荒海に炎、不審船と命懸け対戦…船長ら証言
赤外線カメラがとらえた巡視船「みずき」からの威嚇射撃を受ける不審船(22日午後4時58分)=海上保安庁提供
目前で白いせん光が走った瞬間、船体の一部がはじけ飛び、海上保安官の警備出動服が血で染まる――。鹿児島県・奄美大島沖の東シナ海で、不審船と銃撃戦を演じた海上保安庁の巡視船4隻の船長が24日、鹿児島市の第10管区海上保安本部で緊迫の4分間を語った。荒れた漆黒の海上に響く金属音と怒号、船上を越えて飛ぶロケット弾。指揮官たちは部下を気遣いながら、命懸けで不審船に立ち向かった。
■挟撃
風速13メートルを超える強風、横殴りの雨。黒い海が激しくうねっていた。不審船は波間に漂っていた。
「あまみ」の久留主(くるす)真佐夫船長(53)は右後方20度からの接近を指示。数メートルまで近付いた時、ブリッジ上に1人、その後方に肩から赤い毛布を掛けた2人が見えた。1人はたばこを吸っている。
左後方から「きりしま」が距離を詰め、ほぼ平行に2メートルまで接近。堤正己船長(48)はブリッジ後方の3人を確認した。
「あまみ」では甲板前部に20ミリ機関砲の射撃手ら3人、ブリッジに15人を配置。「きりしま」では甲板上に身を隠した8人、ブリッジに7人が配備された。不審船捕そくのため、接舷を試みる。保安官たちの顔は、緊張でこわばっていた。
■不審船反撃
「かがめ!」。22日午後10時9分、操舵(そうだ)室にいた久留主船長の声が響いた。周りの保安官らも「伏せろ!」と大声で叫び、一斉にしゃがみ込んでいた。
「ダダダダッ」。連続した金属音。操船指示をしていた久留主船長が壁に張り付く。保安官の1人が、不審船ブリッジにいた男が手を上げて合図をしたのを見た。たばこを吸っていた男が銃を構えて、撃ち出した。
「負傷者はいないか」と久留主船長。「2人がやられました」と乗組員。
操舵室で、かじをとっていた長友良治航海士(54)、その右横に座っていた金城良武航海長(49)だった。警備出動服が血に染まった2人は別の船室に運び込まれた。
不審船の銃撃は約1分間続いた。白いせん光がやみに走り、「パン、パン、パン」「プシュッ、プシュッ」。発射音と弾丸が船体にめり込む音が繰り返された。「4、5メートルの距離からダダーッと撃って、少し間があってまたダダーッと撃ってきた」
「全速後進」。操舵の保安官が頭を下げたまま、操舵レバーを後ろに引いた。後退しながらブリッジの射撃手が64式自動小銃を不審船に1度発射した。
■応射
「あまみ」「きりしま」が後退し、不審船から離れる。「きりしま」の左前方にいた「いなさ」が20ミリ機関砲で応射を始めた。不審船の後尾に次々に命中する。
その時、「いなさ」の石丸昭船長(53)は、不審船から発射される赤い炎を見た。
「(ロケット弾が)本船の右舷上空を飛んでいった。他の乗組員も確認した。私が見たのは一発。音は聞こえなかった」
直後の「きりしま」操舵室。「爆破、爆破」と赤外線監視装置で監視していた保安官がもらした。「何だ」と堤船長が聞き返す。
「何かが爆破しているような感じがします」
午後10時13分、不審船が暗い海に消えていった。「あっという間だった」と堤船長。
その後、沈没現場に到着した「みずき」の堀井和也船長(36)は、「赤外線で捜索したが、何も見つからなかった」と語った。
翌23日朝、「きりしま」など2隻が不審船の男性乗組員2人の遺体を収容した。堤船長は、うち1遺体について、「身長1・7メートルで東洋系の顔をし、鍛え上げられた体だった」と語った。
(12月25日01:56)
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「みずき」も「いなさ」も、いつのまにか20mmバルカン砲を装備していた。つい最近の「世界の艦船」で紹介されていた写真では12.7mm機銃であったから、ここ1年で更新していたのだろう。この20mmバルカン砲は、「しきしま」が装備しているものと同種のようで、キャビンの中ら遠隔操作し、目標の自動追尾も可能のようだ。
「しきしま」に装備されているのを見たときは、同クラスの海自の護衛艦の砲に比べてとても貧弱に思えたものだが、実際の結果を見せられると、その能力、20mmの口径の威力もさることながら、キャビンからモニターを見ながら操作できると言うことと、目標をマークすると自動追尾可能と言うことに感心した。30ノットどころか20ノットの速度でさへ、波を切りながら進む船からの射撃は、よほど慣れていないと上手く行くはずは無い。
10年ほど前になるが、仕事で淡路島に通っていたことがある。神戸の元町より船に乗り洲本まで行っていた。その時使っていた船が高速艇と呼ばれるボートで、外観は昔の魚雷艇だろうか。運行速度は20ノット程度だったと思うが、その乗り心地には何度乗っても最後まで慣れなかった。一度、台風が来る直前に乗ったことがあったが、大阪湾で運休しない状態であったから、たいした波でもなかったはずだが、普通に座っているのも苦しく、あの時は最初から最後まで長椅子に寝そべっていた。
今回の東シナ海はニュース映像で見るとかなり荒れており、あの時の大阪湾の比ではなかった。その揺れる甲板上で目測手撃ちはプロならやれるはずとは言え、楽で精度の高い装備を使えることに越したことは無い。
3年ほど前、神戸港に入港した海保の練習船「こじま」に乗ったおり、立ち会ってくださった隊員に銃器の訓練について訊いたことがある。その時の回答では、「海保には砲術仕官に相当する者はいないので、皆、銃器の訓練をする。実戦があった場合は、その時に手が空いている者が担当する。」ということだった。海保には、職制として「航海」「機関」「通信」しかないということだ。
今回の巡視船は「警備強化巡視船」と呼ばれるものだろう。であればあの機関砲を扱った隊員が、手の空いていた者とは考えられないが、あの結果を可能にしたのは、この装備にあると思う。使いやすいシンプルな構造に思える。
同じ時、配属先についてどの程度自由度があるのかも訊ねた。「地域についてはある程度考慮してくれるが、希望どおりには行かない。どちらかと言えば漁業監視、密輸監視か水路部かと言うような希望、北(北海道)へ行くか南(九州・沖縄)へ行くかと言う希望の方が優先される。」と言う回答だったように思う。
今回の東シナ海で活躍した船に乗船していた隊員は志願・選抜された隊員であり、 単に順送りの人事の結果としてあの場にいたわけではないのだ。士気が高く、後のインタビューでも言葉に迷いが無いわけだ。
洗練された道具と士気と練度の高い人との組み合わせで、今回の結果が出たのだと思う。
海保は、現在770トンクラスの新しい型の船を建造中で、それにはより遠隔射撃(射程7km)が可能な35mm機関砲を装備するそうだ。たぶん「しきしま」に装備されているスイスのエリコン社製のものであろう。「しきしま」はプルトニウム運搬船の護衛用に建造されたが、一度使われたきりで、運用実績は芳しくない。が、これを配備する際に特殊部隊のSST(平成8年)の元になる部隊(平成4年)が編成されたことや、遠隔操作可能な20mm機関砲、35mm機関砲のテストヘッドとして充分もとはとったような気がする。