長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

西澤保彦著【夢の迷い路】

2019-10-04 20:00:51 | 本と雑誌

表題を含む4作の連作での本格ミステリー短編集。
あるきっかけで、迫扇(さこおうぎ)学園高等部一年の同級生のエミールこと日柳永美(ひさなぎえみ)が気になって仕方がないユッキーこと柚木崎溪(ゆきさきけい)。
彼女の気を惹きたいのと、ひとりでは手に余るのとで。おそるおそる、声をかけた。
「ダイイングメッセージって判る?相談に乗ってもらえないかな、と思って」ふたりは、失われた事件の道筋を辿りなおして、真相に到達することができるのか?
記憶違いと忘却で、こんがらがった謎をほぐす。
本好きの美少女エミール&ジャンク映画フリーク男子ユッキーふたりの高校生が挑む謎とは!?
彼らがいたこと。事件が起きたこと。謎が残されたこと。決して忘れない。
事件は20世紀に起こった。時を経て、21世紀の彼女たちが驚くべき真相に辿りつく。
『ライフ・コズメティック』
〈グレンとグレンダ〉というアクセサリーの店の経営者であるヨーミンさんにユッキーが出題された。謎解きである。
助っ人を頼んでもよいっていうので、エミールに頼んだ。
そしてウイングボード・ロードにある、その店に彼女を連れていった。
ヨーミンさんはユッキーをケイちゃんと呼んでいる、そのケイちゃんは既に話を聞かされているが、エミールは何も予備知識がない白紙状態なので、ヨーミンさんに一から話してもらおうとしたのだ。
その話の内容は…。
『アリバイのワイン』
〈樺風堂書店〉に勤めていた時期、店舗が近かったこともあり、梶本さんは約十二年にわたって、ほぼ毎日〈ユモレスク〉のモーニングに通っていた。
その長いあいだ、店内で仲田有江(なかたありえ)と遭遇したのは八九年に彼女の夫、健介を含む男女三人が殺害された日と、そして九三年、彼女の夫候補だった国井大和(くにいやまと)が殺害された十月七日。その二回だけ。そして九七年、梶本さんは遭遇していないけれど、仲田有江は三番目の夫、登が殺された日の朝も〈ユモレスク〉でワインを飲んでいたと供述している。
これら一連の符号は、はたして偶然なのか?もしも偶然ではないとしたら、いったいどういうことなのか?
これこそ梶本さんの言う、この事件の最大の謎なのだ…。
『埋没のシナリオ』
二〇一一年、一月三日、行きつけの梶本さんが経営するカフェ〈ブック・ステアリング〉に出向こうとしていたユッキーだが、叔父の矢内譲(やうちゆずる)と長女奈緒と次女理友(りう)までついてきてしまった。
このカフェはエレベーターのないビルの四階にある、まるで図書館か古書店と思えるほど、書架にぎっしりと蔵書があるのが特徴。
エミールはこの本を目当てに、足繁く通っているのだ。
この店の場所を教えたのはユッキーだった。
カフェらしからぬ店の状態に、叔父や姉たちは驚くが、もっと驚いたのがエミールの登場だった。
ユッキーが変な映画のオタクとも言える、そんな人間に友達なんぞいるかと思っていたら、こんな美少女の彼女がいたという事実に…。
店にすぐ馴染み、なかなかの逸品のワインを飲みながら、叔父が奇妙な話をしだした。
その話を聞くともなしに、耳にしたエミールは、あることに気付いていた…。
『夢の迷い路』
エミールの母方の祖母である、比田井道子(ひだいみちこ)は、夫の故雅則の夢を久しぶりに見た。
それが夢とも思えぬほど、リアルだった。
何故か、ふたりしてハンバーガーをほおばっていた。
そんなファーストフードに夫と一緒に入った記憶がなかったのに…。
一方、本を目当てに祖母に家へ通うエミールが、友達を連れてくるという。
本ばっかり読んでいるちょっと変わった子、まるで友達なんていないと思っていたので驚く。
てっきり女の子と思っていたら、ユッキーがやってきたので、また驚く。
ユッキーは単に福草部照(さきくさべしょう)著の「赤い声の館」を借りにきただけであったが、道子はこの少年に妙に既視感を感じるのだった…。

実在のミステリー作家の名前が、ボンボン登場したりして、ちょっとこちらも驚いた次第であるが、ただし「赤い声の館」は架空の本である。