※ ネタバレを含みますので、予めご了承の上、ご自身のご判断で閲覧ください。
芳醇な声色と躍動するグルーヴで染める、美しき聖夜の刻。
クリスマスイヴとクリスマスの両日となったのはまったくの偶然とのことだが、その日程を聞いた東京近郊のファンは歓喜に沸いたことだろう。2015年の『L.O.K』以来約4年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Beautiful People』を引っ提げての久保田利伸のコンサートツアー〈TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2019-2020“Beautiful People”〉の東京国際フォーラム公演は、サンタクロースのコスチュームやクリスマスツリー、そしてクリスマス・ソングも飛び出した、聖夜仕様でのステージとなった。年の瀬押し迫るウィークデー、さらにはクリスマスという忙しいシチュエーションをものともせず、フロア一杯に集った“ビューティフル・ピープル”が久保田による聖夜の音楽の饗宴を堪能した。
バンド・メンバーは、久保田のステージの勝手知ったる面々が再集結。2015年の前作アルバムを引っ提げての〈L.O.K〉ツアーではラルフ・ロールがドラマーとしてエントリーしていたが、2017年の豊洲PIT公演でのFuyuに続き、最善を尽くしたもののスケジュールが合わなかったということで、白根佳尚をドラマーに起用。それ以外はほぼ前回を踏襲した万全の布陣だ。圧倒的な歌唱力を誇るバックシンガー陣も久保田が“東洋一”と称するYuriをはじめ、タイ・スティーヴンス、ニッキー・J.ことジュニーク・ニコルの馴染みのトリオ。ダンサーは振付・演出を担当するRICKYほか、Shanita、Ririの3名が、時には左奥に配された螺旋階段を用いながら、ステージを所狭しとパフォーマンスしていく。
定刻を10分ほど過ぎての開演前には、紅白のサンタ帽を被ったDJ大自然がステージ上のターンテーブルに陣取り、ゴキゲンなディスコ、ファンキー・ナンバーをプレイ。観客全員という訳ではないが、ところどころ立ち上がって身体を揺らす人たちも。久保田登場まで待ち切れず、じっとしていられない胸の高鳴りをダンスやクラップで消化していたようだ。ラストにはダニー・ハサウェイの名クリスマス・ソング「ディス・クリスマス」をプレイ。次第に観客のクラップの音も大きくなるなかで暗転。“ビューティフル・ピープル”たちによる聖夜の宴の幕が上がった。
アルバム・タイトル&ツアー・タイトルになっている“Beautiful People”は、文字通り“美しい人”ということもあるだろうが、久保田のライヴを観たことがある人にとっては“Party People”“Funky People”などとともに曲中や曲終わりなどに久保田が叫ぶフレーズとしてお馴染み。序盤のMCへの導入(バラードやメロウな楽曲に入る前)で“〇〇に集う~、Beautiful People~”(〇〇は会場名)と歌うフレーズとしても登場する、ある種久保田と観客とのコミュニケーションツールといってもいい言葉でもある。そのキーフレーズは随所に登場してきて、アルバム『Beautiful People』の冒頭曲でもあるイントロダクション的な「Beautiful People ~Foreplay~」のタイトル、続くリズミカルなファンキー・アッパー「JAM fo' freedom」でも“どっち向いてもBeautiful People”と歌われていく。
詳しい事例は述べなくとも「外見も年齢、性別も、考え方も違う、そんな人たちが音楽というツールを通じて分かり合える、共感出来る、一体になれる。十人十色、誰もが異なる美しさを持ち、みんな違って、それでいい。それを体現出来るのが“Beautiful People”なんだ」というメッセージを、押しつけがましくなく意識のもとに忍ばせていく。長きにわたって音楽活動を継続し、海外でもさまざまな人たちと交流した久保田ゆえ、単なるキャッチフレーズではない、重みと説得力が感じられた。
ステージは『Beautiful People』収録曲を全編に万遍なく配しながら、人気曲などを散りばめていく構成。いくつか印象的だった光景があったのだが、「雨音」ではステージ台が回転するとともに夕陽や黄昏を思わせるオレンジのライティングが美しく、派手な楽曲ではないながらも琴線に触れる演出に。久保田のヴォーカルスキルが横溢する全編ハイトーンの「Free Style」や品の良い陽気なリズムの「You Go Lady」といったポップな楽曲を挟んでからのTKクラシックス「Missing」という抑揚に富む展開のなかで披露したのが、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」。
元来はJUJUのジャズ・アルバム『DELICIOUS ~JUJU's JAZZ 3rd Dish~』に収められたJUJUと久保田のジャズ・カヴァー曲だったが、これまでレゲエ(『KUBOJAH』)やボッサ(『KUBOSSA』)などの“パラレル・ワールド”シリーズを展開してきた久保田がジャズというアプローチに触発されたようで、JUJUとのコラボレーションを機に、ライヴでもそれを披露することに至ったとのこと。「今日はJUJUは呼んでいませんけれども」と前置きして指名したのが、久保田が全幅の信頼を置くシンガーのYuri。儚さとアンニュイを身に纏ったJUJUとはまた異なる、哀愁とそのなかにある羨望のような感情を帯びたソウルフルなデュエットで、ステージに“陰と陽”とをもたらしていく。
そのYuriたちバックシンガーによる久保田のライヴ恒例のバックシンガー・セクションでは、タイ・スティーブンス、ニッキー・J.、Yuriがそれぞれの色で熱唱。とはいえ、ソウルフルなヴァイブスが通底する彼らゆえ、歌唱スタイルは異なるのに曲展開にバラつきが全くないのが“実力者”たちということなのだろう。タイがソウルフルな下地付けをし、ニッキーの「(ユー・メイク・ミー・フィール・ライク)ア・ナチュラル・ウーマン」から一気に急上昇するYuriの「シンク」というアレサ・フランクリン・メドレー。拳を高く突き上げての“フリーダム!”というパワフルかつエネルギッシュなヴォーカルには、久保田がステージアウトしているということを忘れさせてくれるくらいの熱量が漲っていた。
後半はノレる楽曲を集め、ファンクネスを強調。“ポン・ポン・ポロンポンポン…”のフレーズでCMなどでも大いに耳にした「Bring me up!」などを絡めながら、『Beautiful People』楽曲を繰り出していく。ライヴでは初見という観客も多いはずだが、それでもフロアの熱量が高まっていくのは、久保田のパフォーマンスもさることながら、ダンサー、シンガー含めてこのバンドクルーが高水準でファンク、ソウルを体現していることに他ならない。ファンク特有の“クドさ”というよりもどちらかというとポップなスタンスに寄せている今作アルバムだが、そのポップネスが悪い意味でのチープに陥らないバランス感覚が、ステージでもしっかりと具現化されているということなのだろう。
アンコールのクラップが鳴りやまないなかでステージ中央奥に登場したのは、デコレーションしたクリスマスツリー。サンタクロースのコスチュームをしたメンバーが続々とステージに現れるなか(ベースの森多聞はトナカイのカチューシャ姿、ダンサーのRickyはトナカイの着ぐるみで、最後のカーテンコールでは久保田に“トナカイ!”と紹介される場面も)、ライヴでお馴染みのアンセムに続いて披露したのは、“Chestnuts Roasting on an Open Fire”で始まるナット・キング・コールの歌唱で有名な「ザ・クリスマス・ソング」。聖夜だからこその楽曲をこの日のために組み入れて、スペシャルな日にこの会場へ訪れるという選択をした観客たちへの感謝の意を示してくれた。アウトロに「ジングルベル」の一節を加えたアレンジも、心をほっこりさせる演出に。
クライマックスはフロアが掲げられた手の波で覆われる久保田のビッグヒッツ「LA・LA・LA LOVE SONG」から「もう一曲歌います」と告げて『Beautiful People』よりミディアム・メロウ「その人」をシンプルに爪弾かれるギターとともに。楽曲の世界観とは異なるものの、フックの最後の“会えてよかった”のフレーズが観客たちへの想いにも聴こえて、心地よい余韻を残すエンディングとなった。
ずっと変わらない信念を表わしている言葉の一つが“Beautiful People”とすれば、それを衒いなくやり続けるバンドクルーには感嘆するしかない。しかしながら、一貫したことを継続することがマンネリにも繋がるのではという意見もあろう。ただ、それは心配に及ばず。愛すべきマンネリ(たとえば「Missing」「LA・LA・LA LOVE SONG」)はその都度アレンジやステージのテーマによってアプローチを変える一方、フレッシュな音鳴りで鮮度を逃がさない常にアップデートした意識が浸透している。その精度を辣腕バンドとバックシンガーが高め、視覚ではダンサーが印象的なパフォーマンスによって、ステージに濃淡と輪郭というメリハリを生み出していく。
2020年はデビュー35年目を迎える久保田利伸。十二分に実績を重ねながらも、また新たな“仕掛け”を考えているとのこと。“Beautiful People”からの刺激を受けながら動き続けるその先に、さらなる期待を寄せるばかりだ。
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<SET LIST>
00 DJ SECTION by DJ DAISHIZEN~INTRODUCTION
01 Beautiful People ~Foreplay~(*BP)
02 JAM fo' freedom(*BP)
03 Club Happiness
04 So Beautiful(*BP)
05 LIFE(*BP)
06 雨音
07 Free Style
08 You Go Lady(*BP)
09 Missing
10 Englishman in New York(duet with Yuri)
~Back Vocalists Section~
・
・ (You Make Me Feel Like)A Natural Woman(Original by Aretha Franklin)
・ Think(Freedom)(Original by Aretha Franklin)
11 MAMA UDONGO~まぶたの中に…~
12 Make U Funky(*BP)
13 2 Beatz(*BP)
14 Bring me up!
15 FUN FUN CHANT(*BP)
16 LOVE RAIN~恋の雨~
≪ENCORE≫
17 TK PARTY'S ANTHEM
18 The Christmas Song(Merry Christmas to You)(well-known for Nat King Cole's song)
19 LA・LA・LA LOVE SONG
20 その人(*BP)
※(*BP): song from album『Beautiful People』
<MEMBER>
久保田利伸(vo)
柿崎洋一郎(key)
オオニシユウスケ(大西雄介 / g)
森多聞(b)
白根佳尚(ds)
Gakushi(藤川学史 / key)
DJ大自然(DJ)
Ty Stephens(back vo)
Nikki J.(J'Nique Nicole / back vo)
Yuri(神野ゆり / back vo)
RICKY(dancer)
Shanita(dancer)
Riri(dancer)
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