
日本のファンキー・グルーヴの頂点。
久保田利伸の25周年記念となるツアー<25th Anniversary TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR”Gold Skool”>のNHKホール公演、その2日目を観賞。
構成は昨日とほぼ同じ。異なるのは、観客にリクエストを募ってちょっとだけ歌うコーナーで「Love Reborn」を歌ったくらいか。
これはいまさら言うことでもないが、久保田利伸のステージは、久保田自身はもちろん、それをサポートするバンド・メンバーとシンガーたちが素晴らしい。盟友・柿崎洋一郎をはじめ、フィリップ・ウー、ラルフ・ロールらが創り出すサウンドは、決して観客を裏切らない。今回新たに入ったメンバーでは、鈴木渉のベースがしっかりと響き、ファンキーなビートの基盤となっていた。
そして忘れてはならないのが、(バックコーラスというより)極上のシンガーたちだ。グラミーにノミネートされたタイ・スティーヴンス、キュートな声質が魅力のフェニックスことフェリシア・グラハム、そして、久保田のステージにはなくてはならないYURIと、それぞれがソロ・シンガーとしても充分な力量を持った精鋭だ。
久保田とシンガーたちとの掛け合いの場面では、それぞれが自慢の声を披露するにつけ、久保田がいちいち「なんだよ?」「もうわかったよ!」とお手上げ状態なジェスチャーをしてシンガーたちの力量を観客にアピールするパフォーマンスもあったが、そのようなジェスチャーさえいらないほど、すでに彼らの“凄み”はコーラスする度に観客から歓声があがることですでに証明済みであった。サビのフレーズでは久保田の声よりも際立っていた曲もあり、歌唱には自信を持って聴かせられるものがあると承知しているからこそ、シンガーとしての信頼があるからこそ、彼らだけでのパフォーマンス・セクションを設けているのだろう。主役の久保田がステージから一旦いなくなっても、彼らに任せればしっかりとしたソウル、ファンクといったグルーヴで観客を楽しませることが出来る……歌唱に裏打ちされた自信がそこにはあった。
それにしても多彩なステージだ。「流星のサドル」などハイテンションな興奮を呼ぶ懐かしい曲もあれば、ダンサーやシンガーたちのパフォーマンスを絡めながらステージ右端に置かれたソファをニューヨークのラウンジに見立てた「Wednesday Lounge」などのトゥデイズ・ミュージックの心地良さを体現した曲もあり、YURIを日本版キャロン・ウィラーに抜擢してムーディに迫るグローヴァー・ワシントン・Jr.のカヴァー「just the two of us」、ブラック・ミュージックの要素としては欠かすことの出来ないメイク・ラヴァーをダンサーたちと披露した「Rn'B Healing」、切なさが滴り落ちるようなバラード「声にできない」など、久保田の間口は本当に広い。アンコールで魅せた「TIMEシャワーに射たれて」から「TAWAWA ヒットパレード」へのメドレーは、当時こそしっかり受け入れられたとは言い難いが、振り返ると、日本の歌謡界、J-POP界に一つの風穴を開けた契機になった“早過ぎた”名曲であったと思えてならない。それを埋もれさせることなく時を重ねているのは、久保田の先見性や洞察力、信念などが正しかったことの証左だ。まさに現代の日本の音楽シーンへの功績者といえる。その“功績者”が、いまもなおバリバリの現役でパフォーマンスしているところが、何より素晴らしい(それに続く明確なフォロワーがなかなか見当たらないのは残念なことではあるが)。
もう一つ素晴らしいことは、押し付けがないこと。遊びがあることだ。今回は披露していないが「You Were Mine」でスティーヴィー・ワンダー「アナザー・スター」のフレーズを盛り込むように、イントロ、ブリッジ、アウトロでチラッとソウルやファンクの名曲のフレーズを組み込んでくるあたりは、観客もメンバーもそして自身も“楽しむ”ことを念頭に置いているからこそのアレンジだろう。また、1曲1曲それぞれの強い思いを歌唱に託すアーティストも多いなかで(それが悪いことでは決してないが)、久保田はまずは“パーティ・ピーブル”になることを優先している。純粋にみなが楽しめるグルーヴを限られた空間のなかに創り出そうとしているところに、彼のステージの良さがあると思うのだ。だからといって、メッセージがないということでは決してない。直に言葉にすれば容易いが、彼らは多くを語らず、その思いをサウンドや歌唱にサラリと含めて、聴き手の心それぞれに宿し感じてもらうスタンスなのだ。だからこそ、1楽曲、1フレーズに(どのようなベクトルでも)重みが感じられるのだと思う。想いが凝縮されているのだ。
ただ、個人的にはパーフェクトなステージで言うことは何もない、という訳ではない。もちろん、これは曲や聴き手の趣向による部分が大きいが、どちらかというとアッパーな方を好むものとしては、これでもかというくらいにファンキーな楽曲を連ねて大団円を迎えるという展開であれば、なお良かったかなとも思う。たとえば、「just the two of us」からはじまり「声にできない」までの比較的ゆったりとしたムードの流れの後に、DJ MIX、「流星のサドル」を配して「LA LA LA LOVE SONG」~ラストへと繋げれば、いっそうヴォルテージも揚がるのではないか。ただし、そのエネルギーは相当なものだから、演者たちは大変だと思うが。
逆に言えば、そのような展開でなくとも、メロウだろうがミディアムだろうが1曲単位でもしっかりと“ノレて”しまうということなのだが。気にならない人には問題ない話というところかもしれない。
ツアーは中盤戦。これからも各地でファンキーなステージが繰り広げられることだろう。そして、来年の1月にはさらにグレード・アップしたアニヴァーサリー・パーティ“Party ain't A Party!”が代々木第一で行なわれる。その前の11月23日には25周年記念ベスト『THE BADDEST~Hit Parade~』がリリース。ファンにとっては、しばらくの間、ファンキーがTAWAWAな音空間で満たされそうだ。
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<SET LIST>
00 Introduction
01 Jungle Love
02 北風と太陽
03 Winds
~Flashback 25Years~(Short ver. Medley)
04 Candy Rain
05 雨音
06 一途な夜 無傷な朝
07 夜に抱かれて~A Night in Afro Blue~
08 the Sound of Carnival
(MC)
君に会いたい(Only 1 Phrase)
Love Reborn(Short ver.)
09 Wednesday Lounge
10 MAMA UDONGO~まぶたの中に~
~Singers Show Section~
11 Mercy Mercy Me(Main Vo. Ty Stevens)(Original by Marvin Gaye)
12 Square Biz(Main Vo. Fenix)(Original by Teena Marie)
13 Mercy Mercy Me(Including phrase of“What's Goin' On”)
14 Missing
15 ~Flashback 25Years DJ MIX by DJ MASS~
Never Turn Back
Breaking Through
Sunshine Moonlight
Messenger's Rhyme-Rakushow, it's your show!-
Soul Mate~君がいるから~
Give Your My Love
Dance If You Want It
AHHHHH!
SOUL BANGIN'
16 流星のサドル
17 just the two of us(Duet with YURI)
18 Rn'B Healing
19 夢 with you
20 声にできない(Japanese ver.)
21 LA LA LA LOVE SONG
22 流れ星と恋の雨
23 LOVE RAIN~恋の雨~
≪ENCORE≫
24 Singers's Intro
25 TIMEシャワーに射たれて~TAWAWA ヒットパレード(Including“Toshi Kubota 25th Anniversary Special Magic Show”;BGM“El Bimbo”by Paul Mauriat)
26 Tomorrow Waltz
<MEMBER>
久保田利伸(Vo)
柿崎洋一郎(Key/Talkbox)
Philip Woo(Key)
Ralph Rolle(Ds)
大西雄介(G)
鈴木渉(B)
DJ MASS(Turntable)
Ty Stephens(Cho/Vo)
Fenix a.k.a.Felicia Graham(Cho/Vo)
YURI(Cho/Vo)
MIHO BROWN(Dancer)
Kae The Funk(Dancer)
Ricky(Dancer)
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