ほかほかの焼きたてパンのぬくもりを抱きて歩む氷点下二度 清水紀久子
見上げれば無駄に生きてる我のこと嘲笑うがに雲疾く流る 智理 北杜
小包を妹に送ると逸る気に凍てつく地鬼に恐れて明日に 久保田一恵
屋上の露天風呂より天空へかけ巡るごと湯煙のぼる 吉田この実
家にゐて山茶花のはなと語るときご飯ですョと声が聞える 土蔵 寛二
ただひとりの肉親となりたるわが姉の夕餉に饗せむか菜花にびたし 石山 宗晏
夜空へと祈りのランタン上げれどもLED回収の糸からまりぬ 杉本稚勢子
妻の手を引きて付き添う老夫おりわれ重ね見ゆ診察ロビーで 櫻井 若子
老熟とふ言葉いささか気になりぬ秋の果実の熟れゆく気配 安藤のどか
オーバーの袖にふんわり止まらせてじっと見つめる雪の結晶 丹呉ますみ
四人の子ビンゴゲームでたちまちに仲良くなりて個性がわかる 山田恵美子
絵はがきにそえて言の葉うたの友こころに春の花咲きそむる 金子 美恵
明らかに老いを労わることばにて落とした100円を拾いくれたり 西勝 洋一
坂道の頭上に大きくオリオン座清く月冴ゆ如月の宵 遠藤 貞子
冬まつりの観光客を旗持ちて待つ四〇〇個のミニ雪だるま 上野 節子
鬼やらう庭にこぼれし豆ならん眼光するどき鴉の糧に 神林 正惠
五十個の星の模様のカードにもキングがあればジョーカーもあり 桑原憂太郎
吹雪くとの予報あれども友とふたり観劇せむと富良野路をゆく 井上 敬子
冬まつり最後のイベント餅まきに合わせしごとボタン雪止む 白岩 常子
花の色忘れて久し五年ぶりにシンビジュウムが花芽つけおり 柊 明日香
人目ある空港選び毒殺せしかの国にふる雪の重さは 鎌田 章子
スパ神楽婿の送迎で極楽か娘と二人出で湯の気分 清水 佳子
朱鞠内の古木の襞に眠りゐる蝉の木乃伊を吹雪けば思ふ 橘 幹子