東京でカラヴァッジョ 日記

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《物語るテーブルランナー》 - 「鴻池朋子 ちゅうがえり」展(アーティゾン美術館)

2020年07月13日 | 展覧会(現代美術)
ジャム・セッション  石橋財団コレクション×鴻池朋子
鴻池朋子   ちゅうがえり
2020年6月23日〜10月25日
アーティゾン美術館
 
 
   動物の毛皮や滑り台、襖絵や陰絵、映像、湖ジオラマ、絵画・鉛筆画など多様な作品が展示されるなか、私がはまったのは。
 
 
刺しては縫うものがたり
「物語るテーブルランナー」プロジェクト
 
   様々な人から聴き取った個人的な物語を、作家が下絵を描き起こし、その下絵を型紙として、語った本人が、手芸でランチョンマット大の作品を制作する。制作ができない方の場合は、誰か他の方が縫う。そして出来上がったものを一堂にテーブルに並べ、長い長い物語のテーブルランナーになる。
 
   作家は話を聞き、想像し、本人に確認してはまた調べ、具体的な形がわからない時には、適当にいい加減に、とにかく下絵を描く。
 
   その下絵をもとに、皆さんはお弁当を持って集まり、テーブルを介して縫い方を教え合い、材料を交換し、縫えない人の物語は他の方がつくり賑やかに制作し、また家に帰って独りになって制作することも重要。
 
   そうして様々な感情を持っていた「語り」が縫い合わせられ、目の前に「物」となっていきいきと現れてくる。
 
   展示作品は、秋田県阿仁合、石川県珠洲、瀬戸内、タスマニア、フィンランド・ヤルヴェンパーの5地のもの。各作品に「物語カード」が用意されている。
 
 
 
 
お供する石橋財団コレクションは。
シスレー
《森へ行く女たち》
1866年、65.2×92.2cm
 
 
 
   多数展示されるなか、真っ先に目に付いたのが、馬を取り囲む人々のもの。
   神田日勝展で観た作品からの連想で、飼っていた農耕馬が亡くなって悲しんでいる光景かと思ったら。
 
馬肉にまつわる物語
 
   阿仁合には、病気や大怪我により「用立たず」になった炭鉱夫を生きたまま捨てる山があった。その山には死んだ動物も投げ込まれていたが、ある日骨を折って立ち上がれなくなった暴れ馬が投げ捨てられ、死にかけていた炭鉱夫たちが食べたところ、見る見るうちに元気になった。それから阿仁合では馬肉が食べられるようになったという話。
 
 
 
   昭和30年代に小学校時代を過ごした方の思い出。
   当時のその地の学校給食では、その日に使う野菜を各児童の家庭から当番制で持ち寄ることとなっていたそうである。
 
 
 
   ある人のおじいちゃんの思い出。
   家族みんな外出して、一人留守番していたおじいちゃん。暗くなってから、戸口を叩く音に開いてみると、見知らぬ若い女性がひとり立っていてびっくり。
   彼女が話すには、山歩き中に道に迷ってしまって、ようやく下山できたところ、しばらく休ませて欲しいとのこと。
   どうぞ、とおじいちゃんが答えると、若い女性は後ろを振り返って、みんな大丈夫よ、と言う。沢山の子供たちがぞろぞろと入ってくる。二度びっくりという笑い話。
 
 
 
   近年の話もある。
   東日本大震災に、当時働いていた南三陸で遭遇した女性。
   勤務先であるパチンコ店に車で向かう途中に地震に遭う。店に到着すると従業員も客もいない。それどころか町にも人っこ一人いない。本社に電話しても携帯が繋がらない。何故?どうしよう?と戸惑っていたところ、一人の消防士が現れる。「早く帰れ!すぐにここから逃げろ!」。消防士の背後に見える海には、白い1本の線のような波。それは津波の予兆の波の姿であることを後に知る。北海道の内陸出身の彼女は、「津波てんでんこ」を知らなかった。消防士さんのおかげで自分は助かったが、消防士さんは無事だったのだろうかと今でも思う。
 
 
 
   フィンランドの物語は、無性に悲しい。
 
   母親のことを思うとやるせない。
   不条理なことだらけの世界下、人類は続いてきた。


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