このトピックでは第1章の(1)について原稿作成を進めます。
原稿執筆に要する資料は、別トピック【資料編】のコメント欄に投稿されました。
情報収集にご尽力くださった方々に深謝申し上げます。
この節の原稿を、コメント欄に投稿いただく形で進めたいと思います。
<第1章>秋篠宮を皇嗣とする「退位特例法」の問題点
1「退位特例法」の不可解な成立過程を追う
(1) 突然報じられた「秋篠宮を皇太子待遇に」
(2) 有識者会議の招集と進行
(3) タブーとされた「女性天皇」という言葉
(4)「皇位継承は論じない」という方針
2 「皇嗣」を成立させた背景を掘り下げる
(1)皇室外:安倍政権を牛耳る日本会議が続けてきた女性天皇反対運動。
(2)皇室内:2013年「新潮スクープ」が教える皇室の思惑
(皇太子殿下早期退位→悠仁親王即位へ)。
野田政権時は「内親王限定の女性宮家」も求めていた。
(3)メディアとネット:秋篠宮天皇論、秋篠宮摂政論、
皇太子殿下に退位や廃太子を迫る一連の動き。
3 陛下が望んだ「生前退位」の違憲性
(1)NHKスクープから「おことば」への流れ
(2)NHKにスクープしたのは秋篠宮
(3)摂政拒否、恒久法希望、女性宮家希望、上皇の呼称、大金を要する住居修繕
(4)違憲性を危惧した人々(有識者)の言論紹介
4 愛子さま立太子を阻む「退位特例法」の違憲性
(1)「大日本帝国憲法」成立過程にみる「女性天皇」排除の論理
(2)「日本国憲法」成立過程にみる「女性天皇」排除の論理
(3)「退位特例法」の違憲性
この節の原稿執筆は、anima meaさまが引き受けてくださいました。
オープンな場で原稿作成を進める形は新しい試みとなります。
追加情報やご意見など頂ければ幸いです。
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<第1章>秋篠宮を皇嗣とする「退位特例法」の問題点
1「退位特例法」の不可解な成立過程を追う
(1) 突然報じられた「秋篠宮を皇太子待遇に」
(2) 有識者会議の招集と進行
(3) タブーとされた「女性天皇」という言葉
(4)「皇位継承は論じない」という方針
2 「皇嗣」を成立させた背景を掘り下げる
(1)皇室外:安倍政権を牛耳る日本会議が続けてきた女性天皇反対運動。
(2)皇室内:2013年「新潮スクープ」が教える皇室の思惑
(皇太子殿下早期退位→悠仁親王即位へ)。
野田政権時は「内親王限定の女性宮家」も求めていた。
(3)メディアとネット:秋篠宮天皇論、秋篠宮摂政論、
皇太子殿下に退位や廃太子を迫る一連の動き。
3 陛下が望んだ「生前退位」の違憲性
(1)NHKスクープから「おことば」への流れ
(2)NHKにスクープしたのは秋篠宮
(3)摂政拒否、恒久法希望、女性宮家希望、上皇の呼称、大金を要する住居修繕
(4)違憲性を危惧した人々(有識者)の言論紹介
4 愛子さま立太子を阻む「退位特例法」の違憲性
(1)「大日本帝国憲法」成立過程にみる「女性天皇」排除の論理
(2)「日本国憲法」成立過程にみる「女性天皇」排除の論理
(3)「退位特例法」の違憲性
この節の原稿執筆は、anima meaさまが引き受けてくださいました。
オープンな場で原稿作成を進める形は新しい試みとなります。
追加情報やご意見など頂ければ幸いです。
平成28(2016)年7月13日、NHKにて、明仁天皇陛下が生前退位をご希望されているというスクープ報道がなされた。それに伴い同年8月8日、陛下は全国民に向け「おことば」を述べられ、同年10月17日より陛下の公務負担軽減等を話し合うための有識者会議が開かれ、平成29(2017)年6月9日に「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」(以下「退位特例法」)が成立した。
ところが、この特例法には様々な「違和感」がつきまとう結果となった。
当初は陛下のご高齢に配慮して公務負担軽減や生前退位等のみが議論されると思われたが、途中から秋篠宮殿下の待遇についても突然議題に掲げられ、国民による十分な議論を経ないまま秋篠宮殿下を「皇嗣」とする内容も法案に盛り込まれることとなった。そして矢継ぎ早に、秋篠宮殿下の「立皇嗣の礼」が国事行為として2020年4月19日に行われることまで早々に決定されてしまったのだ。
その一方で女性天皇・女系天皇に関する議題はほとんど俎上に上げられることなく、次代で唯一の天皇直系長子となられる敬宮愛子内親王殿下の待遇についてはほぼ触れられないまま現在に至っている。
そして平成最後の年の瀬も近づく中、秋篠宮殿下はご自身のお誕生日会見で大嘗祭に公金を支出することに対し公然と異議を唱えられ、宮内庁、官邸、そして国民を巻き込む形で物議を醸すこととなった。
そして徳仁天皇陛下の即位の礼に関してばかり「簡素化・予算削減」が協調される不可解さ。
平成が終わろうとしている中、一体、皇室の中で何が起きているのか。
実はこれらの問題は、昨日今日突然起こったことではない。十数年前からその「予兆」が十分にあったのである。
本書では、「退位特例法」の不可解な成立過程を改めて振り返るとともに、平成の30年間、皇室内外で何が行われてきたか、様々な国民が長期にわたって見つめてきた「事実」を、ここに提示させていただきたいと思う。
そこには驚くべきこと、信じ難いことが厳然として横たわっていることがお分かりになるであろう。
(以上)
一 退位特例法の不可解な成立過程を追う
1 突然報じられた「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」
◆元旦早々のショッキングな読売記事
平成29(2017)年1月元旦。穏やかな気持ちで新年を迎えようという中で、ショッキングな記事が目に飛び込んできた。読売新聞朝刊に、秋篠宮殿下を「皇太子待遇」とする方針を固めたという記事がでかでかと掲載されていたのである。他の全国紙には見当たらない読売新聞単独の記事だ。
この読売新聞の記事タイトルと冒頭の文章は次の通りである。
タイトル:秋篠宮さま「皇太子」待遇 「退位」特例法案 関連法を一括で
記事冒頭:政府は天皇陛下の退位を実現するため、一代限りの特例法案を1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。特例法案は皇室典範と皇室経済法や宮内庁法など関連法の特例を一括したものとする。皇位継承順位が1位となる秋篠宮さまを「皇太子」待遇とし、退位した天皇の呼称は「上皇」(太上天皇)とする方向だ。
一体これはどういうことなのか。あまりにも急な話ではないか。
「次の御代には、即位したお父上・徳仁陛下の跡を継いで敬宮愛子内親王殿下が皇太子になるのでは」と漠然と考えていた国民は、元旦早々目をむくことになったのではないか。
なぜ、国民的議論を経ないまま、いきなり「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」という方向へ舵が切られてしまったのか?
◆「週刊新潮」が暴く読売報道の「裏事情」
実は、この突然の報道の「背景」について暴露したと思われる週刊誌記事が、後日世に出されている。
同年正月明けに出た「週刊新潮」2017年1月12日号は、「陛下を怖れる『安倍官邸』の対策が『秋篠宮さまを皇太子待遇に』することだった」と、その裏事情を説明している。
この記事のタイトルとリード文は次の通り。
「週刊新潮」2017年1月12日号:ワイド特集 年を跨いだ無理難題
タイトル:秋篠宮さまを皇太子待遇に 天皇陛下を怖れる安倍官邸
リード :<秋篠宮さま「皇太子」待遇>。温めてきたネタで各紙が勝負する元日の紙面。読売新聞の1面に躍ったのはそんな見出しだったが、識者によると、それを実現するためのハードルは決して低くないという。それでもその難題に取り組まんとする背景に見え隠れするのは、天皇陛下を怖れる「安倍官邸」の思惑だ。
記事本文では、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)において、「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」という話は全く出ていなかったことが明かされている。同会議の座長代理である御厨貴氏は困惑顔で「今回のような話は、有識者会議の中では1回も議論されたことがない」と語ったというのだ。
有識者会議はもともと「天皇の公務の負担軽減」に論点を絞って議論を重ねる予定でおり、「皇位継承については検討対象外」としていた(有識者会議の議題と進行過程については後で詳細を述べる)。「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」とはまさに皇位継承そのものに及ぶ話であるから、一度も議論していなかったのは当然だろう。しかし、その一度も議論していなかった話が、座長代理も知らない間に、元旦の新聞でリークされてしまったのだ。
新潮の記事は、「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」の実現は法的にも問題があることを皇室評論家に語らせている。
「皇室典範では、皇室にとって重要な事柄に関しては皇室会議を開かなければならない、と決められている。秋篠宮さまを皇太子待遇とすることは“皇族の身分の変更”に該当しますが、皇室会議の審議事項には“皇族の身分の離脱”はあっても“身分の変更”はない。皇室会議の審議事項にすら入っていないようなことを、特例法案で通すのは、法的な整合性がつかない」。
ではなぜ、このような有識者会議でも検討されておらず、法的整合性もつかないような無謀な話が、元旦の全国紙にでかでかと掲載されたのか。この疑問については「政治部デスク」が登場し説明している。所属か明記されていないが、文脈上、読売新聞の政治部デスク以外にはありえない。
◆官邸が内々に検討し、有識者会議には諮らず、全国紙にリーク
読売新聞政治部デスクによると、官邸は「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」の実現が難しいことを重々承知しながら、諦めず検討してきたという。有識者会議に諮れば、法的整合性の問題などが学者たちに指摘され、国民にも知れ渡ってしまう。それを恐れたのか、決して公的な場で話し合うことはなく内々に検討を続け、「方針を固めた」。そして、最も購読者が多い読売新聞にリークし、最もインパクトが強いであろう元旦に報じさせた。有識者会議の存在は完全に無視されたわけだが、なぜこのことが問題にならなかったのか。
そもそも有識者会議は、法案検討のために、安倍晋三内閣総理大臣の私的諮問機関として別途設けられたものである。いくら総理大臣の私的諮問機関といえども、その有識者会議に諮らず、官邸が勝手に方針を決めてしまっていいのだろうか。それも「皇位継承」という大問題について。
さらに、これを官邸からリークされた読売新聞が、そうした官邸のふるまいを何ら問題視せず、ひたすら官邸の広報道具となって元旦の紙面を供したことは、大新聞の良識に照らして許されることなのか。
読売新聞政治部デスクは、そうしたメディアの矜持については素知らぬ顔で、ただ官邸の裏事情を説明する。その「事情」は驚くべきものだ。
「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」という無謀な話を内々に決めざるをえなかったのは、「天皇陛下に対する“怖れ”」が官邸にあるためというのだ。
(後編に続きます)
◆官邸が怖れた明仁陛下の「おことば」
読売新聞政治部デスクの説明はこうだ。
退位について、明仁陛下は一代限りの特例法ではなく恒久的な法制度を望んでおられる。しかし、官邸は恒久法ではなく特例法でいきたい。この陛下と官邸の綱引きは、明仁陛下が国民に向かって訴えることがあれば、世論が一斉に恒久法にせよと雪崩をうつことは明らかだった。当時の世論調査でも、恒久法を支持する人が過半数を超えていた(※1)。
(※1)日テレが2016年8月19~21日に行った電話調査では、「今回一代限りの制度がよい」との回答が13.4%、「見直す必要はない」との回答が3.9%だったのに対し、「将来にわたって生前退位を認めるよう法改正で対応すべき」との回答は77.0%だった。
朝日新聞が2017年1月14、15日に実施した調査で「今の天皇陛下だけが退位できるようにする」「今後のすべての天皇も退位できるようにする」「天皇は退位すべきではない」を聞いたところ、回答はそれぞれ25%、62%、6%だった。
官邸は、明仁陛下が「おことば」を発する機会がある度に、恒久的な制度を望んでおられることに触れられるのではないかとビクビクしていたという。だが、「ある官邸の人間は、陛下が恒久的な制度の必要性について切々と述べられるような事態となれば、“政権は終わりだ”とまで言っていましたよ」とまで言われると、首をかしげたくなる。
なぜ恒久法にすると、“政権は終わり”なのか。
なぜ安倍政権は恒久法ではなく一代限りの特例法にこだわるのか。
そもそもなぜ明仁陛下は恒久法でなければとそこまで強く望まれるのか。これについては諸説あるので、後述させていただく。
◆明仁陛下が望まれた「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」
次の疑問に移ろう。明仁陛下と官邸の綱引きが、なぜ秋篠宮殿下の待遇問題に繋がるのかという疑問だ。
この謎解きについて語る政治部デスクの言葉は、さすがに慎重だ。
「秋篠宮さまの待遇をきちんと検討しなければいけない、というのは陛下もお考えのこと。秋篠宮さまを皇太子待遇とすることを検討するのは、陛下のお考えとも合致する動きで、陛下に対する官邸の“対策”と見ることもできる。その“対策”の裏にあるのは、“だから特例法でご納得いただきたい”という思いに他なりません」
政治部デスクは、明仁陛下が「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」と“望んでおられる”などとは決して言わない。「秋篠宮さまの“待遇をきちんと検討”しなければいけない」とのお考え、あるいは「秋篠宮さまを皇太子待遇とすることを検討するのは、“陛下のお考えとも合致する”動き」と慎重に言い換える。だが、どう言い換えたところで、官邸は明仁陛下が「秋篠宮殿下を皇太子待遇に」と望んでいることを忖度し、それをいわば交換条件として、特例法とすることを呑んでいただいたことは変わらないだろう。
後日、「女性宮家」についても退位特例法の付帯決議に盛り込まれることになるが、これも明仁陛下の強いご希望だったことが推測できる(この問題についての詳細も後述する)。
◆明仁陛下の思いを大幅に汲んだ「退位特例法」
後述する「上皇」「上皇后」などの称号、上皇職の設置や人数、お住まいや予算等を見ても、「退位特例法」は、安倍官邸と綱引きをしながら、明仁陛下のほぼ思い通りに形成されていったといえる。国民に直接呼びかける「おことば」(平成28(2016)年8月8日)によって圧倒的な支持を受けていた明仁陛下と、世論に怯える安倍官邸の力関係がそこに見てとれる。
だが、こうした関係は、憲法に定める天皇の姿から逸脱してはいないだろうか。
そもそも憲法第四条第一項にはこう規定されている。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
天皇陛下が内閣もしくは国会に働きかけ、ご自分のご意向を反映した法律を制定させることは、上記憲法の規定に反することになる。つまり違憲の疑いさえ生じかねないのだ。
安倍政権憎しで陛下を支持し、「陛下のご希望に全て従え!」と言わんばかりの勢いのリベラル派は、少し頭を冷やして考えてもらいたい。これは一歩間違えれば、憲法が定める大原則である「国民主権」「民主主義」を真っ向から否定することにもつながるのだ。
それでは、「退位特例法」はどのような経過をたどって成立するに至ったのか。
次項で改めてその経緯を振り返ってみよう。
(以上)
ほとんどの報道が取り上げていませんが、宮内庁はこっそりと皇嗣殿下が黄丹袍を着るものとし、それを新調するべく予算化しています。
実質皇太子待遇であることの表れです。
国民を騙す皇室、そのことの意味を皇室はわかっているのか。
もう皇室なんて要らない。
不都合なことは黙ったまま、こっそりと嘘をつくような方が国の象徴だなんて情けなさ過ぎる。
2 有識者会議の招集と進行
◆当初は有識者会議の議題に「秋篠宮殿下の待遇」など掲げられていなかった
平成28(2016)年10月17日、有識者会議が初めて招集されることになった。
有識者会議の正式名称は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」であるが、その名称に示されている通り、当初は明仁陛下の公務負担軽減について議論する場と捉えられていた。会議の「8つの議題」についても下記の通りになっている(第2回有識者会議議事次第資料「有識者ヒアリングの実施について(案)」より)。
(1)天皇の役割
(2)天皇の公務
(3)公務負担軽減
(4)摂政の設置
(5)国事行為の委任
(6)退位の是非
(7)退位の制度化
(8)退位後の地位や活動
上記8つの議題をご覧いただければお分かりになると思うが、「秋篠宮殿下の待遇」などという議題はどこにも掲げられていない。また、上記8つの議題のどこかに「秋篠宮殿下の待遇」を無理やり読み込もうとするのも無理があろう。そもそも「明仁陛下の退位は是か非か」ということすら決まっていない段階で、秋篠宮殿下の待遇の変化を話し合うこと自体おかしいではないか。会議の行方によっては徳仁皇太子殿下(当時)を摂政に立てる余地もあり、そうなれば秋篠宮殿下の地位に変更など起きなかったはずだからである。
しかし一部のメディアはこの「8つの議題」に反して、早い段階から「秋篠宮殿下の待遇」について報道する動きを見せていたのだ。
例えば、NHKは有識者会議が初めて招集されたその日のうちから、下記のように報じていた。
「また、現在の皇室制度では、皇太子さまが天皇陛下に代わって即位されると、皇太子が不在となるため、秋篠宮さまをどのように位置づけるのかも検討の対象となってきそうです。」
後ほど改めて詳しく述べるが、NHKは明仁陛下の生前退位ご希望について真っ先にスクープを出した報道局でもある。公共放送たるNHKが、有識者会議の議題からは読み取ることのできない「秋篠宮殿下の待遇」について、わざわざ報道した理由は何なのか。また、上記報道はまるで「明仁陛下の退位は既定路線である(摂政を立てる方針ではない)」ことを前提にしているようにも読めてしまい、これでは少なくない視聴者に「この有識者会議では秋篠宮殿下の待遇についても話し合うのか」という先入観を与えかねない。有識者会議の資料を詳しく読み込む国民よりもNHK視聴者の方が圧倒的に多いと思われる現状で、このような偏向報道は誠に危険である。
公共放送がこのような報道を行うことが果たして許されるのか。NHKは一体どういう目的でこのような先入観を与える報道をわざわざ行ったのであろうか?
◆有識者会議のメンバー紹介及び第1回・第2回議事内容
それでは、有識者会議の招集日、メンバー、議論された内容につき、その過程を追っていくことにする。有識者会議の議題や議事概要・議事録の詳細については、「首相官邸・政策会議」の公式ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/koumu_keigen/kaisai.htm)から閲覧することができる。
有識者会議は、「固定メンバー」と、多少流動性のある「政府側メンバー」、そして議題に応じてその都度招集される各界の言論人たる「ヒアリング対象者」で構成される。
固定メンバーと政府側メンバーの構成員は下記の通りである。
<天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議メンバー>
今井 敬 日本経済団体連合会名誉会長
小幡 純子 上智大学大学院法学研究科教授
清家 篤 慶應義塾長
御厨 貴 東京大学名誉教授(座長代理)
宮崎 緑 千葉商科大学国際教養学部長
山内 昌之 東京大学名誉教授
<政府側メンバー>
安倍 晋三 内閣総理大臣
菅 義偉 内閣官房長官
杉田 和博 内閣官房副長官
衛藤 晟一 内閣総理大臣補佐官
古谷 一之 内閣官房副長官補
近藤 正春 内閣法制次長
西村 泰彦 宮内庁次長
山﨑 重孝 内閣総務官
平川 薫 内閣審議官
そして有識者会議は、第1回目の平成28(2016)年10月17日を皮切りに、平成29(2017)年4月21日まで計14回招集されている。
第1回目と第2回目(平成28(2016)年10月27日)はヒアリング対象者は参加せず、主に今後の議論の方向性について話し合う程度に留められているが、その中から特に注意すべき点を抜粋する。
「個人として予断を持つことなく、国民と一緒に考えていくための土俵を作っていくことが必要」
「御高齢となった陛下の御事情にかんがみるとき、慎重さを旨としながらも何よりもスピード感を持って検討を進めることが重要」
「総体としての国民の意思に沿った解決策を模索していきたい。様々な方策の抱える長所や短所を虚心に検討することが必要」
(以上第1回会合より)
「ヒアリング対象者に女性が一人しかいないことが気になるが、あまり本件について発言している女性がいないのでやむを得ないか」
「御活動の見直し事例に関し、皇太子殿下、秋篠宮殿下等にお譲りになるという形の見直しと、お取りやめになるという見直しの両方があるが、どのような基準によるものなのかという質問に対し、宮内庁から、特段の基準等はない、との説明があった」
「公的行為は、昭和天皇のときからずっと続いていた行為なのかという質問に対し、宮内庁から、公的行為という概念は、時間をかけて積み重ねによって整理されてきたものであり、どこから始まったかを示すことは大変困難であるとの説明があった」
「公的行為について、例えば行幸啓の件数は、昭和天皇は高齢になるとともに減っているが、今上陛下は増えている」
「公務の定義が必要だと思われるが、それぞれの代の陛下のお考えで異なるとすると一般論での考察は難しい」
(以上第2回会合)
第1回会合では高齢の明仁陛下に考慮してスピード感のある対応を掲げ、総体としての国民の意思に沿った解決策を模索すると述べている。そして第2回会合では宮内庁からの意見も交えている。
ちなみに、「ヒアリング対象者に女性が一人しかいない」という点であるが、これは第4回会合で招集されている櫻井よしこ氏のことを指している。当初予定されていた女性メンバーは櫻井氏だけであり、ほかの女性メンバーは招集予定になかったということがうかがえる。この点については後で出てくる有識者会議の議題変更(秋篠宮殿下の待遇について)について密接に関わってくるため、読者の皆様にも念頭に置いていただきたい。
また、第2回会合で、宮内庁は下記のように述べている。
「公的行為について、例えば行幸啓の件数は、昭和天皇は高齢になるとともに減っているが、今上陛下は増えている」
なぜ平成の明仁陛下の代で公的行為が増えてしまっているのか。この点については後述するが、明仁陛下が「ご自身で増やされてしまった」という側面を忘れてはならない。有識者会議が「明仁陛下の公務負担軽減」という方向ではなく「明仁陛下の生前退位」という結論ありきとなった理由の一つがここに隠されていると言えるためだ。
(次の小見出しに続きます)
◆第3回議事内容―有識者からでさえ異議が噴出した明仁陛下の「お気持ち」表明
第3回会合は平成28(2016)年 11月7日に召集され、下記メンバーがヒアリング出席者となっている。
平川祐弘 東京大学名誉教授
古川隆久 日本大学教授
保阪正康 ノンフィクション作家
大原康男 國學院大學名誉教授
所功 京都産業大学名誉教授
上記出席者らの意見を順次抜粋していくが、中には明仁陛下に対してかなり手厳しい内容のものもあり、興味深い。
(1)平川祐弘氏の意見
「外へ出て能動的に活動せねばならぬとは特に今の陛下に強いお考えで、その陛下御自身で拡大された天皇の役割を次の皇位継承者にも引き継がせたいご意向に見受けられます。しかし、これは今の陛下の個人的解釈による象徴天皇の役割を次の天皇に課することになるのではないかと思います」
「特に問題と感じますのは、その御自分で拡大解釈した責務を果たせなくなるといけないから、御自分は元気なうちに皇位を退き、次に引き継がせたいというお望みを「おことば」として発表されたことです。この個人的なお考えをビデオメッセージで述べられました。世間は感動し恐懼しましたが、異例の御発言と思います」
「もし世間の御同情に乗じ、そのセンチメントに流されて、それを大御心として特例法で対応するようなことがあれば、憲法違反にかなり近いのではないでしょうか。極めてよくない先例となり得るかと思います。天皇の「おことば」だから、それでスピード感を持って超法規的に近い措置をとるようなことは、マスコミや世間には受けるかもしれませんが、日本の将来のために、また、皇室の将来のためにいかがかと思います」
「天皇家は続くことと祈るという聖なる役割に意味があるので、それ以上のいろいろな世俗のことを天皇の義務としての役割とお考えになられるのはいかがなものか」
「その世俗、secularの面に偏った象徴天皇の役割の解釈にこだわれば、世襲制の天皇に能力主義的価値観を持ちこむことになりかねず、皇室制度の維持は将来困難になりましょう」
「退位せずとも高齢化の問題への対処は摂政でできるはず」
「私が甚だ理解に苦しむのは、陛下が制度としての摂政に反対されたこと」
「大正天皇とその周辺と摂政の宮とその周辺との関係が必ずしもよくなかった。昭和天皇からそのことを伺った今の天皇が危惧されておられるというのは仮に事実だったとします。しかし、だからといって陛下のそのような個人的なお気持ちを現行の法律より優先して良いことか」
「上皇とその周辺と新天皇とその周辺との関係が摂政設置の場合の人間関係より良く行くかといえばその保証はない」
「元天皇であった方には、その権威と格式が伴います。そのために皇室が二派に割れるとか勢力争いが起きやすくなります。そうなると、配偶者の一族とかその方の実家、その人が属している省庁とか企業とかの政治介入や影響も無視できなくなります」
「天皇様が上皇になられて自由に外国旅行をなさるとか、外国人記者や外交官やお友達がいろいろ聞きに行くとかして問題発言が生じる可能性はいくらでもございます。すでに先日のビデオが問題発言のように解釈されております」
「政治的主張をしたととられる陛下の異例のおことばがやはり第三の問題で、このような国際的な誤解が生じた結果から考えますと、陛下のお側にお諌め申す者がいなかったことを私は淋しく残念に思いました」
上記のように平川氏は、天皇陛下の発する「おことば」が持つ影響力を危惧し、おことばによって世論を動かし、後世の天皇のご活動まで縛り付け、憲法第五条にも規定されている摂政制度を否定するような行いは天皇としていかがなものか、と厳しい疑問を投げかけている。政治的権能を有しない天皇のお立場に鑑みると平川氏の主張には頷ける箇所が多い。このように、当初の有識者会議は明仁陛下に手厳しい意見もきちんと出されており、正常に機能していたように見えた。
(2)古川隆久氏の意見
「国事行為は憲法で規定された天皇の職務なので維持されるべきだと思います。それ以外の公的行為は義務ではないので、天皇の年齢や健康状態により、減らしたり、取りやめたり、ほかの皇族が代行することが可能だと思います」
「国事行為の臨時代行に関する法律を活用して適宜負担軽減を図り、医学的に継続的な国事行為の遂行が困難と認められる状態になった場合は、摂政を設ければよいのではないかと思います」
「摂政ですけれども、(略)高齢という理由だけで設置するのは難しいのではないかと思います。しかし、医学的に国事行為の遂行が困難と判断されるような状態になった場合には設置できるのではないか」
「生前退位ですけれども、皇位継承の安定性確保のためには避けたほうがよいのではないか」
「しかし、皇位継承の安定性が多少とも損なわれる可能性を承知の上で、国民の意志として、天皇の意向である生前退位を認めるのであれば、それを否定すべき理由はないと考えます」
「退位後の御処遇については、憲法の規定に鑑み、国民統合の象徴が退位した方のほうに実質的に移ることがないような方策を講じるべき」
「今回のいわゆる「おことば」ですけれども、問題提起というように捉えないと、最悪の場合、憲法に抵触してしまう可能性があるだろうと思います。その理由は、皇室に係る制度や天皇の具体的なお仕事の内容についてかなり踏み込んだ内容であるからということ」
「今回の今上陛下の「おことば」ですけれども、重い務め云々というようなおことばもありましたように、普通に解釈すると、現状の非常に重い公務の質、量をやはりできなくなってきたから退きたいというように受け取れると思うのですが、そういう現状の過重な公務の質、量を基準に皇位の継承が行われるということにもしなってしまうと、今回の「おことば」が一種の先例のようになってしまうと、そこには能力主義の要素が入ってきてしまって血筋ということと少し違う要素が入ってくる」
「例えば御持病とか障害をお持ちになっているので私はやめなければいけないかと思ってしまうというようなことで、例えば事実上の退位の強制のようなことが起きかねない」
「何か政争の具にするような人が出てきかねない」
「天皇の御意見によって皇位継承の条件に能力主義的なことを導入してしまうと、皇位継承の安定性を阻害しかねない・・・もし本当に実際それが阻害されるということになってしまうと、国政への権能行使とほとんど同じようなことになってしまって憲法に抵触する可能性が出てきてしまうのではないか」
「現行法制で生前退位がないというようになっているのは、やはり退位問題が政争の具となる可能性に配慮したもの」
「もし生前退位を認めた場合の影響としては、ほかの皇族の方々について、いわゆる公務から引退するかどうかを考えるかどうか、それから女性天皇の問題ですね。皇位継承が早まる可能性がある」
「憲法に抵触したり政治問題化を回避するためには、高齢のみを理由とするというのが一番単純明快でよろしいのではないか」
「名称に関しましても上皇ではなくて前天皇、元天皇というのを使っています」
「今回の問題は、扱い方次第では、国民主権あるいは象徴天皇制というものが続けていけるか否かの試金石になりかねないので、タブーなき議論がぜひ必要であろう」
「憲法を普通に常識的に読むと、やはり国事行為ができていれば最低限いいという形になると思うのです。事実、摂政の規定も国事行為ができないのだったら置くという形ですから、それ以外についてはやらなければいけないとどこにも書いてあるわけではない 」
古川氏の意見も全文をお読みいただきたいほど共感できる箇所が多い。古川氏もやはり明仁陛下の「おことば」が憲法に抵触する可能性について触れ、ひいてはそれが皇位継承の安定性や政争の具などにもつながると危惧している。退位という方法を全く認めないわけではないが、それよりは現行制度である摂政や公務の代行などを用いた方が良いと述べている。また、公務についても国事行為以外の行為については柔軟に考えるべきであり、決して「やらねばならない」と考える必要はないと述べる。更に、退位後の天皇に権威を持たせず、「前天皇・元天皇」という名称で良いという考えを持つ。
そして古川氏の意見で注目して頂きたいのが、「生前退位を認めた場合の“女性天皇”など皇位継承問題」について触れている箇所である。あくまでも深入りせずにサラッと述べただけではあるが、この時点では“女性天皇”というワードが特にタブー視されていなかったことの証左になりうるのではないか。
(続きます)
それから黄丹袍の件、嘆きたいお気持ちは本当によく理解できます。生前退位が決まった後の「次代両陛下に対する嫌がらせや秋篠宮の横暴」についても、第四章でまとめていきたいと思います。大嘗祭への異論、即位の礼だけの予算削減や簡素化、パレード車の件、元号の件、退位日の問題、そして黄丹袍の件なども是非取り上げたいです。
第四章についてトピックが上がるのはまだ先になりますので、もうしばらくお待ちいただければと思います。
(3)保阪正康氏の意見
「摂政を置くとするならば、もっと天皇御自身の意思あるいは歴史的な検証、特に近代日本、そういうものを緻密に行う必要があると私は思います。軽々に摂政を置けばいいというのは傍観者のかなりエゴイズム的な言辞ではないか」
「天皇自身がやめたいというのは、そんな自由にやめられるのかといった問題等を含んでいるのは事実です。しかし、基本的に何らかの条件の下で生前退位というのが容認されるべきだと考えられてしかるべきだ」
「天皇の発言が少なくとも皇統を守るという自らの存在と歴史的な位置づけの中でも発言ができないというのは、やはり何かそこに大きな錯誤があるのではないか」
「私は皇室典範を何らかの形で変えていく必要があると思う。今回は皇位継承については触れないということなのですが、それはそれとして皇位継承、摂政の問題は特に何らかの形で変えていく必要がある」
「それぞれの天皇は国事行為の法的、政治的に決まっている枠組みというものは踏襲しつつ、ある範囲においては、その公務と称するものは天皇によって違うということは十分あり得るし、あって当然だし、また、なければおかしい」
「今の今上天皇は戦争というものを抱えた時代の次の天皇として、いずれにしろ戦争の贖罪あるいは戦争というものに対する追悼と慰霊を通じて自分の果たす役割を希求しているわけですけれども、それは今の皇太子も同じことを行うことを希望しているように思います。(中略)しかし、歴史的にそれがずっとそのまま踏襲されるということは不自然というか、それはあり得ないのではないか」
「退位ということがいきなり生前退位を容認するとかというのではなくて、例えば80歳、85歳、いろいろな年齢で切って、そのときそのときに天皇ご自身の意思と国民の特に政府を中心とする政治の第三者機関との間の調整・・・そういった限定的な枠組みというものをつくる必要がある」
この保阪氏であるが、私はこの人物が有識者会議に呼ばれたこと自体疑問に感じている。後で詳細を述べるが、保阪氏は過去に「秋篠宮が天皇になる日」という、まるで徳仁皇太子殿下(当時)を飛ばして秋篠宮殿下が天皇になることを期待するかのような論文を世に出したことがある。内容も徳仁皇太子殿下を貶め、秋篠宮殿下を称賛するようなものであった。このような人物が、果たして客観的・冷静に議論に加わることなどできるのであろうか。保阪氏の「公務の内容は天皇によって違って当然」という意見には賛成するが、私は保阪氏のような人物が有識者会議に呼ばれた経緯の方が知りたいと思う。
更に言えば、この有識者会議の人選には保阪氏以外にもかなりの不可解さが付きまとっている。その点については追々触れていくことにする。
なお、保阪氏は上記意見の中で「今回は皇位継承については触れない」と述べているが、この部分は重要である。「秋篠宮殿下を皇嗣(皇太子待遇)にする」という退位特例法の結論は、明らかにこの趣旨に反していると言えるからである。やはり有識者会議は途中から趣旨が大幅に変わってしまったのだ。
(4)大原康男氏の意見
「現憲法下における皇室典範でも、生前退位を認めずに皇位継承の原因を崩御に限ったという意味では、明治において過去の弊害に鑑みて一つの原則を立てたということの意義は大変大きいものがあろう」
「要するに退位は否定する。その理由として次の三つを挙げる。まず歴史上いろいろな弊害があった。上皇・法皇の存在。二つ目は、必ずしも天皇の自由意思に基づかない退位の強制があり得る。3番目は、恣意的な退位は現在の象徴天皇、つまり、国民の総意に基づいて天皇の地位が法的に基礎づけられている、そういう象徴天皇にそぐわない」
「血統による地位の継承において不就位の自由を肯定したならば、その確認のために空位あるいは不安定な摂位という事態が生じ、そもそも天皇制度の基礎を根底から揺り動かされることになる」
「同じ天皇陛下がいつまでもいらっしゃるという御存在の継続そのものが国民統合の要となっているのではないか。御公務をなされることだけが象徴を担保するものではない」
「生前退位の制度を導入するのではなく、皇室典範第16条を「精神若しくは身体の重患ないし重大な事故又は高齢により、国事に関する行為をみずからできないときは、摂政を置く」と改正することを私は提案申し上げたい」
「天皇の終身在位ということが明治の初めに皇位継承の原則として採用されて、今日まで来ました。これは過去の長い歴史を反省してそのような弊害をなくすために採用した」
「この明治のときに定められた原則を無条件に墨守せよというわけではありませんが、(略)生前退位については、常に消極的でありました」
「明治の皇室典範と昭和の皇室典範にそのまま継承された皇位継承に関する原則は、生前退位を認めないことと女帝を認めないこと、この二つなのです。これについてはGHQからもいろいろな意見は出されたけれども、最終的には女帝の時代においてはどういうことがあったか。過去の事例を申し上げるとか、生前退位についてはどういうようなことが起こり得たかということを説明したら、この部分は割合簡単にパスしたのです」
大原氏も基本的に天皇の生前退位の持つ弊害を強調し、摂政など既にある制度に「天皇の高齢」という文言を加えることによって対処すべきという観点に立つ。大原氏の意見には概ね納得できる。
しかし、大原氏は意見の最後の方で明確に女性天皇にも反対しており、男系男子継承維持派という立場を表明している。彼は「女帝の時代においてはどういうことがあったか」「事例を説明したらGHQも簡単にパスできた」と述べているが、女帝時代の具体的な弊害については何も説明していない。過去の女帝たちが、一体どのような問題を起こしたというのか。この点については大原氏の主張には疑問を抱かざるを得ない。
(続きます)
「この有識者会議が開かれました直接の契機は、今上陛下の御意思が8月8日に「おことば」として公表されたことにあります。しかも、その前後の情報、7月13日のNHK特別ニュースと「文藝春秋」10月号などを総合しますと、陛下の御意向は明白であると思われます」
「陛下は既に6年前の76歳ころから、現行の憲法下で天皇の地位にある者は象徴の役割を自ら果たす責任があり、それを高齢化に従って果たせなくなる心配があるので、次の後継者と決まっている皇太子殿下へ譲ることによって、その地位と役割を末永く継承できるようにしたい、という御決心と御希望を示されたことが、今でははっきりしております」
「ただ、現行の皇室典範には譲位の規定がありませんので、関係者も対応に苦慮されてきたのかと思われます。しかし、間もなく満83歳になられる陛下は、御高齢の進行を予見されて、まだ元気なうちに皇位を譲ること、つまり「高齢譲位」の道を開いてほしい、と念願しておられるのでありますから、政府も国民もその問題提起を真摯に受けとめて、その御意向に沿った現実的な法整備に努めなければならない」
「今上陛下の御年齢と御健康を考えれば、可能な限り迅速な対応を必要としております。そこで、当面、まず単行の特別法を制定するほかないのではないか」
「高齢譲位はほとんど前例のないことでありますから、単に特別法を制定するだけではなく、御譲位の儀式とか御譲位後の待遇など、関連事項についても十分に検討し、順調な実現を可能にしていただきたい」
「確かに昭和の御代と比べれば、平成に入ってから「公的行為」が著しく増えていると見られます」
「8月の「おことば」などを拝聴しますと、象徴天皇の今上陛下は、前に挙げた「国事行為」も「公的行為」も「祭祀行為」も全て可能な限り公平に自ら全身全霊で実行してこられましたが、その負担を軽くしてほしいなどということは、一言もおっしゃっておりません」
「「公的行為」は新しい基準を設定して、例えば恒例の三大行幸や国家的・国際的な儀式・行事等へのお出まし以外は、ほかの成年皇族が可能な限り分担することを検討されたらよい」
「その場合でも、現に皇位を担っておられる天皇陛下の御意向を尊重しながら進められることが、何より肝要だ」
「今上陛下が高齢による譲位を決心され希望しておられることは明白であること、また、それが現実的に必要であり、しかも有効だと判断されることから、「高齢譲位」を積極的に支持いたします」
所氏は、明仁陛下の退位(譲位)ご希望を積極的に支持する見解である。そして、「まず単行の特別法を制定するほかない」という所氏の意見を除けば、ほぼ明仁陛下のご意向にも沿った内容であると言える。
この所氏であるが、実はNHKが明仁陛下のご希望をスクープした直後からメディアに出て、早い段階から秋篠宮殿下の待遇について気を吐いていたという事実も存在する。この点の詳細な検討は項目を改めて行うが、私は所氏の人選にもかなりの疑問を抱いている。
なお、所氏が触れている『文藝春秋10月号』(平成28(2016)年)の内容は、明仁陛下の長年のお考えを検証するのに非常に興味深いことが書かれている。その内容についても後ほど検討したい。
以上が第3回有識者会議のヒアリング内容である。
第4回会合は平成28(2016)年 11月14日に召集され、下記メンバーがヒアリング出席者となっている。
渡部 昇一 上智大学名誉教授
岩井 克己 ジャーナリスト
笠原 英彦 慶應義塾大学教授
櫻井 よしこ ジャーナリスト
石原 信雄 元内閣官房副長官
今谷 明 帝京大学特任教授
この会合には、長年皇室問題を見続けてきた人々から最も評判の悪い人物の一人と言える岩井克己氏が加わっている。なぜ彼の評判が良くないのかも含め、以下、順にそれぞれの意見を検討する。
(1)渡部昇一氏の意見
「あの天皇陛下のおことばを承りしたときに私は大変驚きました。(中略)本当は、そうなさる必要はなかったのだということを脇にいる方が申し上げてしかるべきだったと思います。それは、天皇のお仕事というのは、昔から第一のお仕事は国のため、国民のためにお祈りされることであります。(略)だから、外へ出ようが出まいがそれは一向構わないことであるということを、あまりにも熱心に国民の前で姿を見せようとなさってらっしゃる天皇陛下の有り難い御厚意を、そうまでなさらなくても天皇陛下としての任務を怠ることにはなりませんよと申し上げる方がいらっしゃるべきだったと思います。」
「もうお休みになって宮中の中でお祈りくださるだけで十分なのですと説得すべき方がいらっしゃるべきだったと思うのです。そうすれば、皇室典範どおり年号も変わらずに天皇のままでいらっしゃって、そして皇太子殿下がこれも皇室典範どおりに摂政になられますれば何の問題もなくスムーズにいった話だと思います」
「日本の皇室に対して危険が生ずる、あるいは思わしくないことが生じたのは常に天皇が生前譲位なさったときである」
「皇室典範を変えるなどといったら何年かかるかわかりませんし、そうすると、今、お休みになりたい天皇陛下のお心に沿わないことになります。臨時措置法をやるなどということを言うのは、そんな軽々なことを言い出すと皇室のためにはよくないという歴史的な事実もあるわけです」
「やはり昭和天皇が譲位なさらなかったことが、時代が経ってみますと、いかに重要で有り難かったか、これがよくわかるわけです。(中略)生前譲位がないのが歴史から見て一番皇室を守るために重要だという結論を証明したようなもの」
「問題は、今の天皇陛下が摂政は好ましくないとおっしゃったことです。これは公におっしゃる前に、そばにおつきの方が「そんなことをおっしゃってはいけませんよと、(中略)十分お休みになってもお祈りすれば十分です」とおっしゃる方がいればよかったわけです」
「おっしゃる方がいないから、今、天皇陛下は皇室典範の違反を犯そうとしていらっしゃいます。」
(摂政を置いた場合、国民の目で象徴天皇はどちらだという危惧が起こるという説もある、という質問に対して)-「そんなことはありません。それこそ天皇陛下の名前が残りますし、年号もそのままです。そして、天皇陛下は今、皇室の中で国民と国のためにお祈り続けていらっしゃいます。それを皇太子殿下が外に現れた事務的なことを主として処理していらっしゃいます。幸い、皇太子殿下は男盛りでございますので、大変結構なことでございます。そして、表に現れないでも皇室の尊厳が揺らいだことはございません」
渡部氏は、男系男子維持派の立場に立っているが、明仁陛下が摂政という制度を拒み、自ら退位したいと仰ったことについては厳しい意見を述べている。生前退位が引き起こす危険性に言及し、明仁陛下が軽々しくそれを口にされたことについて側近が阻止しなかったことにも苦言を呈している。更に、摂政という存在が今上天皇の権威を軽くすることもなければ、二重権威が起きることもないと断言している。
皇位継承の面では渡部氏とは相容れないことが多いが、生前退位の見解については彼に同意せざるを得ない。なお、渡部氏は平成29(2017)年4月、退位特例法制定直前に86歳で逝去している。
(続きます)