アンドリュー・ワイエス
わたしの大好きなアーティストの一人です。
図書館に予約を入れておいたのが取れました。
この「クリスチーナの世界」の絵は、誰でもどこかで見かけたことがあるかもしれません。
必死に家に帰ろうとするとする女性の後姿と、遠くに見える象徴的な家。
アンドリュー・ワイエスの絵は、どれもすばらしいのですけど、一枚を選ぶとなると、ありきたりの選択ではありますが、この「クリスチーナの世界」になってしまいます。
この絵画集は、ひとつのストーリーになっています。
リブロポートから出ている2巻目がたまたま借りられました。
こちらは、デッサンやエスキースが多めに収録されています。
もう一冊のほうは、もっと物語が多かったような記憶だったと思います。
老女とその年老いた弟が住まう、古い農家を題材にしています。
何枚も何枚もかかれたワイエスのエスキースは、どれくらいその家とそこに棲む二人が好きだったかが伝わってきます。
収穫物を入れるカゴも、納屋も、ドアも、窓も、静物すべてがまるで生きているかのように描かれている。
「無」へ向かうものたちへの、すざましいまでの感情移入がなされています。
始めの頃の葬儀の絵から、老いや死というものを感じ取れる。
人がいなくなり、やがて廃墟のようなうつろな空間になっていくまでの過程。
描写がすばらしく、細密であるがゆえに、読み終えたあとに妙な空虚感を感じてしまいます。
そう、まるで自分がクリスチーナになってしまったような、あるいは彼女をみているワイエスになってしまったような感じ。
わたしにとって、「クリスチーナの世界」は、あるとき無性にみたくなる画集のひとつです。