*** june typhoon tokyo ***

MISIA @BLUENOTE TOKYO


 芳醇なジャジィ・グルーヴとともに描き出す、コンシャスで良質なステージ。

 日本人として初めて〈ブルーノート・レコード〉と契約し、ホセ・ジェイムズのプロデュースによる『ライジング・サン』でメジャー・デビューを果たして以来、世界的なジャズ・トランペッターとして活躍する黒田卓也との邂逅から生まれた、MISIAのアナザーサイド・ライヴ〈SOUL JAZZ〉ツアーが、2020年に〈MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020〉として帰ってきた。ロングランで行なわれるはずだった〈星空のライヴ Across The Universe〉が次々と中止や延期を発表するなか、ニューヨーク在住の黒田も無事に来日し、念入りなコロナウィルス感染防止対策を施してのソウル・ジャズ・スタイルのライヴが、7月20日のビルボードライブ横浜公演を皮切りに展開。ブルーノート東京公演、ビルボードライブ東京公演を経て、8月22日・23日に再びブルーノート東京へと戻ってきた。そのファイナル2デイズの初日、22日の2ndショウに足を運んだ。

 アリーナ規模のツアーが通例のMISIAとしてみれば、だいぶ集客も少ない会場ゆえ自ずとプラチナチケットとなるだろうが、運よく席確保に成功(ソウル・ジャズ・スタイルでなければ、おそらく席確保は厳しかったと思う)。入場後は顔撮影、検温、手指消毒をし、通常のフロントから入場順を呼び出すのではなく、事前に通知されたメール記載の番号を提示して、既に決定している座席へ案内。通常は対面も相席となることもあるが、カップルや団体であっても、座席は隣席を空けて斜向かいで着席。センターフロアの最前テーブルとステージの間にはやや距離を作り、最前列の観客は全員フェイスシールド着用するという形で飛沫対策を施していた。

 暗転後、バンドメンバーがステージイン。通例なら歓声や指笛が響いたりするところだが、ここはクラップの波で花道を通って登壇するバンドメンバーを迎える。〈SOUL JAZZ〉の舵を握る黒田が観客へ挨拶すると、まずはバンドによるインスト曲で会場をホットにさせる。各パートのソロを交えながら、全米ラジオチャート3位にランクインして話題となった黒田の2011年発表の2ndアルバム『Edge』から「S.T.E.P」を披露して、〈SUMMER SOUL JAZZ 2020〉が幕を開けた。
 メンバーは左からドラムの菅野知明、ベースの中林董平、中央やや左にキーボードの大林武司、そして右側にはホーン・セクションの3名、トランペットの黒田卓也、トロンボーンの池本茂貴、サックスの庵原良司がアクリル板を隔てて並ぶ。このホーン隊トリオは、時に3人合わせて小刻みなステップを踏んだりと、演奏以外の部分でも楽しませてくれる。MCでは黒田が主導で話すことも多いのだが、兵庫生まれの関西気質もあって、早口でちょいちょいアドリブトークを差し込むなど、シリアスな演奏とコミカルなトークとのギャップで、メリハリをつけてステージを盛り上げていった。


 インスト曲「S.T.E.P」が終わるや否や、黒田が観客にクラップを要求すると、後方より席間を抜けてMISIAが登場。今年1月にリリースした7年ぶりのベスト・アルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』収録の「CASSA LATTE」を、ピーコックブルーが映えるターバンとスレンダーラインのドレスと同系色のマスクを着けたまま歌唱。顔はほぼ目の周りだけしか露出がなく、オリエンタルなムード漂うミステリアスないで立ちとなったが、表情豊かに歌う姿はいつものMISIAと変わらず。おそらく特殊な技巧を凝らしたマスクなのか、息苦しい表情や声がこもるようなことはなかった。

 1曲歌い終わってサッとマスクを外すと、晴れやかな表情が目に飛び込んでくる。さまざまな不安から心の距離までも遠ざかってしまいかねない現在を、音楽の力でグッと距離を縮めたいと高らかに語って続けたのが、マーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」。混沌や混迷に苛まれがちな今のタイミングには、マーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」や「ホワッツ・ゴーイング・オン」などはより心に刺さるものがある。「マーシー・マーシー・ミー」は既に2011年リリースの初のカヴァー・アルバム『MISIAの森 -Forest Covers-』にて発表しており、〈SUMMER SOUL JAZZ〉のコンセプトに相応しいゆえ、案外早い段階で演奏曲に組み込まれたのかもしれないが、そもそも“The Ecology”という副題がついた深刻な環境問題に嘆く歌だから、MISIAの活動のテーマを体現しているようなものだ。「マーシー・マーシー・ミー」中には何度も“ホワッツ・ゴーイング・オン”とフェイクを入れて力感ほとばしるエモーショナルな歌い上げも。おそらくMISIAのなかではそれでも多少抑え気味に歌おうとしてたのかもしれないが、やはり溢れ出る感情が歌に零れ出してしまう。ジャズ・ソウルとMISIAのルーツでもあるゴスペルの影を帯びて、時に優しく温かく、時に悲哀にも似た色で声高に吐露しながら、自らサウンドと刺激し合うように熱量を高めていく。

 次はスツールに腰を掛けての“サッチモ”ことルイ・アームストロングの名曲「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」へ。この曲も『MISIAの森 -Forest Covers-』に収録されている。歌唱前に、アフリカをはじめとする各地で社会事業に尽くしているMISIAが、アフリカ現地の人達は「世界がコロナウィルスという感染症と戦わなければと言っているが、自分たちはコロナ禍以前からさまざまな感染症と戦っている」「先進国、特に日本は豊富な水や食料はもちろん、保険や医療の面でも充足している一方、発展途上国は先進国企業の工場などが操業停止することで日雇い生活の人々がさらに貧困に陥り、スラム化が加速し、食料もまともに摂取できない」と語っていたエピソードを通して、何をいがみ合っているのかと、今こそ協力し合う時と優しい声で問いかけ、のちに「あの時は本当にいがみ合ったり、不安ばかりで辛かった日々」と振り返るのか、「あの時はみんなが助け合って支え合っていけたんだ」と振り返るのか、その意識が問われていると問題提起。コンシャスな話題に触れて、この危機を乗り越えようという想いや願いを込め、前曲とは対照的な、大地に夕日が沈んでいくような穏やかで緩やかな空気を醸し出した安らぎをもたらす歌唱で、世界の平和への希求を訴えていた。また、「このコロナは、絶対におさまります」と言い切ったMISIAが印象的だった。
 
 コロナ禍の自粛期間中に思うところあって制作したという新曲「さよならも言わないままで」は、黒田のノスタルジックなホーンが引導するメランコリックなバラード。どこか切なさや物憂げなムードをしたためながら、生きる者ゆえの別離と愛情を、MISIAらしい抑揚ある凛としたヴォーカルで紡いでいく。コロナ禍によって死んでいく人へ会うことや、会えても手も握って言葉を掛けることも出来ないことが多い今、家族や恋人、友人など大切な人へ感謝や愛情を伝えることが必要という投げかけを、この曲で代弁していた。

 終盤はMISIAの代表的なバラードを。スウィートな恋心を綴った「眠れぬ夜は君のせい」は、落ち着いた雰囲気のサマー・ジャズ仕様に。鮮やかなブルー系のライトの助力もあって、清涼感を湛えた爽やかなグルーヴが流れていく。本編ラストの「Everything」は、周知のイメージ通りホワイト系を基調としたライティングに照らされるMISIAが、麗しい鍵盤をはじめとする芳醇なバンド・サウンドに包まれながら、包容力のあるテンダーなヴォーカルで、観客の心の内へ安らぎと愛を溶け込ませていく。

 アンコールは、スタイリッシュなジャズ・ファンク調にあつらえた「陽のあたる場所」。着席ではあったものの、フロアにはそのグルーヴに乗せて観客が挙げた手の波が連なっていく。リストだけを見れば、楽曲数が少なく感じるかもしれないが、過度なソロパートもなく、全体的にMISIAの楽曲を崩さずに、オリジナルとは異なる洒脱なグルーヴとともに1曲をヴォリュームアップ&ブラッシュアップさせ、ソフィスティケートにまとめ上げたバンド・サウンドは見事。何よりちょっとしたアイコンタクトや掛け合いをしながら、流麗な音の渦に心地よく泳いでいたMISIAの表情が、それを物語っているといえる。

 現状況下では、観客が身体中からエネルギーを発散させるようなライヴは難しいが、ブルーノート東京というかなり演者を身近に感じられる環境にて、良質な歌と音のシャワーを潤沢に浴びることが出来た、貴重なステージとなった。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION~S.T.E.P(Band Only Instrumental / Original by Takuya Kuroda)
01 CASSA LATTE (*MSJB)
02 Mercy Mercy Me(Original by Marvin Gaye)
03 What A Wonderful World(Original by Louis Armstrong)
04 さよならも 言わないままで(New Song)
05 眠れぬ夜は君のせい
06 Everything (*MSJB)
≪ENCORE≫
07 陽のあたる場所 (*MSJB)
(*MSJB): song from album『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』

<MEMBER>
MISIA(vo)

Takuya Kuroda / 黒田卓也(tp)
Ryoji Ihara / 庵原良司(sax)
Shigetaka Ikemoto / 池本茂貴(tb)
Takeshi Ohbayashi / 大林武司(key)
Kunpei Nakabayashi / 中林董平(b)
Tomo Kanno / 菅野知明(ds)


◇◇◇

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