■1月16日(土)~1月31日(日)
□高橋正子選
【最優秀/2句】
★枯野にもほのかに朱かきもののあり/小口泰與
枯野となっても、枯一色ではなく、薄にしろ、ほかの草にしろ、ほのかに朱をもっている。「もののあり」と、多くを述べないので、却って句に膨らみと深みがでている。(高橋正子)
★雪解けんまずは水仙咲くあたり/上島祥子
句意は、水仙が咲いているあたりから、まずは雪が解けるだろう。水仙の咲く根元あたりにじわっと土が見えはじめて、雪は、そのように解け始まる。日本画を見るような句。(高橋正子)
【特選8句】
★さわさわと光と影を水仙花/河野啓一
水仙に日の光りが当たると、花にも葉にも影ができる。日のあたるところはより輝いて、当たらないところは静かに深く影ができる。その光と影が「さわさわ」とした印象なのは、水仙の姿から受け取られるものであろう。(高橋正子)
★照り返す雪の光りの厨窓/黒谷光子
厨に立つと窓が明るい。積もった雪の照り返す光りには、雪のもつ独特の抒情ゆたかな明るさがある。(高橋正子)
★寒晴れや今日くっきりと播磨の野/多田有花
いつも見る播磨の野であるけれど、寒晴れの今日は、ことさらに「くっきりと」くまなく野が見えて、素晴らしい眺めとなった。寒晴れの今日が大事に思われる。(高橋正子)
★薪となる大木ごろり霜の庭/古田敬二
薪にされる大木が、庭にごろり置かれ、霜を真っ白く被っている。ストーブにでも焚かれる薪か、そういった生活の断片が窺える。(高橋正子)
★遊具みな子らと光りて春近し/藤田洋子
少しずつ春の兆しが見えてくる自然の中で、遊具で無心に遊ぶ子らの幸せな光景を思い浮かべることができました。(井上治代)
★静謐な午後のひととき毛糸編む/井上治代
上五・中七にかけての文脈が素敵です。そして、下五の季語。午後の二文字の濁音が効果的です。一読して、景も句意もはっきりと読み手に伝わってきます。(飯島治朗)
★幼き子寝ている蒲団こんもりと/高橋秀之
幼子の小さな身体に寄り添う蒲団、その可愛らしい膨らみ具合にも愛おしさが込み上げます。幼子の傍で寝顔に見入り、寝息に聴き耳をたてている作者の姿が眼に浮かぶ、心温まる情景です。 (柳原美知子)
★包み紙少し濡れいて蕗の薹/佃 康水
蕗の薹を包んでいる紙がうっすらと濡れている。朝早く採られた蕗の薹だろうか。蕗の薹の息吹であろうか。しっとりとした命の、春みずみずしさがある。(高橋正子)
【入選20句】
★春近き日差し隅々玻璃戸拭く/藤田洋子
よいお天気に硝子戸をきれいに磨くと、あたたかい日差しが隅々に至るまで差している。春近いことを肌身に感じるときである。(高橋正子)
★麦の芽が青む土壌の豊かさに/小川和子
麦の芽を際立たせるために、「麦の芽の」を「麦の芽が」と添削した。麦の芽が青んでくるこの季節、この自然に、詩情がある。(高橋正子)
★一嶺をかすかに見せて吹雪きたり/小口泰與
一嶺がかすかに見えるほかは吹雪である。モノトーンの吹雪の景色が深みをもって詠まれた。(高橋正子)
★寒椿白きを飾る震災忌/河野啓一
1995年1月17日、阪神淡路大震災が起こった。地震の起きた朝のニューズ報道で、死者が数十人、それから数百人、そして数千人にその数が膨らんでいった記憶もまだ新しい。あれから15年が経ち、静かな朝を迎えて飾られた白い寒椿が、鎮魂の花として悲しみを新たにする。(高橋正子)
★竹林の大きうねりや日脚伸ぶ/篠木 睦
「日脚伸ぶ」の季語が指ししめすこの時期、春一番を思わせる大きな風が吹いたりする。竹林もそういった風に春近い日差しを載せてうねる。「日脚し伸ぶ」をよい自然観照で捉えた。(高橋正子)
★和えており菜の花の黄を上にして/祝恵子
採りたての菜の花なのでしょう。黄色を上にしてという表現から新鮮さが伝わってきます。(高橋秀之)
★落葉埋む雑木林の古戦場/渋谷洋介
古戦場跡の雑木林は、落葉に深々と埋まり、往時を彷彿とさせるようです。「落葉埋む」に今はひっそりとした景が味わい深く伝わります。(小川和子)
★雪原に畝の形がうっすらと/高橋秀之
雪に覆われた田畑の畝の形のゆるやかな凹凸、列車からの雪景色がうつくしく詠まれています。(黒谷光子)
★雪遊びしてより列組む登校児/黒谷光子
登校児全体が鳥の群れのような意志を持った存在のような詠み方が新鮮です。子どもたちの様子や声まできこえてくるようです。(多田有花)
★北風が走る浜辺の波の音/迫田和代
走るように吹き抜ける北風。浜辺であれば、その潮を波立たす音も、強く響くことでしょう。風の冷たさ、海の匂い、波の音など五官に感じながら、大きな自然を思う、好きな句です。(川名ますみ)
★海の香に牡蠣のグラタン焼き上がる/川名ますみ
牡蠣は今が旬です。レンジから良い臭いがしてくるようです。海の香に・・・ぴったりとして、豊かな、キッチンを、想像致します。(成川寿美代)
★長縄を飛び跳ねる子ら息白し/飯島治朗
寒い冬の校庭の躍動感がよく伝わってきます。子どもたちのこういう情景を想像するとこちらも元気を貰う感じがしてきます。(古田敬二)
★ゆるやかに鳶舞う春を待ちながら/小西 宏
寒晴れの空にゆったりと舞う鳶を眺めているとのどかな気持ちになり、春の足音を感じます。心地よいリズムの優しい句ですね。(柳原美知子)
★鮮やかな切り口赤カブ朝市に/古田敬二
朝市の新鮮な赤カブがすぐに思い浮かびました。とても勢いの感じられる句と思います。(高橋秀之)
★一条の川だけとなる雪野かな/越前唯人
荒涼とした冬の景が雪に覆われて真っ白になった野に一筋の川のみが流れている。冬の寂しい光景を見事に詠っていますね。 (小口泰與)
★冬耕の菜畑の農婦白手拭/桑本栄太郎
冬であっても農作業で体を動かすと汗を拭くための手ぬぐいが必要なのでしょう。その白手拭に眩しさを感じます。 (高橋秀之)
★注連縄の飾り落として火の中へ/上島祥子
どんどで注連縄を燃やす前に飾りを落としているといよいよ正月気分が終わりと思えてきます。そして、火の中へ注連縄を投ずるころには気持ちの上で正月が終わるのでしょう。 (高橋秀之)
★冬凪や丸太の乾く製材所/柳原美知子
貯木場に浮かべてあった丸太の原木も製材のために陸揚げされたのでしょう。冬凪で波もかぶることなく、乾いていく様子に、穏やかな港の一こまが感じられます。 (高橋秀之)
★山すその土ふくふくと蕗の董/成川寿美代
蕗の董を育む「ふくふくと」した山すその豊かな土壌に、蕗の董を見つけた嬉しさ、明るい春到来の喜びが伝わります。 (藤田洋子)
★冬バラのいつしか小さく咲ききれり/藤田裕子
冬の深まりとともにいつしか咲いた可憐な冬バラ。小さいながらもけなげなバラへ寄せる、いとおしむような優しさを感じます。 (藤田洋子)