■3月16日(火)~3月31日(水)
□高橋正子選
【最優秀/2句】
★山辛夷一気に空の青へ咲く/藤田洋子
「一気に」が野生である山の辛夷らしい。待ちこがれたように噴き出して咲く。辛夷の見方に元気があり新しい。(高橋正子)
★朝日はや照らして峰の山桜/多田有花
明けるとはやも朝日が射す山桜がみずみずしい。山気を含み、神々しいほどの桜である。(高橋正子)
【特選10句】
★青空の青を返して犬ふぐり/渋谷洋介
犬ふぐりは、地に咲く星に例えられたり、その他、いろいろな表現で称えられてきた。この句のよさは、「青を返して」にある。青空の青を映し、その青をまた空へそっくり返す。この力が花の生命力、あるいは生命感というものであろう。(高橋正子)
★水色のそらに連翹の明るい岸/小西 宏
元の句は、「水色のそら」で切れ過ぎ。感動のありどころを、論理的に詰めて表現するとリアルな句になる。水色の空であるから、真っ黄色い連翹の咲く岸がくっきりと眼前に見える。そのコントラストが美しい。(高橋正子)
★青空に白木蓮の他になし/佃 康水
白木蓮は、葉に先がけて白い花を咲かせる。青空にくっきりと白い花が浮かび、眩しいほど。「他になし」は潔く、句のイメージが鮮明。(高橋正子)
★うらうらと晴れて色濃き犬ふぐり/黒谷光子
春の日がうらうらと差して、犬ふぐりの花は青色を濃くぱっちりと咲いている。のどかさこの上ない。(高橋正子)
★春とんぼ風を掴んで吾に来る/下地鉄
鉄さんは、沖縄にお住まい。はやくも、親しく「吾に来る」とんぼもいる。近づいてくれば、脚がしっかり風を掴んでいる様子も見える。「吾に来る」でこの句が鉄さんの句となった。(高橋正子)
★荷の中の花のミモザを水に挿す/祝恵子
ミモザと水の出会いがみずみずしく新鮮。荷物という括られたものの中に、優しさの塊のようなミモザがあるのも意表をついている。(高橋正子)
★花冷えの夜も賑わえる我が家かな/高橋秀之
花冷えとは一見お構いなしの元気な子どもたちで賑わう我が家。とはいえ、花冷えの空気が大きく家を包んでいる。(高橋正子)
★妻へ摘む土筆片手にあまりけり/古田敬二
「妻へ摘む」は、常套的であるが、ともかくも、春の野に土筆を片手にあまるほど摘んだのどけさがよい。(高橋正子)
★雛しまう南八畳広くなり/上島祥子
飾ってあったひな壇を片付ける。南向きの部屋が急に広くなり、春の陽が8畳に拡がる。片付けてしまった寂しさも少し。本格的にやってくる春がそれ以上に嬉しい。(古田敬二)
★良き音の指に立つなり土筆摘み/柳原美知子
つくしを摘むときの音に注目されているのが新鮮です。「指に立つ」という言葉、つくしを摘み取る感覚が伝わってきて素晴らしいですね。(多田有花)
【入選20句】
★日に乾く土にタンポポ茎太く/小西 宏
タンポポが咲くところは、日がよく当たる。真上から太陽を受けると特に地面は固く乾く。そういった固い地面から、茎の太いタンポポが育ち、たくましい。(高橋正子)
★菜の花や島の暮らしの魚網干す/黒谷光子
島にも菜の花が咲く季節。島の暮らしは魚を獲ること。うららかな陽と風に魚網が干され、菜の花の咲く島の漁村のよい風景となっている。(高橋正子)
★朝粥に京の香りの花菜漬/下地鉄
朝粥の薄い白さと花菜漬の色合いがやさしい。「京の香りの花菜漬」は、京土産か、京の旅で食されたものかであろうが、いずれにしても京の雰囲気を句に持ち込んで広がりが出ている。(高橋正子)
★咲く前の桜木紅き九十九折/柳原美知子
こういった風景は、桜三里であろうかとも思った。九十九折の道を行くと、咲く前の桜の木が紅く紅潮したようになって続いている。実際咲く前の桜は樹液が紅くなっているという。(高橋正子)
★朝日射し匂えるさくら空青し/河野啓一
空は朝から青空で、朝日が射しているさくらは、匂うようである。「匂える」は、桜の花の色や耀き、そして香りを包めて「匂える」感覚である。(高橋正子)
★菜の花をコップに一輪飾り置く/飯島治朗
菜の花の親しみやすい黄色が「コップに一輪」との措辞で、素敵に詠われました。さりげない日常生活の中に、季節の花と親しむ心情が好いですね!。(桑本栄太郎)
★すもも咲き晴れの気配の空にあり/成川寿美代
瑞々しいすももの花が真白に咲き、明るさを増してゆく晴れ晴れと美しい空に、心も晴れ晴れと良い一日の始まりが感じられます。(柳原美知子)
★蝌蚪の国畦に置かれしランドセル/桑本栄太郎
水田に産卵されたおたまじゃくしは10日位で孵化しひょろひょろと尾を振って泳ぐ姿に、小学生の子供たちが夢中になってオタマジャクシと遊んでいる姿が素晴らしいですね。特に「畦に置かれたランドセル」の表現が素晴らしいと思います。(小口泰與)
★何もかも寂しい時の春の月/迫田和代
ズバッと、(寂しい時の)と、素直に表した所に、心うたれました。春の月は、過去を、ふり返りる要素がありますね。(成川寿美代)
★青麦に朝日やわらか風の中/小口泰與
風にさやぐ青麦に朝日が差し、麦のみどりが濃く薄くきらめく田の風景が美しく、これからの麦の成長も約束されているようです。(黒谷光子)
★ツバメ来て嬉しき午後の自転車道/河野啓一
飛来するツバメに眩しいばかりの自転車道、いかにも春の到来の嬉しさ、明るさに、私も心楽しくなれました。(藤田洋子)
★樹の形円かになりて辛夷咲く/井上治代
辛夷が咲きみちて、木がまあるく見えるのですね。「円かになりて」に作者のやさしさが感じられ、共感します。(小川和子)
★辛夷咲く枝に風過ぐ幾度も/小川和子
風もだんだんと南風が吹く辛夷咲く頃。幾度も辛夷を過ぎる風がとても快く、風に揺れる純白の辛夷も明るく爽やかです。 (藤田洋子)
★菜の花の向こう水色電車行く/高橋秀之
菜の花の黄と水色電車の彩りがうららかに見えわたり、柔らかな春色に、おのずと明るくあたたかな季節が感じられます。 (藤田洋子)
★梅咲いて向こうのビルの薄くなり/川名ますみ
町中に瑞々しく咲き、芳香を漂わせている紅梅白梅に、いつも見える向こうのビルの色合いも趣が変わり、いつもの風景が新鮮に見えます。季節とともに移りゆく町の様子も楽しいですね。(柳原美知子)
★庭師来て剪定の木の香広がれり/小川和子
庭師が剪定し、落ちてゆく木々の枝がそれぞれの香りを放ち、庭中に木の香が広がって生き返るようです。心地よい春の生命力を感じます。(柳原美知子)
★啓蟄やもくもくと雲流れおり/村井紀久子
啓蟄の日差しの中、見上げると春の雲が流れている。もくもくで、たくさんの雲が流れている様子が感じられます。(高橋秀之)
★防人の通いし道や花かたくり/渋谷洋介
片栗の花には、ふるさとを離れて寂しく咲いているというような風情がありますね。そしてまた、きっぱりと立つさわやかさも感じられます。作者の足元のやわらかな土も合わせて思い浮かべます。 (小西 宏)
★こきこきと竹林鳴らし春の風/桑本栄太郎
春風が竹林を「こきこき」鳴らす音は、春を実感させる。嬉しい春の実感である。(高橋信之)
★花冷えの街へ明るき若者ら/藤田裕子
花冷えのころは、入学したばかりの学生たちや新入社員など、明るく希望にあふれた若者たちを目にする。明るく談笑しながら、街へ繰り出す姿を見ると、いいなあと思う。(高橋正子)
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