■12月21日
□高橋信之選
★日の当たる水場に冬菜洗いおり/宮本和美
小春日和であろうか。「冬菜洗い」の水の冷たさにも快さを感じる。17字の中に切れ字がないので、言葉の流れがゆったりとして、そのリズムに小春の快さがある。(高橋信之)
□高橋正子選
★冬の雨東寺の塔の高きから/前川音次
「東寺の塔」の語感がよく、塔を籠めて降る冬の雨の印象がすっきりとして、むしろ明るい。(高橋正子)
■12月22日
□高橋信之選
★蝋梅の咲きつつ大き葉を落とす/黒谷光子
蝋梅が咲く頃には、葉を落としている。そこをうまく捉えた。(高橋信之)
□高橋正子選
★冬の夜や五右衛門風呂に薪を足す/小西 宏
冬の夜は、お湯も冷めやすい。湯加減を聞いて五右衛門風呂に薪をくべ足すのも、生活の楽しさやぬくもり。(高橋正子)
■12月23日
□高橋信之選
★地方紙にそれぞれ包まれ冬荷着く/甲斐ひさこ
暮の贈物、色々の里の実りものが地元の新聞に包まれて届けられた。荷を解きながら、里の新聞に思わぬ事柄を知る。お礼の電話が膨らんでゆく温かさが滲んでくる好きな句す。(志賀泰次)
□高橋正子選
★雨の音やがて無くなり雪の朝/篠木 睦
降っている雨の音が止んでしまって、雨があがったかと思うと、夜のうちに雪に変わっていた。今朝の雪の新鮮さが伝わってくる。(高橋正子)
■12月24日
□高橋信之選
★子らの声膨らんでメリークリスマス/志賀泰次
楽しいのがいい。明るいのがいい。「子ら」がいれば、なおのことである。(高橋信之)
□高橋正子選
★麦の芽や今朝の赤城は靄に起つ/小口泰與
麦の芽がまっすぐに伸び、靄の中に赤城山が起つ。麦の芽と、朝の靄にいい詩情がある。(高橋正子)
■12月25日
□高橋信之選
★下げてみる一匹の塩鮭の重さ/祝恵子
生活の実感があって、それがこの句の強みである。生活の重さをさりげなく背負い、さりげなくこなす。ときには、楽しささえもある。(高橋信之)
□高橋正子選
冬晴れを走る小鳥のグラウンド/下地鉄
冬晴れのひろびろと明るいグラウンドを、小鳥がチョチョチョッと走っている。小鳥もそれを見る作者も楽しそうだ。(高橋正子)
■12月26日
□高橋信之選
★ペダル漕ぐ冬至を過ぎし眩ゆさに/小川和子
「冬至を過ぎ」であれば、「眩ゆさに」がやや付き過ぎと思われるが、「ペダル漕ぐ」作者の「眩ゆさに」は、実感があり、「冬至を過ぎし眩ゆさに」にも偽りの無い実感を感じる。(高橋信之)
□高橋正子選
★吹き返す風は枯野の陽をゆらす/志賀泰次
「枯野の陽をゆらす」がいい。枯の中にある、「あかるさ」、「あたたかさ」、「ゆれる動き」が、相乗していい世界を作っている。(高橋正子)
■12月27日
□高橋信之選
★火の粉とぶ手締めの影や飾売/小西 宏
寒さを飛ばす様な歳の市の威勢の良い景が見えて来ます。上五がとても光景を引き立たせていて好きな句です。 (志賀泰次)
★風花や路面は青く光りつつ/桑本栄太郎
西日本でも、初雪となり、ちらちら雨と雪が降る日に出かけられたようですね。「路面は青く光り」で道路の冷たく濡れた様子、その日の寒さの厳しさの伺える句と思い選びました。 (小河原宏子)
□高橋正子選
★頂の枯れの中なる三角点/多田有花
頂上にある三角点が、枯の中に、しっかりと位置を占めて動かない。枯を引き締め、枯の大きさを示している。。(高橋正子)
★冬枯れの里の夕陽に分け入りぬ/藤田荘二(正子添削)
冬枯れの里の素朴さ、夕陽のまぶしさに郷愁があって、世を離れた一世界がある。(高橋正子)
■12月28日
□高橋信之選
牛小屋に大きな注連を飾りけり/宮本和美
日常的な風景だが、今の世のマスコミを喜ばす風景ではない。俗を抜け出たところが暖かい。見ている目が暖かい。(高橋信之)
□高橋正子選
牛小屋に大きな注連を飾りけり/宮本和美
平成21年の干支は丑。牛小屋にも大きな注連飾りを飾り、祝の気持ちと敬意を示す。ほのぼのとしてユーモアのある句。(高橋正子)
■12月29日
□高橋信之選
年の花とて水引を巻かれけり/前川音次
多くを語っていないが、新年を迎えるという、歳末のあわただしさとは違った、ゆく年の静けさが伝わってくる。私の好きな句だ。(高橋信之)
□高橋正子選
年の花とて水引を巻かれけり/前川音次
新年を迎える花、とくに松などには、金銀の水引をかけて目出度さを格をもって祝う。水引をかければ、年の花となるゆかしさ。(高橋正子)
■12月30日
□高橋信之選
碑に無窮の空と山茶花を/藤田荘二
現実を踏まえた、風景のいい写生があり、そこからの作者の眼は、その奥を見た。単なる写生ではない、本質的なところを見た。(高橋信之)
□高橋正子選
朝の陽をまつすぐ通す枯木立/川名ますみ
朝日がまっすぐに枯木立を通って差している冬の朝が快く読まれている。「まつすぐ」は、枯木立だから感じられること。(高橋正子)
■12月31日
□高橋信之選
千両の零れやすさよ花活ける/黒谷光子
「零れやすさ」に命があって、その命を大事に「花活ける」作者である。(高橋信之)
□高橋正子選
晴れわたる子の忌どこかに冬雲雀/柳原美知子
子の忌であれば、深い悲しみにまた沈むときであろうが、晴れ渡った空のどこかに魂の歌声のような冬雲雀の声を聞いた。天上の魂となった子ではないかとふと思う。(高橋正子)