長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

西澤保彦著【リドル☆ロマンス・迷宮浪漫】

2020-08-10 20:10:01 | 本と雑誌


長身痩軀を黒いスーツに包んだ男(?)は、流暢な日本語を操る。彫りの深い顔だちのせいで、まるで外国映画を吹き替えで観ているかのような非現実感が漂う。背中まで伸ばした黒髪が新緑のような光沢を放ち、昏(くら)い光をたたえた双眸、くっきりと形のよい鼻梁、そして尖った顎が、女性のような(むしろ女性そのもの?)白い顔だちを、さらに美しく際立たせている。年齢国籍不詳。
ハーレクインと名乗ったその人物は(いや最早人間でさえないのでは?)、何でも願いを叶えてくれる“魔法使い”…そう聞いて、ここへやってきた。しかし、その噂を誰に聞いたのか、このオフィスのある高層ビルまで、どうやって辿り着いたのか、どうしても憶(おも)い出せない。
部屋の大きなピクチャアウインドウの外には高層ビルの夜景が拡がっている。燦然たるイルミネーションの前に佇立(ちょりつ)するハーレクインの美しさは、ひと際、映える。
ハーレクイン、本人は“道化役”“滑稽な”“斑(まだら)模様の蛇”「言葉自体に斑とか雑色という意味合いがあるのですよ。中世無言劇の道化役も、よく斑模様のタイツを穿いていたとか」と説明するが、もしかしてその正体は“悪魔”なのかもしれない…。

報酬はあなたの「心」。
あなたの気づかぬ「あなた」を探る。
謎の美形心理探偵(サイコ・ディテクティブ)「ハーレクイン」登場!

『トランス☆ウーマン』
神崎理恵(かんざき・りえ)は、ハーレクインに対して、「袴田浩平(はかまだ・こうへい)と一緒になりたい!」とうったえる。
本来自分と結婚するのが決まっていた彼が、伊藤美鈴(いとう・みすず)に奪われたのだというのだが…。

『イリューシン☆レィディ』
菱伊早百合(ひしい・さゆり)は、ハーレクインに対して、「わたし、高校を中退して、実際には大学へ行っていません。すぐ結婚して、子育てと家事に追われていたから。なのに、ふと自分が、高校を中退した後で大検を受け、ある女子大を卒業したんだ、と、そんな錯覚に陥ることがあるのです。自宅の中を探せば卒業証書だって見つかるはずだ…そんな妄想にかられて」。つまり時折、記憶がはっきりしないことがあると、いうのだが…。

『マティェリアル☆ガール』
油又霧絵(あぶまた・きりえ)は、自分のぶよぶよの身体を、元の身体に戻して欲しいと、ハーレクインに対して願うのだが…。

『イマジナリィ☆プライド』
撫河咲(なぶかわ・さき)は、記憶を失い、しかも播万悠有紀(はま・ゆうき)自身から同姓愛の関係にあったと告げられたのだが、自分の身体にはそんな覚えもなく戸惑っている状況を、とつとつとハーレクインに対して話すのだが…。

『アモルファス☆ドーター』
田南裕司(たなみ・ゆうじ)は、日柳幸太(ひさなぎ・こうた)を生き返らせて欲しいと、ハーレクインに対してうったえるのだが…。

『クロッシング☆ミストレス』
冠城久仁子(かむらぎ・くにこ)は、「あの時、もしも冠城ではなくて、直栄(まざかえ)クンのほうを選んでいたとしたら…」と、自己愛に浸ったような無邪気な微笑を浮かべながら独り言ちる。
「あたしの人生は、どうなっていたのかな、って」
そんなふうにハーレクインに対して話すのだが…。

『スーサィダル☆シスター』
浮里千津子(うきざと・ちづこ)は、妹の知子(ともこ)が、「自分はひとの心が読めてしまうから」という。
それというのも知子は、自殺未遂を繰り返し、その理由についてこう説明するのだと、ハーレクインに対して話すのだったが…。

『アクト☆オブ☆ウーマン』
宇出津智(うぜつ・とも)は自分に対して、工月晃(くつき・あきら)が、大切な家族を奪われた恨みを晴らそうと、虎視眈々とその機会を狙っていると思い込んでいた。
さてハーレクインは、今回はどう対処するのか…。

愛の形は色々存在する、それを白日の下にさらさせるのが、ハーレクインではないかとも思える…。
それぞれが、短編でありながら、一話一話が、すごく奥深いのが、本当に恐ろしい…。

『murderous authoress・解説に替えて、あるいは西澤さんごめんなさい』:篠田真由美
まるで、著者に対するオマージュともいえる、今まで紡がれた物語の番外編のように、短編の小説の形にした解説である…なかなか興味深い、だが本編を読む前に先読みするのはご法度で、ネタバレしているように思うから、くれぐれもご注意を(^^♪