アットホームな恒例企画で垣間見えた、悦び伝うナチュラルな歌唱。
シンガーの脇田もなりが直々にハイボールを作って手渡してくれるという好評の恒例企画イヴェント〈MONARI WAKITA“HIGHBALL HOUR”〉が、先月に引き続いて4月も開催。前回（記事→「脇田もなり / 天野なつ ＠Time Out Cafe & Diner」）はゲストに天野なつとDJのBAOBAB MC（JABBA DA FOOTBALL CLUB）を迎えた2マン＋DJステージというスタイルだったが、今回はアートディレクターやイラストレーター、ミュージシャンとして活躍しているサリー久保田を招いての“アートコラボ企画”〈MONARI WAKITA × SALLY KUBOTA "FREE DESIGN:M" RELEASE PARTY!!〉として行なわれた。脇田もなりを“題材”にしたサリー久保田によるアートコラボレーション・カード＆ポスターのリリースの完成をハイボールで祝うという、文字どおりの“祝宴”となった。
サリー久保田は、ミュージシャンとしては80年代にネオGSバンドのザ・ファントムギフト、90年代初頭に渋谷系として支持を得たles 5-4-3-2-1といったバンドを経て、近年は60年代オールディーズ・マナーのバンド・サウンドで2019年まで活動していたSOLEILなどで活動（個人的には、SOLEILはアルバムのアートワークに登場するヴォーカルのそれいゆが、どこかEspeciaの森絵莉加にも似ている感じもする、ということで名前を知っているくらい……苦笑）。現在は2020年に結成したサリー久保田グループにて作品を発表するなど音楽活動を継続しているが、この日はアートディレクターという立場から音楽的なコラボレーションではなくトークにて登場し、アンコール後にさまざまな面白エピソードを披露。脇田もなりの1stシングル「IN THE CITY」のミュージック・ヴィデオを渋谷駅にて撮影した際に、スキップのシーンを撮ろうと思ったら、実は脇田がスキップ出来なかったことを暴露したり、（長崎・五島列島出身の）脇田に「噂で五島列島にいまだに隠れキリシタンいるって聞いたんですけど」と問いかけて、笑いを呼び起こしたりしていた（個人的に五島列島・福江島に行った際、島の各地に多くの教会が点在していた）。
また、トイ楽器でロックンロールを演奏するというロッキン・トイ・バンド、通称“チャルトン”ことCHILDISH TONES（モデルの紗羅マリーらがいるLEARNERSや、アイドル・グループのavandonedの元メンバーで、この4月に加納エミリのプロデュースでソロ1stシングル「passion」を発表した宇佐蔵べにらと共演）のドラムを担当している、フランス系カナダ人のパット・ザ・ベニー（PAT the BENNY、DJ 810、ステージでは“パトリック”と呼ばれていた）がゲストDJとして登場し、脇田もなりのステージの前後のフロアに音楽で彩りを加えていた。脇田、サリーとのトークの際にも登壇し、以前、サリーが出演していた高浪慶太郎（元ピチカート・ファイヴ）の弾き語りライヴのPAにいた時に「サリー久保田さんですか」とパトリックが話しかけたのを機に、交流を深めているようだ。
パット・ザ・ベニーのオープニングDJからシームレスに繋いで登場した脇田もなりのステージは、福富幸宏産のハウス・ポップス「I'm with you」からスタート。バンドではないラップトップ音源のセットというフットワークの軽さもあって、Time Out Cafe & Dinerのようなカフェ・レストラン・スタイルでのステージには、軽快なハウス・トラックは良く似合う。イタリア産ワインの名を冠した矢舟テツローによるモダンジャズ・ポップ「EST! EST!! EST!!!」への流れまでは、恵比寿という街の雰囲気にもあった瀟洒な展開だったが、それ以降は脇田の「普段歌わない曲を歌おうかなと」というセレクトと“しっとりモードというテーマに寄り添った楽曲で進行。「CUTi-BiL」「ONDO」「夜明けのVIEW」の中盤は、徐々に照明を落としたような大人びた面持ちが垣間見えるささやかな色香も薫る歌唱で、表現力の成長も見せていた。
いわゆるフルバンド・セットでのライヴとは異なる、カフェ・スタイルというオーディエンスとの距離が近いカジュアルなステージゆえか、気合を入れ過ぎて目一杯に力むことなく、音の波に乗って歌っているように感じた。実際はほどよい緊張もあるだろうが、それ以上に体躯に満ちていく歌うことの愉しさを実感した歌唱が、のびやかな声色やナチュラルでのびのびとした表情を生み出していたようだ。そのリラックスの心地よさから、つい「Callin' You」で歌詞を飛ばして“ナナナナ～”で誤魔化した箇所もあったのはご愛敬。
脇田いわく「泣ける曲です」という思い入れの深い「passing by」で本編はラスト。アウトロの軽やかに舞うように連ねたスキャットからは、水を得た魚よろしく歌うことの喜びを衒いなく披露しているような心地よさも伝わってきた。
「新曲は……作ってます！」「（新曲を出さないから）脇田もなり消えそうって思ってるかもしれないけど（笑）」ということで、既に2曲（脇田いわくダンス・ミュージックのような曲と泣ける曲）は録り終えており、これから踊れる曲を録る予定とのこと。前者は1月に開催予定だったライヴで披露するはずだったが、ライヴ中止で残念ながら披露は先延ばしに。ただ、いつになるか分からないが、近々1年以内には耳にすることが出来そうだ。
作曲ペース的に『RIGHT HERE』に続く4作目のアルバム・リリースに漕ぎつけるのはまだ難しそうだが、コロナ禍で埋もれそうになった負の感情をターンオーヴァー（代謝）しながら、自らの歩幅でギアを少しずつ上げていってもらいたい。
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＜SET LIST＞
01 I'm with you （*IO）
02 EST! EST!! EST!!! （*IO）
03 あのね、、、 （*IO）
04 CUTi-BiL （*Ah）
05 ONDO （*P）
06 夜明けのVIEW （*IO）
07 Callin' You （*A）
08 passing by （*RH）
≪ENCORE≫
TALK SESSION with Sally Kubota, PAT the BENNY
（*IO）：song from album “I am ONLY”
（*Ah）：song from album “Ahead!”
（*RH）：song from album “RIGHT HERE”
（*P）： song from 7inch analog “PLACE”
＜MEMBER＞
Monari Wakita ／ 脇田もなり（vo）
Sally Kubota ／ サリー久保田（talk）
PAT the BENNY（CHILDISH TONES）（DJ）
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