
まだまだ進化し、躍動する37歳。
やはりするべきことをしっかりと積み重ねていれば、重ねた年数だけ熟成と旨味が増していくのだろう。MISIAの恒例の“星空ライヴ”、今回は“LAWSON presents MISIA 星空のライヴ VIII MOON JOURNEY”として8月末の沖縄まで続くが、その東京国際フォーラム公演の2日目のステージを観賞。東京では既に5月に3公演行なわれており、5公演開催される東京公演としてはこの日のステージがファイナルとなった。
ちなみに、これまで観賞したMISIAの公演は次のとおり。(リンク先で記事が読めます)
・2005/03/20 MISIA@さいたまスーパーアリーナ
・2007/02/03 MISIA@横浜アリーナ
・2007/02/04 MISIA@横浜アリーナ
・2007/08/29 MISIA@東京国際フォーラム
・2007/09/23 MISIA@ZEPP TOKYO
・2008/01/06 MISIA@代々木第一体育館
・2008/01/20 MISIA@さいたまスーパーアリーナ
・2009/01/17 MISIA@日本武道館
・2009/02/08 MISIA@横浜アリーナ
・2010/02/14 MISIA@横浜アリーナ
・2011/04/09 MISIA@NHKホール
・2011/05/03 MISIA@神奈川県民ホール
・2012/02/19 MISIA@横浜アリーナ
・2012/07/08 MISIA@東京国際フォーラム
・2013/03/24 MISIA@東京国際フォーラム
・2014/01/19 MISIA@日本武道館

正直に言えば、それほど“星空のライヴ”には思い入れがなかった。MISIAのライヴへ行き始めた当初はアルバム・タイトルを引っ提げてのツアーが主軸としてあって、”星空のライヴ”はそのアナザー・サイド的な位置付けのツアーというイメージ。アコースティックな色合いの強いバラード中心の構成の印象が強く、これは個人的な嗜好でしかないが、R&B、ヒップホップやハウス、クラブ・ミュージック的な面からMISIAを追いかけた者としては、それほどオーセンティックなバラードを歌う彼女への思いは強くなかったのが本音だ。
もちろん、実際ライヴへ足を運ぶと彼女が歌う熱量の高さに驚きを覚え、その歌唱力や表現力に感嘆することしきりなのだが、それゆえ「この歌唱をもっと黒っぽい楽曲で聴けたら」という想いが募り、圧巻のステージを見せつけられながらもどことなくモヤモヤが抜けないもどかしい感情を携えて会場を後にすることも、この“星空”には少なくなかった。
MISIAのデビュー当時は、記憶が確かならば、当時TBS系の深夜ニュース番組『NEWS23』などでも特集が組まれたほどインパクトがあったが、やはり今の彼女のファンの多くを占めているのは松嶋菜々子主演ドラマ『やまとなでしこ』主題歌となった「Everything」以降だろう。そのビッグヒットなくして今の彼女の地位はないと思うが、このメガヒットが必要以上に“バラードのMISIA”というイメージを植え付けたのも事実で、その功罪は思いの外大きかったということを実感している。彼女がバラードを望むならいざ知らず、“MISIAのバラードなら間違いない”という安易な提言に耳を傾けなければならなかったこともあっただろう。
そのような葛藤が毎回あるなか、彼女の誕生日の翌日の東京公演最終日に向かったのだが、今回はこれまでの“星空のライヴ”の印象を変えるようなグルーヴがズシリと伝わってきた。バンドマスターの重実徹をはじめ、ギターの山口周平、吉田サトシ、ベースの日野“JINO”賢二、ドラムのTomo(Tomoaki Kanno)、コーラス隊のHanah Spring、Lyn、吉岡悠歩といった面々が、この日のステージの鮮やかな色彩感覚でグルーヴとパッションを築き上げていく。
それはさまざまな場面で窺えるのだが、解りやすいところでいえばコーラス隊だ。Hanah Spring、Lynの引き続く面子に吉岡悠歩が加わった。以前は澤田かおりなどが務めていたが、男性ヴォーカルを一人加えることで、コーラスにソウルフルな厚みが増した。吉岡はNao Yoshiokaのコーラスとしても名を連ねていて、Lyn、澤田かおりらとは共演経験もあり、そのツテでコーラスに選ばれたのだろう。ギターの吉田サトシ(以前、AIのツアーでもギターを弾いていた)はHanahの制作やレコーディングにも参加しており、ソウル・ミュージックと親和性が高い人選は、MISIAの根底にあるブラック・ミュージックへの意識が薄れていないことの証にも見て取れた。
MISIAの衣装チェンジの際にHanah Springがメイン・ヴォーカルを執る「恋のブギ・ウギ・トレイン」(山下達郎のアン・ルイスへの提供曲)を経て披露された「LUV PARADE」では、途中にスティーヴィー・ワンダー「可愛いアイシャ」やジャクソン5「帰ってほしいの」を挟んできたのだが(シスター・スレッジの「ウィー・アー・ファミリー」もどこかで入れてきた)、洋楽カヴァーを頻繁に歌わないことが多いMISIAのステージとしては、なかなか珍しいのではないだろうか。もちろん、コーラス陣のなじみの楽曲を加えて、コーラス隊が映える場面を作る意図はあったのだろうが、そこにはそれ以上の「私の好きな音楽の根幹は失っていないわ」というメッセージに思えて、少しばかり胸が熱くなった。
ステージは“星空のライヴ”らしい静寂の中で歌声が響くバラード、ソウルフルなグルーヴが横溢するファンキー・アップ、破顔一笑なリズミカルなポップ、情熱的でメランコリックなミッドなど、新旧含めて多種多彩な構成。
彼女が20代前半に歌い、東京では久しぶりだという代表曲「Everything」は37の年輪とともに生まれた豊かな心理描写でじっくりと、MC紹介を含めた「Royal Chocolate Flush」や「めくばせのブルース」では心の襞に隠れていた恋の熱情を燃やし、『NEW MORNING』からの「Re-Brain」「HOPE & DREAMS」ではフレッシュかつ生命力たぎる熱演で観客のヴォルテージを高めていく。
楽曲ごとにコロコロと表情を変え、静と動、喜怒哀楽それぞれを異にしてはいるが、どの楽曲でもつぶさに感じられるのは、歌えることの楽しさや素晴らしさをMISIA自身が実感しているということ。音楽という共通言語によって観客やスタッフ、それ以外にも自身の楽曲によって何かしらの影響を与えられることに、心底からの喜びを得ているのだろう。その表情や態度を眼前にした観客もまた、彼女の姿から喜びを得る……MISIAのライヴの魅力はそういった連帯のパワーにも備わっているのだ。

アンコール明けには長年の友人だという清水ミチコが登場。黒柳徹子をはじめ得意のモノマネを駆使しながら軽快なトークと演奏を披露。松任谷由実、美輪明宏、矢野顕子&忌野清志郎の楽曲を声真似しながら、楽しく聴き入らせる。これもまたプロフェッショナルなステージだ。
清水ミチコ、新宿ロマン座とのコラボレーションでの「この素晴らしい世界」を披露した後は、未発表曲を2曲。いつも以上にコール&レスポンスの熱度が高かった「あなたにスマイル:)」、そして「もう1曲やっていいですか」との前フリからこのライヴのタイトルと見事にシンクロする「流れ星」へ。ステージのフィナーレとして存分な深淵な空間で、観客の心を洗い流していった。
その達成感と充実ぶりは、バンド・メンバーたちの弾けるような笑顔と挨拶終了後、MISIAが最後一人となってステージアウトする直前にBGM「あなたにスマイル:)」に乗せて突如歌い出し、レスポンスを促した“サプライズ”にも表われていた。
それまで凝り固まりかけていた“星空”への先入観がポロポロとはがれていった、バースデー・アフターの夜だった。

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<SET LIST>
01 桜ひとひら
02 陽のあたる場所
03 Royal Chocolate Flush
04 めくばせのブルース
~MC~
05 明日はもっと好きになる
06 真夜中のHIDE-AND-SEEK
07 逢いたくていま(acoustic ver.)
~MC~
08 Everything
09 花
10 白い季節
11 恋のブギ・ウギ・トレイン(Hanah Spring Vocals)(Original by Ann Lewis/Tatsuro Yamashita)
12 LUV PARADE(Including phrase of“Sir Duke”“I want you back”“We Are Family”)
13 Color of Life
14 Re-Brain
15 HOPE & DREAMS
≪ENCORE≫
~Michiko Shimizu Show~
ノーサイド(Original by Yumi Matsutoya)
ヨイトマケの唄(Original by Akihiro Miwa)
ひとつだけ(Original by Kiyoshiro Imawano×Akiko Yano)
16 What a Wonderful World(guest with Michiko Shimizu, Shinjuku Romanza)(also known as Louis Armstrong singing)
17 あなたにスマイル:)
~MC~
18 流れ星
<MEMBER>
MISIA(vo)
Toru Shigemi(key)
Shuhei Yamaguchi(g)
Satoshi Yoshida(g)
Kenji“JINO”Hino(b)
Tomoaki Kanno(ds)
Hanah Spring(cho)
Lyn(cho)
Yuho Yoshioka(cho)
Michiko Shimizu(key,vo)
Shinjuku Romanza(acc., Ob.)
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