かぎろひのうた

無系譜の短歌集団として50年の歴史をもつかぎろひ誌社に参加して、かぎろひ誌社と旭川歌人クラブの活動をお知らせしたい

竹山広の歌

2006-07-27 21:06:42 | この一首
秋彼岸の雨のひすがらしくしくに身はくろがねの悔を育てつ   竹山広「葉桜の丘」

 一首を読んで、下句「身はくろがねの悔を育てつ」に胸を衝かれました。
 秋の彼岸の一日中、雨が絶え間なく降っている。北海道の九月とは趣が違うかもしれませんが、心弾む想いではなかったはずです。「くろがねの悔」とは何なのでしょう。ひらがなの「くろがね」からは単なる「鉄」ではなく、中の透けて見えない不気味な物体を想像する事が出来ます。
 「悔いが残る」と表現する事がありますが、作者は「くろがねの悔」を体の中に育てているのです。消したくても消せない強靱な「悔」。それは誰しもが持つ人間としての原罪のようなものかも知れません。人はそのことに気付かないまま暮していけるけれど、作者は消しがたい後悔の思いと対峙して生きているのだと思います。
 被爆体験をもつ歌人竹山弘の作品から反戦の思いをくみ取ることは容易です。が、一首に込められたものを、単に反戦の歌とは読みたくない、人間竹山弘そのものとして受け取りたいと私は思います。  (鎌田章子)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

五首合評の歌

2006-07-23 22:03:34 | 仲間の歌
見えすいた嘘にぐるりと包帯しあとひかぬから夫婦でいられる   反怖 陽子

欧州の地図をひろげて聞き及ぶ巴里やローマへ心遊ばす      煙山久仁子

来賓の熱きあいさつ九人目労働祭にて体冷えきる         泉山 和美

命かけて守る価値ある国家とはいかなるかたちぞまず提示せよ   神原 美穂

わらじ虫そっと歩いて下されよ妻の眠りの邪魔となるなり     小林 信之

かぎろひ誌七月号から、楽しい歌、面白い歌を選びました。
一首目、夫婦の機微を言い得て妙。
二首目、地図をひろげて海外旅行の気分を満喫する作者。高齢の作者が地図をひろげる事で旅行を楽しむ楽しい作
三首目、メーデーでの体験を事実のみ歌っているのだが、どこかアイロニーを感じさせる。
四首目、時事詠は自分の考えをはっきり示す事が必要と、考えさせられました。
五首目、作者の境涯は判らないのですが、妻は永い眠りについているのではないかとの意見もあり、考えさせられる歌です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一首鑑賞 竹山広の歌

2006-07-17 22:58:15 | この一首
死の前の水わが手より飲みしこと飲ましめしことひとつかがやく 竹山広(とこしへの川)

 原爆の投下された後の広島の状態を被爆者が描いた絵を見た事がある。建物が跡形もなく崩れ、打ち重なるように死体があり、垂れ下がった皮膚の人間が、幽鬼のように立っている絵だった。竹山広の兄はこの中の一人だったのだろうか。
 極限の中、夢も、希望のかけらさえも見つけられない状態で、たった一つ、死にかけた人に手ずから水を飲ませる事が出来た。これは、水を飲んで死んでいった人にとっても、僅かながら喜びとなったであろうが、飲ませる事が出来た自分にとっても、水を飲ませる事が出来たのは喜びであり、輝くことであった。それはほんの僅かな、小さな輝きであったかもしれないが、終生忘れることの出来ない貴重な輝きであったのだ。
 今、飽食の時代と言われ、しかし、戦争前夜と酷似しているとも言われている。竹山弘の体験を、人類は再び体験してはならないと強く思う。日常の小さな輝きをすくい取るのが歌であるが、この歌の悲しみは輝きをもって私の心に突き刺さってくる。 (鎌田章子)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌集を読む会

2006-07-16 20:38:42 | 旭川歌人クラブ
「歌集を読む会」は旭川歌人クラブの西勝委員を中心に様々な歌人の歌集を読んできました。
今は齋藤史自選の不識文庫「齋藤史歌集」を読み終り、文庫判発行後に出された「風翩翻」のプリントを読んでいます。
1頁6~7首で、400頁あまりの文庫を読み切ったことになります。
齋藤史のあとはまだ決まっていませんが、一人で読むのとは違って、鑑賞が深くなるので、次回からの作者が誰になるのかとても楽しみです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かぎろひ7月歌会

2006-07-16 20:25:13 | 仲間の歌
ひびわれた心のパズル解けぬまま蛙の鳴き声聞き続ける夜           智理 北杜

真実は常にやさしき顔にあらず「千望峠」に風渡りゆく            柊 明日香

立体の虹たつ絵本見て育ちいつしか虹をくぐる夢もつ             田村 睦子

象に乗る 乗らぬと言へば象使ひと妻は行きたり決断や敏(と)き       石山 宗晏

半夏生夕陽あつめて華やげる桃色うすき石南花のはな             大田 朱美

雀ども夏の体となっており夏日近づく六月の末                幕田 直美

木々の名を当てたり鴉にこゑかけたり 日暮れの築堤ふたりで歩む       香月千代子

炎熱の昼深くして黒く大きな毛虫舗道を苦しみ歩む              西勝 洋一

讒するを頭突きに倒す仏蘭西のジダンに移民の粒粒辛苦            鎌田 章子

二米(メートル)の巻尺(スケール)いっぱいの先にある生き甲斐なども探してみるか  吉川さとる
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする