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2015年4月10日、株式会社文藝春秋は、同年5月号の月刊誌「文藝春秋」において、少年の実名等及び被害者の実名については黒塗り等がされているものの、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年審判決定書の全文を公表しました。
これに対し、神戸家庭裁判所は、同日、決定書を提供した元裁判官と文藝春秋に対して、裁判官の守秘義務に違反する等抗議を行ったのです。
この神戸児童連続殺傷事件(須磨事件 俗にいう酒鬼薔薇事件)は、私がまだ東京弁護士会にいたころの事件なので、直接には知りません。
しかし、関西学院大学ロースクールで少年法を教えていた時には、この事件の弁護団長野口善國先生(兵庫県弁護士会)と担当判事だった井垣康弘弁護士(大阪弁護士会)には何度もゲストスピーカーに来ていただき、おふたりの会談という夢の競演も実現したことがあったので、今回のニュースにはあ然としました。
まさか、井垣さんがこんなことをするとは想像だにしていなかったのです。
少年裁判官ノオト | |
井垣康弘著 | |
日本評論社 |
神戸児童殺傷事件 決定文掲載に家裁抗議
4月10日 18時18分 NHK
18年前、神戸市で小学生連続殺傷事件を起こした少年に対する少年審判の決定文の全文が10日に発売された月刊誌に掲載され、神戸家庭裁判所は、決定文を提供した元裁判官に対し、「守秘義務に反する行為で、事件関係者に多大な苦痛を与えかねない」として抗議しました。
平成9年に神戸市で小学生連続殺傷事件を起こした当時中学3年生の少年を医療少年院に送ることを決めた神戸家庭裁判所の少年審判の決定文の全文が、10日に発売された月刊誌「文藝春秋」5月号に掲載されました。
全文は、この少年審判を担当した井垣康弘元裁判官から提供を受けた共同通信の編集委員が寄稿する形で掲載され、少年の詳細な成育過程など、当時裁判所が公表した決定文の要旨には記されていない内容が含まれています。
これを受け、神戸家庭裁判所は井垣元裁判官に対し、
「裁判官が退職したあとも負う守秘義務に反する行為だ。少年法で非公開とされている少年審判に対する信頼を著しく損ねるうえ、事件関係者にも多大な苦痛を与えかねないもので遺憾だ」
とする抗議文を送りました。また、文藝春秋と共同通信の編集委員に対しても書面で抗議しました。
これについて井垣元裁判官はNHKの取材に対し、
「社会に問題を投げかける意味で、決定全文の公表に踏み切った。当時、裁判所 が公表した要旨では、少年が『重大な事件を起こした子』ということは分かるが、どういう育ち方をして事件に至ったのかというプロセスの部分、成育歴の部分だけぽっかり抜け落ちているため、少年という人間に対する理解が社会的には不十分なままで捉えられていると思う。成育歴の部分も読んで理解を深めてもらいたい。家庭裁判所の批判は全く当たらないと思っている」
と話しています。
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井垣康弘 毛利甚八 | |
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一方、「文藝春秋」編集部は、
「神戸の事件は今も続く重大な少年事件の原点であり、全貌を知ることで社会がくみ取れる教訓が多いと考え、全文を掲載しました」
というコメントを出しました。
また、共同通信は、
「被害者感情や少年が社会復帰していることなどに配慮し、共同通信では決定全文の内容を報じていません。編集委員が寄稿する形で掲載された詳しい経緯など、事実関係を調査中です」
というコメントを出しました。
遺族「興味本位で見られることになり大変辛い」
事件で当時、小学6年生だった息子の淳くん(11歳)を殺害された土師守さん(59)は、「18年もたった今になって全文を公開して意味がある のか疑問に感じます。雑誌に掲載されることで、不特定多数の人に興味本位で見られることになり、遺族としては大変辛いです」と話しています。
裁判所の窓から | |
井垣康弘 井上二郎 | |
花伝社 |
私は少年事件を考える研究者などのメーリングリストに参加しており、そこにはこの件に出てくる共同通信の担当者も入っておられます。
彼は
「まず読んでから批判してほしい」
と何度も繰り返しており、この文藝春秋の記事は決定文だけではなく、いろいろとその他の取材に基づく記述もあるみたいです。
だから読んでいなくて批判するのは気の毒かもしれませんが、少年事件命で弁護士活動をしてきた身としては、この号を買うどころか、どうしても手に取る気がしないのです。
なにより、またプライバシーを侵害される遺族の方々が
「18年もたった今になって全文を公開して意味がある のか疑問に感じます。雑誌に掲載されることで、不特定多数の人に興味本位で見られることになり、遺族としては大変辛いです」
とおっしゃっている時点で、もう蛮行としか言いようがありません。
この決定文を文春に渡してしまったのであろう井垣元裁判官は
まず、NHKの取材に対し、
「社会に問題を投げかける意味で、決定全文の公表に踏み切った。当時、裁判所 が公表した要旨では、少年が『重大な事件を起こした子』ということは分かるが、どういう育ち方をして事件に至ったのかというプロセスの部分、成育歴の部分だけぽっかり抜け落ちているため、少年という人間に対する理解が社会的には不十分なままで捉えられていると思う。成育歴の部分も読んで理解を深めてもらい たい。家庭裁判所の批判は全く当たらないと思っている」
と述べています。
他のマスメディアの報道を見ると
毎日新聞
井垣弁護士は取材に「決定時、全文公表を家裁所長にお願いしていた。要旨が公表された以上、守秘義務違反には当たらない。少年の償いについて具体的な提案を考えており、成育歴も含めて社会に知ってもらい、支えてほしいと思った」と話した。
時事通信
神戸家裁の裁判官として決定を出し、公表に関わった井垣康弘弁護士は「公表される全文でも加害男性の名前は出ていない。少年法には触れない」と説明。「要旨では男性の成育歴が大きくカットされた。事件の特殊性や、その後も重大な少年事件が相次いでいることにかんがみ、全文を国民に読んでもらうべきだ」と話した。
神戸新聞
井垣弁護士は「事件を理解する上では、決定要旨で省かれた加害男性の生育歴について、正しい情報を共有することが必要。少年法と照らしても、公開は特に問題はないと考えている」と話した。
毎日放送
こんなふうに子育てしていれば、事件を防ぐことができたかもしれない、という気づきをもたらすことができる。
少年は既に更生しているため、少年法には抵触しない。
といろいろコメントしています。
しかし、どれもこれも、全く説得力を感じません。
歌を忘れたカナリヤたち-子どもは必ず立ち直る | |
野口善國 | |
共同通信社 |
共同通信は子どもの事件に関して、こういういい本も出しているのですが。
井垣さんがおっしゃりたいことは、
『自分が決定を言い渡したときにも自分が書いた決定文全文を公表したかったが最高裁は決定要旨しか公表しなかった。
むしろ決定要旨に書かれていない部分に、犯行に及んだA少年の成育史や犯行に至る心情が書いてあるのであり、そこを国民が知ることで二度と同じような事件が起きないための教訓が汲み取れる』
ということだと思います。
確かにそうかもしれませんが、少年や関係者保護のために、少年法では特に特にプライバシー保護が重視されます。我々担当付添人弁護士でさえ、コピーできない社会記録と呼ばれる部分が膨大にあるのです。
ですから、通常事件の判決文と違い、少年事件では決定要旨が公表されることさえ稀です。
なのに、決定全文を一般雑誌に発表してしまうなんて。
親をせめるな―わが子の非行に悩む親たち、親を応援する人たちへのエール | |
野口善國 | |
教育史料出版会 |
事件が起きるととかく過剰に責められてしまう「加害者側の親」にも寄り添った名著。
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