前ページ①の続きです。
フロイトの夢分析
フロイトの精神分析理論は、非常に身近な事例から出発した理論だと言えます。有名なフロイトの著書『精神分析理論』は、錯誤行為の説明から入っています。錯誤行為とは、言い違い、書き違い、読み違い、聞き違い、度忘れ、置き忘れなど、誰もが経験する身近な行為です。その錯誤行為が起こる原因としては、疲れている時、逆上している時、注意散漫な時などが考えられますが、問題は、それらの場合が当てはまらないときがあることです。そこにフロイトは注目して、錯誤行為は、(意識されない)「妨害する意図」と「妨害される意図」が競い合って生じるもので、その行為には心理的な意味があるという考えを持ちます。その分析がたどり着く領域が無意識になっていくわけですが、錯誤行為と同じく、無意識の領域に踏み込む重要な入り口として「夢」があります。
(1) 夢と刺激
フロイトは、夢について、初めに次のような特徴を見出しています。「まず、夢とは、眠っている間に働きかけてくる何らかの刺激に対する心の反応である。その刺激は、主に視覚像(映像)として体験される。しかし、刺激はそのまま夢に出てくるわけではない。」例えば、夢のなかで火災報知機のベルが鳴っていたと思ったら、実際は目覚し時計のベルだったという例がこれに当たります。
「刺激に対する反応が形を変えて夢となる」という特徴をもとに、フロイトは独自に次のことを前提として夢の分析を行います。
① 夢は身体的現象でなく、心的現象であるということ。夢はその人の作品であり、自己表現でもあると考えられる。
② 夢を見た人は、その夢が何を意味しているのかを知っているということ。しかし、夢を見た人は、自分がその夢の意味を知っているという事実を知らず、自分では夢の意味を知らないと思いこんでいるということ。
(2) 夢の「顕在内容」と「潜在内容」
それでは、上にある②の意味を知るにはどうするのでしょうか。それは、自由連想法によって、夢を見た人からその夢について自由に語ってもらうことで可能となります。フロイトは、催眠状態と同じように、夢の源は、自分では気づかない心の奥底の意識されない「無意識的なもの」であると考え、夢の意味を探し出すには、自由連想法などによって、「無意識的なもの」を発見することが重要であるとしました。
フロイトは、夢として出てくる夢の内容を「夢の顕在内容」、夢から連想されることを追及することによってわかる、隠されているものを「夢の潜在内容」と名づけました。夢の健在内容から夢の潜在内容を見出すことが、「夢の解釈」となります。夢の潜在内容の色々な要素は、無意識にある様々な出来事や考えから成り立っていますが、それらは形を変えて、夢の顕在内容の色々な要素として出現します。しかも、顕在内容の1つの要素が、潜在内容の1つの要素を表すと言った、1:1の対応はしておらず、両者の関係は複雑なので、夢の解釈は非常に難しいものとなります。
(3) 夢の目的
夢の解釈が難しいのは、夢の潜在内容が夢の顕在内容になるとき、「歪曲」されるからだとフロイトは考えました。ならば、全ての夢がそうかというと、フロイトは、歪曲されない夢の例を2歳くらいの男の子から発見しています。その男の子は、サクランボを思う存分食べられなかった後に、それを心ゆくまで全部食べてしまう夢を見たのです。潜在内容である願望が夢の顕在内容に直接現われたこの例から、フロイトは、夢は「願望充足」を目的としていることを発見します。
そしてフロイトは、数多くの夢の例から、次のような結論を得ます。「眠りを妨げる刺激には、飢えや渇きのような身体的刺激の他、願望といった心的刺激がある。心的刺激による全ての夢は、満たされなかった願望が刺激となって眠りを妨害するときに生じるのであり、願望の充足が夢の内容である。夢も錯誤行為のように、「妨害する意図」(満たされなかった願望)と「妨害される意図」(眠ろうとする意志)の競い合いから生じる。」
(4)「検閲」と「夢の作業」
夢の「歪曲」は、5~8歳ぐらいから見られると言われています。それでは、「歪曲」は何によって起こるのでしょうか。フロイトは、夢の潜在内容に「検閲」が働き、それによって「夢の作業」が起こり、その結果歪曲されると考えました。
「検閲」は超自我の無意識的な働きによって起こります。「検閲」は、夢を見る本人にとって、夢の潜在内容をそのまま認めることは都合が悪いため、それが顕在内容に現われないようにしようと働くものです。この「検閲」によって、潜在内容のある要素を別の要素に置き換えたり、ぼやかしたり、削除したりする作用が「夢の作業」となります。「夢の作業」には、次の4つがあります。
① 圧縮
いくつかの共通点がある潜在内容の要素が混ざって1つになることを「圧縮」と言います。例えば、夢のなかに出てくる婦人が、顔は叔母で洋服は母親、持ち物は女友達のもので、全体を見ると妻のように見えるといった例です。
② 移動
潜在内容のある要素が、それとは程遠いものによって代理されたり、重要な要素がそうでない要素に移って重要でなくなったため、夢の中心点が変わって見えたりすることです。例えば、上司を憎んでいて、同じ思いを抱いた同僚と仲の良い人の夢。夢のなかで、上司を非難する計画を同僚と立てるが、思いもかけずその同僚と大喧嘩となり、最後に上司が現われて喧嘩の仲裁をとるといった例です。
③ 翻訳
潜在内容を視覚像(映像)に翻訳する(形にする)操作のことで、視覚化とも言います。例えば、自分に迷いがあるとき、迷路に入り込んでしまう夢を見るといった例で、具体的に現すことが難しい抽象的な要素を、視覚化によって具体的な映像として置き換えることを言います。フロイトは、翻訳が夢の形成における本質的なものであると言っています。
④ 2次的加工
これは、圧縮、移動、翻訳の作業の結果を組み合わせて、全体が調和のとれた夢をつくる作業です。これらの作業によって潜在内容は「歪曲」され、顕在内容となるのです。
(5)夢にみる象徴関係
夢では、それを見る人にとって都合の悪いことを抑えようとする「検閲」が働き、「夢の作業」が起こって「夢の潜在内容」は歪曲され、それが「顕在内容」に変わって夢の視覚化が行われます。このとき、潜在内容のある要素が、夢の顕在内容のなかで、ある特定の要素に置き換わることがあります。フロイトは、この現象を「象徴化」と言い、本来の要素と、置き換わった要素の関係を「象徴関係」と呼んでいます。象徴関係の具体例は、下のようになります。
(夢に出てくるもの) (象徴化されるもの)
・ 張り出しの部分やバルコニーのついた家など・・・・・・・…・・・・・女性
・ ネクタイ、部屋を開く鍵など・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男性
・ 窪み、箱、礼拝堂、宝石箱、靴、スリッパ、庭など・・・・・・・・女性器
・ ステッキ、傘、槍、蛇口、じょうろう、鉛筆、蛇など・・・・・・男性器
・ ダンス、乗馬、山登り、坂、階段をのぼるなど・・・・・・・・・…・性交
・ 水と関係するもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…・・・・・・・・・・・・・・・出産
・ 小動物、害虫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…・・・・・・・・・・・・・・子ども
・ 旅立ち、汽車旅行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死
一般的に、象徴化されるものの種類はそれほど多くなく、フロイトの指摘するものは、性的なものが多いのが特徴です。しかし、この関係はあくまで「象徴」であって、夢の内容によってはこれらが変形している場合もあり、また、夢の解釈では、夢の潜在内容と夢の顕在内容が1:1で対応してないことからも分かるように、上の関係を安易に用いた夢の解釈をすべきではありません。
象徴化は、日常生活のなかでは全く意識されないもので、眠っているときに起こります。また、フロイトは、象徴関係は夢だけでなく、神話や民話、宗教などからも読みとれ、国や文化の違いを超えて共通してみられるものであり、それら一定の象徴関係は、ほとんど動かすことができないものであると述べています。
夢の解釈の目的は、精神的な障害を持つ人の、治療に役立つものを取り上げることです。その作業は、専門家でも非常に難しいものであり、人の人格の最も奥深い部分に関わるものなので、一般の者が夢の解釈を試みることは、絶対に許されない行為となります。
フロイトの発達理論
フロイトは、リビドーは年代とともに発達すると考えました。そして、幼児にも性欲があると言います。リビドーの発達段階は、口唇期、肛門期、男根期、潜伏期、性器期に分けられます。このリビドーの発達段階は、自我や超自我の形成、性格の形成、心理障害の源泉といった、あらゆる面に影響するため、フロイトの精神分析は幼児期を非常に重要視します。これから、そのリビドーの発達について述べてみたいと思います。
(1) 口唇期
心理・性的発達段階における第1段階(生後18ヵ月位までの時期)。乳児は、口唇や口腔周辺に快感を得、主に吸う・噛むことによって快楽を感じるとされます。この時期の乳児は、授乳という行為を通じて外界との交流を行います。アブラハム,K.は、口唇期を、受動的に吸う活動が主要である吸いつき早期段階と、歯が生えてからの噛みつく・噛み取ることが重要な活動となる口唇サディズム期の2段階に区別しました。
(2) 肛門期
心理・性的発達段階における第2段階(1歳後半から3~4歳位までの時期)。この段階の幼児は肛門領域に快感を得るとされます。この時期の幼児は、トイレット・トレーニングを経験し、親の叱責と賞賛を通して、自分で自分をコントロールできるという自信=自律性を身につけます。こうして、外界に対する主張的で能動的姿勢、すなわち自我が芽生えるのです。ゆえにこの時期は、子どもが独白性を主張し、何でも自分でやりたがる第一次反抗期とも言えます。
(3) 男根期
心理・性的発達段階における第3段階(3~4歳から6歳位までの時期)。エディプス期とも呼びます。この時期の幼児は、性器への関心が強まり性器から快感を得、性器の違いにより男女の違いを自覚するとされます。また、異性の親に性的欲求を向け、ライバルである同性の親を(無意識的な意味で)憎みます。この結果生じる去勢不安を解消するために、幼児は同性の親への同一視を行ない、超自我および性役割を獲得していくようになります。
この時期は、エディプス・コンブレックスが存在します。それは、異性の親に性的関心を抱くようになり、男子は母親を独占し父親を排除しようとするものです。これに対して、女子が父親を独占し、母親を排除しようとするものをエレクトラ・コンプレックス(これはユングが名づけたものです。)と言います。
(4) 潜伏期
フロイト,S.の心理・性的発達段階における第4段階(5~6歳から11~12歳位までの時期=児童期)。この時期には、男根期に獲得された超自我によってリビドーが抑圧されます。ゆえに、それ以前のエディプス、エレクトラ・コンプレックスに代表される性的記憶・関心は忘れ去られるのです(幼児期健忘)。この児童期には、学業や友人関係にエネルギーが注がれ、自我機能のさらなる発達が促進されます。次の性器期で再び出現するまで、リビドーは潜伏し安定状態におかれます。
(5) 性器期
心理・性的発達段階における第5段階(11~12歳以降の時期)であり、リピドー発達の最終段階。一般にいう思春期・青年期にあたるものです。それまで自らの各身体部位に向けられていた部分的なリビドーが統合され、身体的成熟とともに性器性欲が出現します。この解消は、自己身体ではなく対人関係の中に求められます。こうして、愛情対象の全人格を認めた異性愛が完成されると見なされました。
リビドーが特定の発達段階に停滞し、その後のパーソナリティ形成に影響を与えることを「固着」と言います。各段階でリビドーが十分に解消されなかったり、逆に過剰な満足が与えられることが原因とされています。口唇期に固着すると、依存的で愛情欲求が非常に強くなります。肛門期に固着すると、自己制御の過剰である几帳面・頑固・倹約といった強迫的な性格特徴が形成されます。男根期に固着すると、自己顕示的で攻撃的なヒステリー性格になる、とされています。
また、以前の未熟な発達段階へと戻ることを「退行」と言います。精神分析では防衛規制の1つとみなしています。治療場面で生じる感情転移も-種の退行であり、かつての対人関係の再現とされています。操作的な退行によって、固着が存在する発達段階、あるいは・心的外傷経験の時に戻り、葛藤やコンプレックスを解消させる治療的退行は、心理療法の技法として重要なものとされています。
今回、長々と述べてきた部分は、フロイトの精神分析理論の骨格部分にしか過ぎません。冒頭にも述べたように、精神分析には、精神分析における治療理論とそれを含めた総合的な理論があります。治療理論については、後日、機会があれば記述したいと思います。次回は、ユングの無意識について述べる予定です。
※ 参考文献『図解雑学 精神分析』(ナツメ社)
フロイトの夢分析
フロイトの精神分析理論は、非常に身近な事例から出発した理論だと言えます。有名なフロイトの著書『精神分析理論』は、錯誤行為の説明から入っています。錯誤行為とは、言い違い、書き違い、読み違い、聞き違い、度忘れ、置き忘れなど、誰もが経験する身近な行為です。その錯誤行為が起こる原因としては、疲れている時、逆上している時、注意散漫な時などが考えられますが、問題は、それらの場合が当てはまらないときがあることです。そこにフロイトは注目して、錯誤行為は、(意識されない)「妨害する意図」と「妨害される意図」が競い合って生じるもので、その行為には心理的な意味があるという考えを持ちます。その分析がたどり着く領域が無意識になっていくわけですが、錯誤行為と同じく、無意識の領域に踏み込む重要な入り口として「夢」があります。
(1) 夢と刺激
フロイトは、夢について、初めに次のような特徴を見出しています。「まず、夢とは、眠っている間に働きかけてくる何らかの刺激に対する心の反応である。その刺激は、主に視覚像(映像)として体験される。しかし、刺激はそのまま夢に出てくるわけではない。」例えば、夢のなかで火災報知機のベルが鳴っていたと思ったら、実際は目覚し時計のベルだったという例がこれに当たります。
「刺激に対する反応が形を変えて夢となる」という特徴をもとに、フロイトは独自に次のことを前提として夢の分析を行います。
① 夢は身体的現象でなく、心的現象であるということ。夢はその人の作品であり、自己表現でもあると考えられる。
② 夢を見た人は、その夢が何を意味しているのかを知っているということ。しかし、夢を見た人は、自分がその夢の意味を知っているという事実を知らず、自分では夢の意味を知らないと思いこんでいるということ。
(2) 夢の「顕在内容」と「潜在内容」
それでは、上にある②の意味を知るにはどうするのでしょうか。それは、自由連想法によって、夢を見た人からその夢について自由に語ってもらうことで可能となります。フロイトは、催眠状態と同じように、夢の源は、自分では気づかない心の奥底の意識されない「無意識的なもの」であると考え、夢の意味を探し出すには、自由連想法などによって、「無意識的なもの」を発見することが重要であるとしました。
フロイトは、夢として出てくる夢の内容を「夢の顕在内容」、夢から連想されることを追及することによってわかる、隠されているものを「夢の潜在内容」と名づけました。夢の健在内容から夢の潜在内容を見出すことが、「夢の解釈」となります。夢の潜在内容の色々な要素は、無意識にある様々な出来事や考えから成り立っていますが、それらは形を変えて、夢の顕在内容の色々な要素として出現します。しかも、顕在内容の1つの要素が、潜在内容の1つの要素を表すと言った、1:1の対応はしておらず、両者の関係は複雑なので、夢の解釈は非常に難しいものとなります。
(3) 夢の目的
夢の解釈が難しいのは、夢の潜在内容が夢の顕在内容になるとき、「歪曲」されるからだとフロイトは考えました。ならば、全ての夢がそうかというと、フロイトは、歪曲されない夢の例を2歳くらいの男の子から発見しています。その男の子は、サクランボを思う存分食べられなかった後に、それを心ゆくまで全部食べてしまう夢を見たのです。潜在内容である願望が夢の顕在内容に直接現われたこの例から、フロイトは、夢は「願望充足」を目的としていることを発見します。
そしてフロイトは、数多くの夢の例から、次のような結論を得ます。「眠りを妨げる刺激には、飢えや渇きのような身体的刺激の他、願望といった心的刺激がある。心的刺激による全ての夢は、満たされなかった願望が刺激となって眠りを妨害するときに生じるのであり、願望の充足が夢の内容である。夢も錯誤行為のように、「妨害する意図」(満たされなかった願望)と「妨害される意図」(眠ろうとする意志)の競い合いから生じる。」
(4)「検閲」と「夢の作業」
夢の「歪曲」は、5~8歳ぐらいから見られると言われています。それでは、「歪曲」は何によって起こるのでしょうか。フロイトは、夢の潜在内容に「検閲」が働き、それによって「夢の作業」が起こり、その結果歪曲されると考えました。
「検閲」は超自我の無意識的な働きによって起こります。「検閲」は、夢を見る本人にとって、夢の潜在内容をそのまま認めることは都合が悪いため、それが顕在内容に現われないようにしようと働くものです。この「検閲」によって、潜在内容のある要素を別の要素に置き換えたり、ぼやかしたり、削除したりする作用が「夢の作業」となります。「夢の作業」には、次の4つがあります。
① 圧縮
いくつかの共通点がある潜在内容の要素が混ざって1つになることを「圧縮」と言います。例えば、夢のなかに出てくる婦人が、顔は叔母で洋服は母親、持ち物は女友達のもので、全体を見ると妻のように見えるといった例です。
② 移動
潜在内容のある要素が、それとは程遠いものによって代理されたり、重要な要素がそうでない要素に移って重要でなくなったため、夢の中心点が変わって見えたりすることです。例えば、上司を憎んでいて、同じ思いを抱いた同僚と仲の良い人の夢。夢のなかで、上司を非難する計画を同僚と立てるが、思いもかけずその同僚と大喧嘩となり、最後に上司が現われて喧嘩の仲裁をとるといった例です。
③ 翻訳
潜在内容を視覚像(映像)に翻訳する(形にする)操作のことで、視覚化とも言います。例えば、自分に迷いがあるとき、迷路に入り込んでしまう夢を見るといった例で、具体的に現すことが難しい抽象的な要素を、視覚化によって具体的な映像として置き換えることを言います。フロイトは、翻訳が夢の形成における本質的なものであると言っています。
④ 2次的加工
これは、圧縮、移動、翻訳の作業の結果を組み合わせて、全体が調和のとれた夢をつくる作業です。これらの作業によって潜在内容は「歪曲」され、顕在内容となるのです。
(5)夢にみる象徴関係
夢では、それを見る人にとって都合の悪いことを抑えようとする「検閲」が働き、「夢の作業」が起こって「夢の潜在内容」は歪曲され、それが「顕在内容」に変わって夢の視覚化が行われます。このとき、潜在内容のある要素が、夢の顕在内容のなかで、ある特定の要素に置き換わることがあります。フロイトは、この現象を「象徴化」と言い、本来の要素と、置き換わった要素の関係を「象徴関係」と呼んでいます。象徴関係の具体例は、下のようになります。
(夢に出てくるもの) (象徴化されるもの)
・ 張り出しの部分やバルコニーのついた家など・・・・・・・…・・・・・女性
・ ネクタイ、部屋を開く鍵など・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男性
・ 窪み、箱、礼拝堂、宝石箱、靴、スリッパ、庭など・・・・・・・・女性器
・ ステッキ、傘、槍、蛇口、じょうろう、鉛筆、蛇など・・・・・・男性器
・ ダンス、乗馬、山登り、坂、階段をのぼるなど・・・・・・・・・…・性交
・ 水と関係するもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…・・・・・・・・・・・・・・・出産
・ 小動物、害虫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…・・・・・・・・・・・・・・子ども
・ 旅立ち、汽車旅行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死
一般的に、象徴化されるものの種類はそれほど多くなく、フロイトの指摘するものは、性的なものが多いのが特徴です。しかし、この関係はあくまで「象徴」であって、夢の内容によってはこれらが変形している場合もあり、また、夢の解釈では、夢の潜在内容と夢の顕在内容が1:1で対応してないことからも分かるように、上の関係を安易に用いた夢の解釈をすべきではありません。
象徴化は、日常生活のなかでは全く意識されないもので、眠っているときに起こります。また、フロイトは、象徴関係は夢だけでなく、神話や民話、宗教などからも読みとれ、国や文化の違いを超えて共通してみられるものであり、それら一定の象徴関係は、ほとんど動かすことができないものであると述べています。
夢の解釈の目的は、精神的な障害を持つ人の、治療に役立つものを取り上げることです。その作業は、専門家でも非常に難しいものであり、人の人格の最も奥深い部分に関わるものなので、一般の者が夢の解釈を試みることは、絶対に許されない行為となります。
フロイトの発達理論
フロイトは、リビドーは年代とともに発達すると考えました。そして、幼児にも性欲があると言います。リビドーの発達段階は、口唇期、肛門期、男根期、潜伏期、性器期に分けられます。このリビドーの発達段階は、自我や超自我の形成、性格の形成、心理障害の源泉といった、あらゆる面に影響するため、フロイトの精神分析は幼児期を非常に重要視します。これから、そのリビドーの発達について述べてみたいと思います。
(1) 口唇期
心理・性的発達段階における第1段階(生後18ヵ月位までの時期)。乳児は、口唇や口腔周辺に快感を得、主に吸う・噛むことによって快楽を感じるとされます。この時期の乳児は、授乳という行為を通じて外界との交流を行います。アブラハム,K.は、口唇期を、受動的に吸う活動が主要である吸いつき早期段階と、歯が生えてからの噛みつく・噛み取ることが重要な活動となる口唇サディズム期の2段階に区別しました。
(2) 肛門期
心理・性的発達段階における第2段階(1歳後半から3~4歳位までの時期)。この段階の幼児は肛門領域に快感を得るとされます。この時期の幼児は、トイレット・トレーニングを経験し、親の叱責と賞賛を通して、自分で自分をコントロールできるという自信=自律性を身につけます。こうして、外界に対する主張的で能動的姿勢、すなわち自我が芽生えるのです。ゆえにこの時期は、子どもが独白性を主張し、何でも自分でやりたがる第一次反抗期とも言えます。
(3) 男根期
心理・性的発達段階における第3段階(3~4歳から6歳位までの時期)。エディプス期とも呼びます。この時期の幼児は、性器への関心が強まり性器から快感を得、性器の違いにより男女の違いを自覚するとされます。また、異性の親に性的欲求を向け、ライバルである同性の親を(無意識的な意味で)憎みます。この結果生じる去勢不安を解消するために、幼児は同性の親への同一視を行ない、超自我および性役割を獲得していくようになります。
この時期は、エディプス・コンブレックスが存在します。それは、異性の親に性的関心を抱くようになり、男子は母親を独占し父親を排除しようとするものです。これに対して、女子が父親を独占し、母親を排除しようとするものをエレクトラ・コンプレックス(これはユングが名づけたものです。)と言います。
(4) 潜伏期
フロイト,S.の心理・性的発達段階における第4段階(5~6歳から11~12歳位までの時期=児童期)。この時期には、男根期に獲得された超自我によってリビドーが抑圧されます。ゆえに、それ以前のエディプス、エレクトラ・コンプレックスに代表される性的記憶・関心は忘れ去られるのです(幼児期健忘)。この児童期には、学業や友人関係にエネルギーが注がれ、自我機能のさらなる発達が促進されます。次の性器期で再び出現するまで、リビドーは潜伏し安定状態におかれます。
(5) 性器期
心理・性的発達段階における第5段階(11~12歳以降の時期)であり、リピドー発達の最終段階。一般にいう思春期・青年期にあたるものです。それまで自らの各身体部位に向けられていた部分的なリビドーが統合され、身体的成熟とともに性器性欲が出現します。この解消は、自己身体ではなく対人関係の中に求められます。こうして、愛情対象の全人格を認めた異性愛が完成されると見なされました。
リビドーが特定の発達段階に停滞し、その後のパーソナリティ形成に影響を与えることを「固着」と言います。各段階でリビドーが十分に解消されなかったり、逆に過剰な満足が与えられることが原因とされています。口唇期に固着すると、依存的で愛情欲求が非常に強くなります。肛門期に固着すると、自己制御の過剰である几帳面・頑固・倹約といった強迫的な性格特徴が形成されます。男根期に固着すると、自己顕示的で攻撃的なヒステリー性格になる、とされています。
また、以前の未熟な発達段階へと戻ることを「退行」と言います。精神分析では防衛規制の1つとみなしています。治療場面で生じる感情転移も-種の退行であり、かつての対人関係の再現とされています。操作的な退行によって、固着が存在する発達段階、あるいは・心的外傷経験の時に戻り、葛藤やコンプレックスを解消させる治療的退行は、心理療法の技法として重要なものとされています。
今回、長々と述べてきた部分は、フロイトの精神分析理論の骨格部分にしか過ぎません。冒頭にも述べたように、精神分析には、精神分析における治療理論とそれを含めた総合的な理論があります。治療理論については、後日、機会があれば記述したいと思います。次回は、ユングの無意識について述べる予定です。
※ 参考文献『図解雑学 精神分析』(ナツメ社)