*** june typhoon tokyo ***

一十三十一@billboard Live TOKYO


 ハプニングもサプライズへと変化した、アーバン・メロウな15周年記念のステージ。

 2002年3月21日にシングル「煙色の恋人達」でデビューした一十三十一。そのデビュー15周年を記念したアニヴァーサリー・ライヴ〈15th Anniversary Special〉が恒例となったビルボードライブにて開催。バンドマスターの奥田健介をはじめ、同じノーナ・リーヴスから小松シゲル、デビュー以前から共演していたという南條レオ、そして、冨田謙にヤマカミヒトミというお馴染みのメンバーに、親交深いKASHIFをゲストに迎えてのスペシャル・ナイト。バンドメンバーに遅れて、背中の縦のラインが大胆に空いた鮮やかなオレンジ系のセクシーなドレスに身に纏った一十三十一が颯爽と現れると、15年の軌跡を辿るステージが華やかに幕を開けた。

 最新アルバム『ECSTASY』からの「Flash of Light」を皮切りに、これまでのアルバムからほぼ1曲ずつと、コラボレーション作品の中から冨田ラボ feat. 一十三十一名義の「夜奏曲」、一十三十一が“21歳の美大生ヴォーカリスト、江口ニカ”として参加した流線形(クニモンド瀧口)『TOKYO SNIPER』から「スプリング・レイン」を加えた、15周年を足早に振り返るにふさわしい選曲で、ただでさえアーバンな雰囲気の六本木・東京ミッドタウンを、いっそうエレガントでモダンに彩っていく。



 前半に配してきたのは懐かしい楽曲。2004年の1stミニ・アルバム『フェルマータ』収録の「DOWN TOWN」からデビュー曲の「煙色の恋人達」、彼女の代表曲の一つでもある2006年の6thシングル「ウェザーリポート」、さらには2005年の2ndアルバム『Synchronized Singing』収録の「プラチナ」という流れは、初期からのファンには嬉しいセレクト。「DOWN TOWN」では“38億年ずっと 今夜のKISSのために 夜を越えて”というラストのフレーズについて、昨年に東大が39億5000万年前の生命の痕跡を発見したニュースになぞらえて、「いままで38億年と歌ってきたけれど、これからは“39億5000万年~”と歌わなくちゃいけない。リズムが難しい……」といいながら、奥田や南條に“ちょっと歌ってみて”と無茶ぶりするなど、相変わらずの独特のペースで展開するMCを微笑ましく聞き入るオーディエンスという構図は、これぞ“一十三十一のステージ”という一面の一つ。そのような和やかな会話を随所に挟みながら、上質なポップネスを繰り出していくスタイルも、ステージを心地良いムードにさせていくから面白い。

 中盤からは近年の作品のなかでも代表曲となりつつある「DIVE」、ホイチョイオマージュの“Surfbank”“Snowbank”の『Social Club』シリーズからはKASHIFを呼び込んで、「Last Friday Night Summer Rain」「Awakening Town」に『PACIFIC HIGH / ALEUTIAN LOW』から「夏光線、キラッ。」を。鮮やかな照明が色とりどりに替わるなか、煌びやかな金曜の夜を演出するメロウなグルーヴがフロアを支配していく。
 と、ここでハプニングが。セクシーなドレスに“緊急事態”が発生したことで一度ステージアウトし、“お直し”してから本編ラストの「ロンリーウーマン」へ。ただ、これが後に起こる“序章”でしかなかったのは、知る由もなかったが。



 アンコール後は「みんなが好きなこの曲をやっチャウチャウ」とのフリから“江口ニカ”として参加した流線形『TOKYO SNIPER』より「スプリング・レイン」を。ここでステージ奥のカーテンが開き、いっそうアーバンなムードを加速させる演出に、フロアからは思わず声も上がる。そして、再度KASHIFを呼び込み、近年はライヴのトリを飾る定番曲となってきたダンスの振り付けもキュートな「恋は思いのまま」へ。だが、イントロで踊っている最中に先ほどの“緊急事態”が再燃。再び“お直し”に戻って、気を取り直して……となるも、踊り始めるとやはりドレスを背中で止めていた部分がしっくりこなかったようで(彼女いわく“運命共同体”のドレスらしい)、「ホントにゴメン!」の言葉を残して2、3度ステージの往来を繰り返すことに。最初は奥田に「話で繋いでおいて」と言い去っていたが、2、3度続くとそう声を掛けている余裕もなくなり、それを察知してか奥田と南條の「何か一曲やるか」の声にバンドメンバーが反応。即興でインスト・セッションを始めるという思ってもみない展開は、ハプニングから15周年記念ライヴならではのスペシャルなサプライズへと変貌。普段はおっとり、天然なムードの一十三十一もさすがに最後は焦って戻ってきたが、それが良い方向にフロアの熱気を高め、ラストはスタンディングでの「恋は思いのまま」で、笑みが絶えないなかでのエンディングとなった。



 それほど濃厚という訳ではないが、軽やかに15年の軌跡を振り返った1時間強。近年は特にシティポップ作風に傾倒している彼女だが、当初はデビュー曲「煙色の恋人達」ではJazztronikこと野崎良太が、「ウェザーリポート」は熊原正幸というハウス系を得意とする面子がアレンジメントを務めるなど、やや音楽性にも違いがみられた。個人的にはどちらかといえば、ハウス的なアプローチやグルーヴを活かした初期のサウンドに食指が動くが、グルーヴというよりポップネスを重視した近作になっても彼女の音楽に耳を傾け続けているのは何故だろうと考えながらステージを観ていたが、どうやらそれは彼女が持つ独特の歌唱の“間”にグルーヴを感じているからかもしれない。

 初期はソウルやファンク、ジャズなどの要素が強かったが、彼女自体ファットなボトムに対抗するほどの声圧があるタイプではないし、喉のポリープによって一時歌手活動休止の時期もあったゆえ、今は特に高音が出しづらそうにも聴こえることがままある。“媚薬系”と呼ばれる声質は彼女が描き出す音楽性に深い浸透力を生み出しているとは思うが、それ単独だけでは大きく惹かれる要素でもなかった。ただ、一聴すると繊細でタフでなさそうなヴォーカルワークも、実は多く揺らぎを持ちながらも意外としなやかで芯の強さがあるから彼女のヴォーカルの“色”を持続させることが出来るし、その上で彼女が持つ独特の“間”がポップネスと密な親和性を有する歌唱と絶妙に重なり合い、魅惑のグルーヴを表出させているということなのだろう。
 彼女が敬愛する山下達郎や音楽性を継承している松任谷由実も、歌唱力や表現力の差異はあれども、サウンドに負けない(音圧という意味ではなく、訴求力という意味で)強さを持っている。一十三十一もどの曲においても彼女らしさが失われることがない存在感をその歌唱に秘めていて、ブレがない。それが独特の“間”、グルーヴに繋がっているのだろう。その心地良さを求め、彼女のライヴへ足を向けさせるといってもいい。もちろん、それをより強く感じさせる彼女のソングライティングやKASHIFやDorian、クニモンド瀧口ほかのプロデュース陣、釉(うわぐすり)をかけ、焼き、乾燥させながら陶磁器を作り上げるかの如く一十三十一サウンドに幾重にもアレンジという名の“細工”を重ねるバンドメンバーらの相乗効果によって、その“魅惑”の素地が出来上がっているのは言うまでもないが。



 無粋なことをいうと、彼女はこれまでヒットチャートにはまったく恵まれていない。今や形骸化が著しいオリコンチャートにおいてではあるが、当初はシングルはランク圏外、アルバムも好アクションとは言い難い。ただ、近作は40~60位台を推移。プロモーション含め勢いのあった初期から10年以上を経て伸びてきているのは、彼女の楽曲やパフォーマンスがしっかりと評価されてきている証拠でもあるだろう。アンコールを終え「20年も30年も(アニヴァーサリー)やるので、ついてきてください」と話して終えたステージ。いまの制作陣、バンドメンバー、楽曲性、そして彼女のオリジナリティが有機的に絡み続けていれば、20年、30年も必ずアーバンな夜を迎えることが出来るはずだ。
 今夜は大胆なドレスゆえのハプニングもあり、客席もほぼ満員。忘れ得ぬ15周年アニヴァーサリーとなった。


◇◇◇
<SET LIST>
01 Flash of Light(from『ECSTASY』)
02 DOWN TOWN(from『フェルマータ』)
03 煙色の恋人達(from『360°』)
04 ウェザーリポート(from『TOICOLLE』)
05 プラチナ(from『Synchronized Singing』)
06 夜奏曲(Original by Tomita Lab feat. hitomitoi)
07 DIVE(from『CITY DIVE』)
08 Last Friday Night Summer Rain(guest with KASHIF)(from『Surfbank Social Club』)
09 Awakening Town(guest with KASHIF)(from『Snowbank Social Club』)
10 夏光線、キラッ。(guest with KASHIF)(from『PACIFIC HIGH / ALEUTIAN LOW』)
11 ロンリーウーマン(from『THE MEMORY HOTEL』)
≪ENCORE≫
12 スプリング・レイン(Original by 流線形)(from『TOKYO SNIPER』)
13 恋は思いのまま(guest with KASHIF)(from『CITY DIVE』)

<MEMBER>
一十三十一(vo)

奥田健介(g)
南條レオ(b)
冨田謙(key)
小松シゲル(ds)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)

Special guest:
KASHIF(g)


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【一十三十一のライヴ観賞記事】

・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO(本記事)

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