島の総面積は約6.3平方キロメートルで、富士の山中湖を少し小さくしたくらいの面積である。そのうち、一番大きい島は魚釣島で面積約3.8平方キロメートル、周囲約12キロメートルある。この魚釣島は他の島と違い飲料水を確保する事が出来きる。この小さな諸島の領有権問題が浮上したきっかけは、1968年10月12日から11月29日にかけて、日本、中華民国、韓国の海洋専門家が中心となり、東シナ海一帯にわたって海底の学術調査を行った結果、東シナ海の大陸棚には、石油資源が埋蔵されている可能性があることが指摘されたことにある。これが契機になって、尖閣諸島がにわかに関係諸国の注目を集めることになったのだ。現にこの2年後に、台湾と中国が相次いで同諸島の領有権を公式に主張している。しかし、両国がそれを主張しなくてはならなかったという理由から考えてみても、尖閣諸島は日本に領有権があり、歴史的にもそれを裏付ける事実が多い。この「世の出来事放談」の「竹島問題」でも触れたが、尖閣諸島の領有権問題も国際司法裁判所で争ってもらいたいが、それを中国側が受け入れるかどうか微妙である。
 日本の国連安全保障理事国入りに関しては、難しい問題だと思う。戦争責任問題とも絡むためである。「戦争責任問題は過去のこと」と割り切って考えられないのがアジア諸国である。上で述べたような日本政府への印象がある限り、アジア諸国は、未来の日本に疑心暗鬼であると思われる。日本の国連安全保障理事国入りは、その未来に関わることである。小泉首相が言う「未来志向」では、彼らが求める未来志向への答えになっていない。これについては、もっと論議に時間をかけるべきかも知れない。この問題も、いつかこのBlogで取り上げてみたいと思っている。
 今回の反日暴動は、中国対日本の問題だけで捉える部分と、アジア諸国と日本との関係の中で捉える部分を明確に分けておく必要がある。韓国における反日運動もそうである。従って、日本政府や日本人のとるべき態度は、今回の事件を一方的に韓国や中国側に原因があるから相手側が悪いと感情的にならないことである。しかし、領有権問題や、中国における日本大使館襲撃の賠償、日本人の安全保障、暴動を容認しているような中国政府の警備体制など、言うべきことは強く主張を通していくことも大事である。その上で、日本とアジア諸国との関係を、今後良好に保つための方策を早急に構築すべきである。韓国・中国における今回の暴動は、北朝鮮にもかなり影響を与えているはずである。北朝鮮がまだ鳴りを潜めているのが不気味だ。6月の北朝鮮でのワールドカップ予選は大丈夫なのだろうか?アジア近隣諸国と日本との関係が、かなり暗雲垂れ込めてきたように思われる。

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