■10月1日(金)~10月31日(日)
□高橋正子選
【最優秀2句】
★月明るし靴音立てて帰り来ぬ/後藤あゆみ
澄んだ月夜に靴音を響かせて家に帰ってくる。月が明るいことのうれしさである。(高橋正子)
★薄立つ高さよ向こうの山よりも/多田有花
小高い丘などに登ると、薄が向こうの山よりも高く立っている。見晴らしのよさにも秋の深まりがある。(高橋正子)
【特選10句】
★菊の葉も茎も青々窓に濃し/柳原美知子
季語はないが、季感がある句。窓ごしに見える菊の葉も茎も丹精の甲斐あって、青々としている。そういったものに目を遣る楚々とした暮らしぶりがいい。(高橋正子)
★刈り取られ耀く稲穂抱えゆく/河野啓一
刈り取られた稲穂は、田にあるときよりも、日の光を全長に受けて輝く。抱かれ運ばれる時は特に。(高橋正子)
★虫の夜の海より暮れて更けゆけり/小川和子
「海より暮れる」が作者の発見。さらに夜が更けてゆき、虫の夜へのことさらの思いがある。(高橋正子)
★蘆の穂の大きく風を捉えけり/桑本栄太郎
蘆の穂を主体に、蘆の穂を大きく、大らかに捉え、風の中にクローズアップさせ見事である。(高橋正子)
★一歩ずつ吾より先に赤とんぼ/渋谷洋介
赤とんぼが、一歩ずつ先をゆく秋のうららかさに、なつかしさが湧いてくる。透明感があって、あるがままの句。(高橋正子)
★どこまでも水色軽き秋の空/井上治代
「どこまでも水色」がやはり秋の空をイメージさせる。水色の軽い青さも秋の空の変化のひとつ。(高橋正子)
★秋深き山道薪の高々と/小西 宏
やがて来る冬に備えて、薪が山道に高々と積まれているのを見ると、「秋深し」の情感が高まる。(高橋正子)
★窓開ければりんりんと朝寒の風/迫田和代
窓を開けると、もう朝の風が寒い。風も心身も「りんりんと」する。(高橋正子)
★鵙鳴いて玻璃くっきりと今朝の空/藤田洋子
キチキチと鋭く鳴く鵙の声にこたえて、よく磨かれた玻璃に、抜けるような青空が見える。自分の内なる温みに対して、外には、鋭い鵙の声と、すっきりとした空の青がある。(高橋正子)
★玻璃戸拭き終え秋の空存分に/山中啓輔
玻璃戸しっかり拭き終えると、玻璃戸という隔てが無くなったように、秋の空が、直に、しかも存分に自分のものにできる。「秋の空」の感覚、秋の季節をよく捉えている。(高橋正子)
【入選14句】
★スケッチの筆のタッチは鰯雲/河野啓一
鰯雲のように筆を小さくふわふわっと置いてゆくスケッチが、たのしい。スケッチの軽さが鰯雲とよく合っている。(高橋正子)
★手折りきし穂芒水にはや長ける/小川和子
「水にはや長ける」の新鮮な感覚がよい。穂芒を折取ってきて、つややかな穂をめでているまもなく、長けてしまった。「水に」がさりげなさと、透明感を出している。(高橋正子)
★秋の灯の鉛筆軽し編み図引く/後藤あゆみ
「鉛筆軽し」に手慣れた作業とたのしい心持が知れ、「秋の灯」にもよい生活感があるのがよい。出来上がりを思いながら、軽やかに鉛筆を動かし、編み物の製図をする楽しい時間である。(高橋正子)
★破蓮の隙(ひま)に透けいる水の青/多田有花
破蓮の間に澄んだ水の青さを見つけた視点がよい。蓮の枯れた姿に、「青」が新鮮である。(高橋正子)
★コスモスの傾ぎしままが風を待つ/桑本栄太郎
雨風を受けてコスモスの花茎も傾くようになったが、花は溢れるように咲いている。風を待って今にも戦ぎだしそうである。原句「傾ぎしままに」を「傾ぎしままが」に添削したのはコスモスの写生。(高橋正子)
★橋に見る水きらめくは溝蕎麦に/柳原美知子
そんなに大きくなし橋であろう。橋の上から見ると、川の水がきらきら光り、溝蕎麦の花を輝かせている。田園の澄んだ水、澄んだ空気の中まで感じさせてくれる。(高橋正子)
★耕して野菊のそばまで至りけり/古田敬二
一心不乱に耕していると、一叢の野菊に行き当たってしまった。抜き去るには忍びず、そこで耕すのをやめてしまった。自然と一体になった、楽しい暮らしぶりが見えてくる。(山中啓輔)
★今朝落ちし花櫚の実とて手から手へ/川名ますみ
色づく程に、えも言われぬ甘い香りがするかりんの実はそのままでは食べられず、蜂蜜漬けにして咳止め用にするようですね!。御句に先日の散歩ウォークで、とある古刹の庭の高い木に鈴生りになっている光景を想い出しました。(桑本栄太郎)
★たこつぼに値段の付きて秋の浜/祝恵子
風景がよく見えます。たこつぼは、貝殻などついて、風情がありますね。野の花が、似合いそうです。(成川寿美代)
★きちきちの音を追いかけ子ら走る/高橋秀之
子どもはよく走りますね。意味も無く走る、走らずにはいられない、と
いうのが子どもなんでしょう。歓声が聞こえてきそうです。(多田有花)
★中天に大き星あり虫の夜/黒谷光子
大きな星の煌めきに応えるかのような虫の音。天にも地にも静かに深い秋の夜が更けてゆき、安らぎを感じます。 (柳原美知子)
★星月夜笛になる竹ならぬ竹/小口泰與
美しい星月夜、どこからか幽玄な笛の音が聞こえてきそうです。月光の差す竹藪の幻想的な光景からリアルな「笛になる竹ならぬ竹」と転じているところが面白いですね。 (柳原美知子)
★とんぼ飛ぶ棚田に翅を煌めかせ/飯島治朗
遠い棚田と自分の前に広がる空間の中に、とんぼの翅の輝きが軽やかにふくらんでいます。この句を読む人の心に、その人それぞれの持つ風景の色と光が交錯するようです。 (小西 宏)
★秋冷にロンドン発のエアメール/成川寿美代
凛とした秋の冷気漂う日にロンドンからのエアメールが届く。四角い封筒がすとんと空から飛び込んできたように。 (小西 宏)
★柿剥けば児の仕種よく頬張りぬ/藤田裕子
柿の切り口は、なんとなく角張って見えます。それを美味しそうに、要領よく口に含む子供たちの頬は、しかしやっぱり、とんがって見えますよね。 (小西 宏)
□高橋正子選
【最優秀2句】
★月明るし靴音立てて帰り来ぬ/後藤あゆみ
澄んだ月夜に靴音を響かせて家に帰ってくる。月が明るいことのうれしさである。(高橋正子)
★薄立つ高さよ向こうの山よりも/多田有花
小高い丘などに登ると、薄が向こうの山よりも高く立っている。見晴らしのよさにも秋の深まりがある。(高橋正子)
【特選10句】
★菊の葉も茎も青々窓に濃し/柳原美知子
季語はないが、季感がある句。窓ごしに見える菊の葉も茎も丹精の甲斐あって、青々としている。そういったものに目を遣る楚々とした暮らしぶりがいい。(高橋正子)
★刈り取られ耀く稲穂抱えゆく/河野啓一
刈り取られた稲穂は、田にあるときよりも、日の光を全長に受けて輝く。抱かれ運ばれる時は特に。(高橋正子)
★虫の夜の海より暮れて更けゆけり/小川和子
「海より暮れる」が作者の発見。さらに夜が更けてゆき、虫の夜へのことさらの思いがある。(高橋正子)
★蘆の穂の大きく風を捉えけり/桑本栄太郎
蘆の穂を主体に、蘆の穂を大きく、大らかに捉え、風の中にクローズアップさせ見事である。(高橋正子)
★一歩ずつ吾より先に赤とんぼ/渋谷洋介
赤とんぼが、一歩ずつ先をゆく秋のうららかさに、なつかしさが湧いてくる。透明感があって、あるがままの句。(高橋正子)
★どこまでも水色軽き秋の空/井上治代
「どこまでも水色」がやはり秋の空をイメージさせる。水色の軽い青さも秋の空の変化のひとつ。(高橋正子)
★秋深き山道薪の高々と/小西 宏
やがて来る冬に備えて、薪が山道に高々と積まれているのを見ると、「秋深し」の情感が高まる。(高橋正子)
★窓開ければりんりんと朝寒の風/迫田和代
窓を開けると、もう朝の風が寒い。風も心身も「りんりんと」する。(高橋正子)
★鵙鳴いて玻璃くっきりと今朝の空/藤田洋子
キチキチと鋭く鳴く鵙の声にこたえて、よく磨かれた玻璃に、抜けるような青空が見える。自分の内なる温みに対して、外には、鋭い鵙の声と、すっきりとした空の青がある。(高橋正子)
★玻璃戸拭き終え秋の空存分に/山中啓輔
玻璃戸しっかり拭き終えると、玻璃戸という隔てが無くなったように、秋の空が、直に、しかも存分に自分のものにできる。「秋の空」の感覚、秋の季節をよく捉えている。(高橋正子)
【入選14句】
★スケッチの筆のタッチは鰯雲/河野啓一
鰯雲のように筆を小さくふわふわっと置いてゆくスケッチが、たのしい。スケッチの軽さが鰯雲とよく合っている。(高橋正子)
★手折りきし穂芒水にはや長ける/小川和子
「水にはや長ける」の新鮮な感覚がよい。穂芒を折取ってきて、つややかな穂をめでているまもなく、長けてしまった。「水に」がさりげなさと、透明感を出している。(高橋正子)
★秋の灯の鉛筆軽し編み図引く/後藤あゆみ
「鉛筆軽し」に手慣れた作業とたのしい心持が知れ、「秋の灯」にもよい生活感があるのがよい。出来上がりを思いながら、軽やかに鉛筆を動かし、編み物の製図をする楽しい時間である。(高橋正子)
★破蓮の隙(ひま)に透けいる水の青/多田有花
破蓮の間に澄んだ水の青さを見つけた視点がよい。蓮の枯れた姿に、「青」が新鮮である。(高橋正子)
★コスモスの傾ぎしままが風を待つ/桑本栄太郎
雨風を受けてコスモスの花茎も傾くようになったが、花は溢れるように咲いている。風を待って今にも戦ぎだしそうである。原句「傾ぎしままに」を「傾ぎしままが」に添削したのはコスモスの写生。(高橋正子)
★橋に見る水きらめくは溝蕎麦に/柳原美知子
そんなに大きくなし橋であろう。橋の上から見ると、川の水がきらきら光り、溝蕎麦の花を輝かせている。田園の澄んだ水、澄んだ空気の中まで感じさせてくれる。(高橋正子)
★耕して野菊のそばまで至りけり/古田敬二
一心不乱に耕していると、一叢の野菊に行き当たってしまった。抜き去るには忍びず、そこで耕すのをやめてしまった。自然と一体になった、楽しい暮らしぶりが見えてくる。(山中啓輔)
★今朝落ちし花櫚の実とて手から手へ/川名ますみ
色づく程に、えも言われぬ甘い香りがするかりんの実はそのままでは食べられず、蜂蜜漬けにして咳止め用にするようですね!。御句に先日の散歩ウォークで、とある古刹の庭の高い木に鈴生りになっている光景を想い出しました。(桑本栄太郎)
★たこつぼに値段の付きて秋の浜/祝恵子
風景がよく見えます。たこつぼは、貝殻などついて、風情がありますね。野の花が、似合いそうです。(成川寿美代)
★きちきちの音を追いかけ子ら走る/高橋秀之
子どもはよく走りますね。意味も無く走る、走らずにはいられない、と
いうのが子どもなんでしょう。歓声が聞こえてきそうです。(多田有花)
★中天に大き星あり虫の夜/黒谷光子
大きな星の煌めきに応えるかのような虫の音。天にも地にも静かに深い秋の夜が更けてゆき、安らぎを感じます。 (柳原美知子)
★星月夜笛になる竹ならぬ竹/小口泰與
美しい星月夜、どこからか幽玄な笛の音が聞こえてきそうです。月光の差す竹藪の幻想的な光景からリアルな「笛になる竹ならぬ竹」と転じているところが面白いですね。 (柳原美知子)
★とんぼ飛ぶ棚田に翅を煌めかせ/飯島治朗
遠い棚田と自分の前に広がる空間の中に、とんぼの翅の輝きが軽やかにふくらんでいます。この句を読む人の心に、その人それぞれの持つ風景の色と光が交錯するようです。 (小西 宏)
★秋冷にロンドン発のエアメール/成川寿美代
凛とした秋の冷気漂う日にロンドンからのエアメールが届く。四角い封筒がすとんと空から飛び込んできたように。 (小西 宏)
★柿剥けば児の仕種よく頬張りぬ/藤田裕子
柿の切り口は、なんとなく角張って見えます。それを美味しそうに、要領よく口に含む子供たちの頬は、しかしやっぱり、とんがって見えますよね。 (小西 宏)