■4月16日(金)~4月30日(金)
□高橋正子選
【最優秀/2句】
★つばめ来る瀬戸の海光ひるがえし/柳原美知子
南からのつばめが来ることは、あたらしい季節の到来。「海光ひるがえし」に、瀬戸を颯爽とぶつばめの生き生きした姿がある。(高橋正子)
★青空を透かしてほぐれ楓の芽/多田有花
楓の芽のみどりの間から青い空が透けて見える。「透かして」の把握が生きていて、ほぐれたばかりの楓の芽の様子がよく見て取れる。(高橋正子)
【特選10句】
★群青の湖までの土手花菜風/黒谷光子
土手伝いに菜の花の風を受けながら湖まで歩くと、湖は群青の色に。その色への驚きがある。菜の花の黄色をイメージさせる花菜風と、湖の群青のコントラストが美しい。(高橋正子)
★花主と見上げふさふさ藤の房/祝恵子
「花主」は、風流。原句は、「見上げておりぬ」であったが、藤の房の観察をもう一歩進めて、「ふさふさ」と添削した。ふさふさとした藤房の豊かさが感じられる。(高橋正子)
★あくまでも空にほぐるる楓の芽/小口泰與
楓の芽がほぐれるのは、あくまでも空。ほぐれたばかりの楓の芽のつややかな若緑と、空の青とがよい色合いとバランスをなしている。(高橋正子)
★八重桜色を沈めて街ふけぬ/成川寿美代
八重桜は桜の中では、もっとも遅く咲く。ぽったりと重い花は、街がふけ、色を沈めたころに抒情がある。(高橋正子)
★晴れ渡り勇み掲げる鯉のぼり/河野啓一
鯉のぼりは、晴れた空に揚げるのが一番。青空に風を得て勇壮に泳ぐ鯉のぼりはよいものだ。よく晴れれば、親も勇む心で鯉のぼりを揚げる。(高橋正子)
★春の海浅瀬のやがて満ちくるか/下地鉄
「やがて満ちくるか」は、まだ満ちていない浅瀬の景。のびやかな春の浅瀬にゆったりと潮が満ちてくるのを思うゆたかさがいい。(高橋正子)
★いたどりの節目鮮やかダムサイト/古田敬二
いたどりがすっと伸び出て、節が鮮やかに見える。それがダムサイトにあるので、ダムの水面が見えて、浅緑の茎に紅の斑も芽が生かされている。(高橋正子)
★幾たびも田の面を掠めつばくらめ/佃 康水
4月頃全国に渡来して軒や梁などに巣をかける燕。飛びながら昆虫類を食べ、飛行が早く飛ぶ姿も可憐ですね。燕が飛ぶようになると春を感じますね。 (小口泰與)
★リラ冷えのひと日テーブルクロス編む/後藤あゆみ
リラの花とレース編、しぐさなど美しく優しい情景が浮かびます。 (黒谷光子)
★筍の切り口白く草に置く/藤田洋子
切り口が白いというので、今まさに切り取ったばかりの筍なのでしょう。草におくことで、筍狩りで切り取ったばかりの新鮮さが、とてもよく伝わります。(高橋秀之)
【入選16句】
★遠ざかる新幹線へ木の芽風/多田有花
スピードとスマートさに勝れる新幹線と、やさしい木の芽風がよく沿っている。一瞬にして過ぎ去る新幹線をよく詠んで工夫がある。(高橋正子)
★名水をふふむ山路に若葉風/佃 康水
清水をふふみ、身も心も軽やかに若葉をわたるみどりの風に吹かれて、山路をゆく心地よさ。さわやかな新緑の季節の到来を感じさせていただきました。(柳原美知子)
★長雨に癒しと梨花の一面に/飯島治朗
原句「長雨に梨花一面の癒しかな」をより明るくするために、より深くするために添削をしました。暗くならないために、浅くならないために、どうすればよいかをご自身でお考えください。(高橋信之)
★たんぽぽの黄の色残し草を抜く/藤田裕子
雑草を抜く時、きれいな黄色のたんぽぽだけは残しておきたいという作者の気持ちよく分かります。私も畑の草を抜く時、雑草の命の輝きに触れ、この草だけは残しておこうと思うことがあります。(井上治代)
★はなやぎも去り今では皆葉桜に/迫田和代
満開の頃はお花見で賑わった桜の園もみな葉桜となり静けさが戻ってきました。華やかな頃と葉桜の頃の対比が素敵です。(黒谷光子)
★タンポポの綿毛いっぱい円い丘/小西 宏
丸い丘の周りはタンポポがたくさん咲いていたのでしょう。綿毛いっぱいが春の穏やかな風に飛ぶ綿毛を感じさせてくれます。 (高橋秀之)
なだらかな丘より空に舞う、タンポポのたくさんの白い綿毛、春色溢れるうららかさに心も明るく晴れやかになれます。(藤田洋子)
★風船を大事に抱えた帰り道/高橋秀之
風船に込められた作者の、ご家庭への思いがあたたかく伝わります。風船を持ち帰ったご家庭の明るい情景も心楽しく想像します。 (藤田洋子)
★ふくらんできて芍薬の白き珠/藤田洋子
まんまるの芍薬の蕾を的確に詠まれていると思います。立派な白い芍薬が咲くことでしょう。(黒谷光子)
★チューリップ一年生へ丸々と/川名ますみ
「丸々と」という言葉がチューリップという花の様子にも、可愛らしい一年生の様子にもぴったりですね。明るく健やかな雰囲気の御句です。 (多田有花)
★春の月樹間に望む露天の湯/渋谷洋介
露天風呂から望む春の月、それだけでもう最高ですね。まだ少しひんやりしているかもしれませんが、それもまた露天の湯の楽しさです。 (多田有花)
★夕風にほのかに揺れる豆の花/井上治代
夕風に吹かれて、暮れなずむ可憐な豌豆の花や蚕豆の花の色、のどかな田園風景が眼に浮かびます。やがて豊かな実をつける新たな季節が楽しみですね。 (柳原美知子)
★水張りし田のひろびろと村静か/後藤あゆみ
田植えの準備のために水を張られた広々とした田んぼ。春の陽射しにきらきらと煌めく。作業が終って時間がたつのだろう。濁りは澄み、人影は見えず静かな村である。(古田敬二)
★水かさの高き利根川麦青し/小口泰與
満々と水を湛えた利根川に添う青々とした麦畑、溢れるみずみずしさに明るい季節の喜びを感じます。(藤田洋子)
★旅立つ日の母に和服を選る遅日/小川和子
旅立つ日を前に母へ寄せる作者のあたたかな思い、母と娘に流れる優しい情愛に、のどかな春の平穏な遅日のひとときを感じさせていただきました。(藤田洋子)
★藤波の風はむらさき吾が頭上/桑本栄太郎
頭上とあるので藤棚なのでしょう。春の風に揺れる藤の様子が、とてもさわやかに感じられます。(高橋秀之)
★夕陽早や川面に眩し夏隣る/桑本栄太郎
光が強くなってきたのを実感します。この春はぐずつくことが多かっただけに光の強さにはっとされている、その驚きが伝わってきます。 (多田有花)