■11月1日(月)~10月30日(火)
□高橋正子選
【最優秀2句】
★石蕗の花はや日輪の傾きぬ/多田有花
句の姿が整っている。暮れ急ぐ日にしずかに灯る石蕗の黄色い花が印象に残る。(高橋正子)
★観音の坂せせらぎと冬紅葉/黒谷光子
観音へ参る坂にせせらぎと冬紅葉があって、気持ちが満たされてあたたかくなる。(高橋正子)
【特選10句】
★短日の街を灯して書店混む/藤田洋子
短日の街の様子が書店を通してよく見える。短日の人で混む書店に充実感が見える。(高橋正子)
★星月夜飛機の灯しもその中を/藤田裕子
星月夜の美しさに佇むと、星にまがう飛行機の灯がひとつ動いている。静かなまたたきの中の一点の動く灯に、星月夜がより印象的に人に近づいてくる。(高橋正子)
★底なしの空の青から雁の列/迫田和代
「底なしの」を「青」に係るように添削した。底なしの空の青さが強調される。その抜けるような青い空から、いつ現れたか、雁の列。高さ、遠さ、また広さを想う句。(高橋正子)
★黄千両今宵の月の色に生る/佃 康水
千両には、赤い実をつけるものと、黄色い実をつけるものがある。その黄色い実を今宵の月の下で見ると、まさに月と同じ色。玲瓏とした黄千両の実である。(高橋正子)
★秋光や印旛の沼の雑魚揚がる/後藤あゆみ
もとの句の「雑魚ひかる」と「秋光や」は、一種の取り合わせで、「秋光」の季語がこわれている。印旛沼のひろがりが秋光を十分に感じさせている。雑魚がたくさん水揚げされる様子とすれば、味わいのある句となる。(高橋正子)
★黄落の森に漏れ見ゆ摩天楼/小西 宏
黄落の森の色彩と、その間に漏れて見える摩天楼の色彩がつくる都会の瀟洒な美しさは、やはり日本的な美しさであろう。それを捉えた感覚がよい。(高橋正子)
★秋入日作りし畝へ畝の影/古田敬二
入日の時刻。きれいに土を盛って、今作ったばかりの畝に、隣の畝の影が伸びてきて重なる。入日のあたる土の色と影の色に、一日の終わりの静かな明るさがある。(高橋正子)
★甘蔗(きび)の穂の風の吹くまま返すまま/下地鉄
サトウキビの穂が風にざわざわと騒ぐ景色は、沖縄の象徴的な風景。秋風が吹くまま、また返すままは、無為自然。(高橋正子)
★茶の花や老婆の軽ろき鍬の音/桑本栄太郎
畑の周りに茶の垣根を巡らしているのだろうか。茶の花が咲くうららかな日、老婆は鍬音も軽く、楽しみながらの畑仕事である。京都では、畑やそこに働く農民を庭園の一部として鑑賞した地位の人もいたというから、そういった風雅がしのべる。(高橋正子)
★雪山の襞くっきりと迫りけり/小口泰與
雪山となって、山襞がくっきりと見えるようになった。「迫りけり」に山の威容が読み取れる。(高橋正子)
【入選14句】
★紅葉散りいよいよ空の透けている/多田有花
紅葉が散ると、空はますます透明感を増してくる。その美しさ。(高橋正子)
★大根を洗いて白を輝かす/黒谷光子
畑から抜き取ったばかりの大根は、洗えば水に白さが輝く。けっして大げさではなく、「輝く」のである。シンプルな句で大根がしっかりと詠まれている。(高橋正子)
★参道の一樹一石落葉踏む/藤田洋子
落葉の積もる参道の一樹一樹の姿を見上げ、踏む道の石一つ一つの具合を確かめつつ登る。伽藍へと導く参道がそうさせる。「落葉踏む」が手堅い。(高橋正子)
★子らの声桜紅葉に包まれる/藤田裕子
桜紅葉の下で遊ぶ子供たちの声が、すっぽりと桜紅葉に包まれている。活発な子どもの声に、桜紅葉の色も今が最高。明るく、活力のある世界。(高橋正子)
★冬浅し森の木漏れ日鳥の声/祝恵子
温かい日差しが森に降り注ぎ、清らかな小鳥の声に心洗われる初冬の光景が眼に浮かびます。(柳原美知子)
★火の国の段々畑に稲架高し/高橋秀之
熊本を火の国と詠まれたのが良いですね。晩稲の稲架が、段々畑に高々と並んでいる景色が目に浮かび素敵です。(後藤あゆみ)
★水鳥の潜りししぶき陽に真白/川名ますみ
水しぶきをあげて潜る水鳥。そのしぶきに陽光が眩しく跳ね返る。寒さに負けないで生きる水鳥の姿が詠われている。(古田敬二)
★紙ヒコーキ飛ばしてデイは秋の空/河野啓一
句全体に軽快な明るさが満ちています。詠者のお気持ちも秋の空へ高くヒコーキに乗って飛んでいくようです。 (多田有花)
★残菊を剪りてバケツに香を満たし/柳原美知子
ものの「香り」というのは、意外にさまざまな連想を呼ぶようです。最後の菊を剪って、今年の秋に思いをはせておられるのでしょうか。「香」に焦点をあたられたのがいいと感じます。 (多田有花)
★すり大根添えて朝食整えり/井上治代
白いご飯を中心とした和食に今卸したての大根を添えて整った朝食は健康にもまた美容にも効用があり、心身共に爽やかな一日の始まりです。 (佃 康水)
四国では大根おろしのことをすりだいこと云うようですね。ピリリとしたおろし大根に鰹節をかけて、爽やかな朝の一品です。 (河野啓一)
★芝生広場大きな空は冬の青/渋谷洋介
芝生広場の上にぽっかりと大きな青空が広がっていて、これを冬の青と詠んだ明るさが嬉しいです。 (河野啓一)
★イルミネーション十一月の月光下/山中啓輔
街路樹のイルミネーションがきらきらと耀いている。月の光の中で見るイルミネーションは、切なく哀しいような美しさだったのではないでしょうか。(後藤あゆみ)
★電車揺れ冬夕焼の濃くなりぬ/小川和子
外出からの家路の途中であろうか?心地よく揺れる電車の車窓には冬の夕焼けが、今、まさに沈もうとしている・・。冬の一日の今日の予定が終り、安堵と冬夕焼け独特の哀愁が滲み出て素敵な風情を感じます。(桑本栄太郎)
★爽やかな林を歩んで動物園/上島祥子
林中、空気も澄んだ好天気なのでしょう。動物園へと続く林道の清々しい心地よさが伝わり、これから過ごす動物園での心楽しいひとときを思い浮かべます。(藤田洋子)