「君はそんな靴でトレッキングするの?」
トレッキングコースの入り口まで、私達を運んでくれるジェットボートの上で、ヨーロピアンらしき男性に指摘された。
ボートの上には、これから私達と同じコースを歩く人達が沢山いたが、みんな、アウトドア用品のお店で購入したと思われる快適そうな服を着て、足にはごっつい登山靴を履いている。バリバリの登山者達だ。
ケイさんもちゃんと山用の服を着て、トレッキングブーツを履いていた。その中で、ピッキングの仕事の時に着ていた古着屋で買った長袖シャツと綿パン、ナイキのスニーカーの私はかなり浮いていたに違いない。
しかし、トレッキングの知識が全くなかった私は、「大丈夫!この靴が一番歩きやすいんです」と、なんの疑問も持たずに笑顔でかえした。確かにその時の私は、どんな山道もスニーカーのほうが歩きやすかったし、100円カッパで何時間もずぶ濡れで歩くことになっても、ツライと思わなかったのだ。
後日、高機能防水素材“ゴアテックス”というものを知り、ゴアテックス使用のブーツ、レインスーツを使ってみて、水がしみてこない!なんて快適なの!と大感動したのだが。
さて、今回私達が歩く“オーバーランド・トラック”。夏のピーク時には、1日に100人以上が歩く、オーストラリアでは結構有名なトレッキングコースだ。
北端のクレイドル山と南端のセント・クレア湖の間を結ぶ、約80kmのコース上には、15ほどの“ハット”と呼ばれる山小屋がある。登山者達は、このハットに泊まりながら、6日から10日ほどかけて、世界遺産クレイドル・マウンテン/レイク・セント・クレア国立公園を縦断するのだ。コースの中程では、州最高峰のマウント・オッサ(1617m)に登ることができる。歩いていると野生のウォンバットに遭遇したり、夜中にタスマニアンデビルを発見することもよくあるらしい。
ケイさんと私は、セント・クレア湖を出発点とし、6日間かけて南から北へ向かうコースを歩いた(現在は、北から南へ向かうコースのみ許可されているとのこと)。1日に歩く距離は、コースによるが、だいたい3時間から5時間くらい。みな、日が昇ると起床して朝食を摂り、7時~8時くらいに山小屋を出発する。山では早く出発し、早く到着するのが基本中の基本なのだ。
山小屋は意外と快適だった。木製の長テーブルと椅子、薪ストーブがあり、そこでくつろいだり、食事を作ったりする。小屋の奥には上下2段に別れた板間あって、そこで寝袋で雑魚寝するのだが、男女関係なくびっしり並んで寝るので、豪快なイビキと素敵な香りに包まれて眠りにつくことになる。日が経つことに香りはキツくなるが、すぐ慣れた。
小屋の近くにはトイレも設置してあって、なかにはびっくりするほど綺麗なトイレもある。ボットンだけど、木くずみたいなのをふりかけるようになっていて、全然クサくなかった。すごい所もあったけどね…。
夜は暗くなる前に、携帯コンロでインスタントのパスタなど簡単な食事を作り、日が暮れると、各々ロウソクに火をつけ、本を読んだり、日記を書いたり、トランプをしたりして過ごす。なかにはワインで晩酌してる人もいて、ちょっとうらやましかった。
HUT (山小屋) の中はこんな感じ。
ところで、トレッキングの経験があると言っていたケイさんだが…。
ケイさんはちょっと歩くとすぐバテた。私はケイさんのスローペースに合わせて歩くことになる。更に荷物も体力のある私の方を重くした。自分のペースで歩けない上、荷物が重くなったので大変ツライ。
疲れが出始めた3日目、ちょっとしたもめ事があった。思い出すと情けないが、チョコレートのことでケンカしそうになったのだ。
ケイさんは「わたしはあんまり食べないから、食料減らして荷物を軽くしたい」と言って、持ってくる食料を減らしたのに、「なんでこんなにおなかが空くんだろう?」と初日からおやつもごはんもよく食べた。
3日めの山小屋に到着し、くつろいでいたら、「チョコレート、これだけしかないの?もっとあるよね?」とケイさんが聞いてきた。チョコレートは食料担当のは私が持っていて、休憩の時に2人で分け合って食べていた。予定よりケイさんが食べるので、私は最後まで保つか心配になり、その日は自分の食べる量を少なめにしていた。
「もうこれだけしかないよ。毎日食べてるでしょ。」
「え~!そんなに食べてないよ。かちゃらちゃん、食べたでしょ!」
「・・・・・」
体力的にも精神的にもかなり疲れていた私は、爆発しそうになった。なんとか我慢して、1日めのあの時食べて、2日めのあの時食べて、と詳しく説明したが、ケイさんは納得していない様子。私もそれ以上話をするとやばかったので、ケイさんから離れて怒りを沈めた。2人ともチョコレートの話はそれ以上しなかった。
この苦い経験から、私は山に行く時は、クッキーやらチョコレートやら必要以上におやつを持って行くようになった。いい大人がチョコレートでケンカしそうになるなんて。ああ、恥ずかしい。ケンカしなくてよかった。
目次
トレッキングコースの入り口まで、私達を運んでくれるジェットボートの上で、ヨーロピアンらしき男性に指摘された。
ボートの上には、これから私達と同じコースを歩く人達が沢山いたが、みんな、アウトドア用品のお店で購入したと思われる快適そうな服を着て、足にはごっつい登山靴を履いている。バリバリの登山者達だ。
ケイさんもちゃんと山用の服を着て、トレッキングブーツを履いていた。その中で、ピッキングの仕事の時に着ていた古着屋で買った長袖シャツと綿パン、ナイキのスニーカーの私はかなり浮いていたに違いない。
しかし、トレッキングの知識が全くなかった私は、「大丈夫!この靴が一番歩きやすいんです」と、なんの疑問も持たずに笑顔でかえした。確かにその時の私は、どんな山道もスニーカーのほうが歩きやすかったし、100円カッパで何時間もずぶ濡れで歩くことになっても、ツライと思わなかったのだ。
後日、高機能防水素材“ゴアテックス”というものを知り、ゴアテックス使用のブーツ、レインスーツを使ってみて、水がしみてこない!なんて快適なの!と大感動したのだが。
さて、今回私達が歩く“オーバーランド・トラック”。夏のピーク時には、1日に100人以上が歩く、オーストラリアでは結構有名なトレッキングコースだ。
北端のクレイドル山と南端のセント・クレア湖の間を結ぶ、約80kmのコース上には、15ほどの“ハット”と呼ばれる山小屋がある。登山者達は、このハットに泊まりながら、6日から10日ほどかけて、世界遺産クレイドル・マウンテン/レイク・セント・クレア国立公園を縦断するのだ。コースの中程では、州最高峰のマウント・オッサ(1617m)に登ることができる。歩いていると野生のウォンバットに遭遇したり、夜中にタスマニアンデビルを発見することもよくあるらしい。
ケイさんと私は、セント・クレア湖を出発点とし、6日間かけて南から北へ向かうコースを歩いた(現在は、北から南へ向かうコースのみ許可されているとのこと)。1日に歩く距離は、コースによるが、だいたい3時間から5時間くらい。みな、日が昇ると起床して朝食を摂り、7時~8時くらいに山小屋を出発する。山では早く出発し、早く到着するのが基本中の基本なのだ。
山小屋は意外と快適だった。木製の長テーブルと椅子、薪ストーブがあり、そこでくつろいだり、食事を作ったりする。小屋の奥には上下2段に別れた板間あって、そこで寝袋で雑魚寝するのだが、男女関係なくびっしり並んで寝るので、豪快なイビキと素敵な香りに包まれて眠りにつくことになる。日が経つことに香りはキツくなるが、すぐ慣れた。
小屋の近くにはトイレも設置してあって、なかにはびっくりするほど綺麗なトイレもある。ボットンだけど、木くずみたいなのをふりかけるようになっていて、全然クサくなかった。すごい所もあったけどね…。
夜は暗くなる前に、携帯コンロでインスタントのパスタなど簡単な食事を作り、日が暮れると、各々ロウソクに火をつけ、本を読んだり、日記を書いたり、トランプをしたりして過ごす。なかにはワインで晩酌してる人もいて、ちょっとうらやましかった。
HUT (山小屋) の中はこんな感じ。
ところで、トレッキングの経験があると言っていたケイさんだが…。
ケイさんはちょっと歩くとすぐバテた。私はケイさんのスローペースに合わせて歩くことになる。更に荷物も体力のある私の方を重くした。自分のペースで歩けない上、荷物が重くなったので大変ツライ。
疲れが出始めた3日目、ちょっとしたもめ事があった。思い出すと情けないが、チョコレートのことでケンカしそうになったのだ。
ケイさんは「わたしはあんまり食べないから、食料減らして荷物を軽くしたい」と言って、持ってくる食料を減らしたのに、「なんでこんなにおなかが空くんだろう?」と初日からおやつもごはんもよく食べた。
3日めの山小屋に到着し、くつろいでいたら、「チョコレート、これだけしかないの?もっとあるよね?」とケイさんが聞いてきた。チョコレートは食料担当のは私が持っていて、休憩の時に2人で分け合って食べていた。予定よりケイさんが食べるので、私は最後まで保つか心配になり、その日は自分の食べる量を少なめにしていた。
「もうこれだけしかないよ。毎日食べてるでしょ。」
「え~!そんなに食べてないよ。かちゃらちゃん、食べたでしょ!」
「・・・・・」
体力的にも精神的にもかなり疲れていた私は、爆発しそうになった。なんとか我慢して、1日めのあの時食べて、2日めのあの時食べて、と詳しく説明したが、ケイさんは納得していない様子。私もそれ以上話をするとやばかったので、ケイさんから離れて怒りを沈めた。2人ともチョコレートの話はそれ以上しなかった。
この苦い経験から、私は山に行く時は、クッキーやらチョコレートやら必要以上におやつを持って行くようになった。いい大人がチョコレートでケンカしそうになるなんて。ああ、恥ずかしい。ケンカしなくてよかった。
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